-NADESICO THE AFTER NOVEL "FOR THE LOVE OF FAMILY"-

第9話 ナイトの『資格』




「う、うーん」
ハーリーが頭を振りながら眼を開いた。まだ頭がぼーっとして、いまいち思考ができない。
−むにゅ−
「ん、なんだ・・・ってうわああああ!」
おもわず飛び起きるハーリー。彼の手はルリの胸を鷲掴みにしていた。ルリは別に気がついた様子もなく静かに寝息をたてている。
「ん・・・なんですか」
ルリが眼を見開いた。ハーリーとルリの視線がぶつかった。
「ご、ごめんなさーい」
ハーリーがあわただしく部屋から駆け出した。
「ハーリー君?・・・あれ?」
よくよく考えてみると夕べミナトに酒を飲まされてからの記憶がない。よくよく見ると浴衣が乱れていた。そして枕元にいたハーリー。
「まさか・・・」
急いで服を着替え、髪を整えるのももどかしくルリは部屋を飛び出した。

−どっしん−
ルリは何かに顔をぶつけてしりもちをついた。
「ルリちゃん?どうしたのそんなにあわてて」
目の前に差し出される手。
「ユリカさん?」
ユリカにに助けられてルリは起きあがった。
「どうもすいません」
「それよりハーリー君が部屋から飛び出していったけど何かあったの?」
ルリは俯いたまま何も答えない。
「でも、ハーリー君にはお礼を言っておいた方がいいと思うよ」
「え?」
「えってことは、ひょっとして昨日何やったか覚えていないの?」
「はい」
ユリカががっくりと肩を落とした。
「あの、私何か?」
「酔ったルリちゃんとラピスちゃんがアキトに迫ってすごいことになったんだよ?」
「わ、私が?」
ルリには全く覚えがない。
「ショウさんが意識を失わせて、その後ハーリー君におぶられて部屋に運ばれたんだよ」
ルリには全然覚えがない。今朝眼が覚めたらハーリーが横で寝ていた。ということは・・・?
「すいません。ハーリー君はどこに?」
「部屋に戻ったんじゃない?」
「あ、私戻ってみます」
「ルリちゃん・・・なにかあったのかなあ」

「あああ・・・僕は一体なんて事を・・・」
とにかくルリが居ないことを確認して部屋に戻り着替えをしていたハーリーの前にラピスが起きてきた。
「・・・何をしてるの?そう言えば昨日・・・」
「うわぁぁぁぁっ!その話はやめてよお!」
「ハーリー君、戻ったの?」
コミニュケからルリの顔が映し出された。背景から今彼らがいる部屋のドアの前にいることがわかる。
「こ、こうなったら」
何を考えてるのかハーリーは緊急脱出用シューターの入口を開けてその中に身を踊らせた。普通はホテルのメインコンピューターが指示しないと動かせないのだが、さすが彼もコンピューターに関してはプロである。ものの数秒でプロテクトを解いていた。
「ハーリー君?入りますよ?」
「何故逃げるの?」
ルリとラピスの言葉に応えずに、ハーリーの体は闇の中へと消えていった。

ハーリーは一人温泉街をぬけて朝靄が立ちこめるハコダテシティの町を歩いていた。
「騎士道精神・・・ナイトになれって、その後があれじゃ僕はただのばかじゃないかあ!」
叫んだ後大きく肩を落とした。土曜の朝早いせいか、道ばたの人影もまばらだ。−ごぉぉぉぉぉ−
「ん、なんだあれは?」
道路の中心を走る路面電車だった。電車には色々なメーカーのイラストがペイントされていた。NTT、第一生命、エトセトラエトセトラ。彼の前の停留所に止まった電車にはコカコーラの缶をモチーフにした絵柄がペイントされている。車体前面と後面の方向表字幕には『2 谷地頭(YACHIGASHIRA)』と漢字と外国人用にローマ字で書かれていた。
「せっかくだから乗ってみるか」
他に行く当てもないのでとりあえず乗ろうとしたときだった。
「ハーリー君」
「どわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ルリが彼の肩に手を乗せていた。
「ど、どうしてここが・・・?」
ルリがハーリーの左腕に巻いているコミニュケを指さした。これには発信機やIDタグの役割も兼ねているので、探してくださいと言ってるようなものだった。「その・・・一緒に行ってもいい?」
「は、はい」

ロングシートに並んで座る2人、電車の中には2人しかいなかった。最も運転手は居るが、連絡用のレシーバーをつけているので2人の会話は聞こえなかった。2人の間には気まずい沈黙が流れ、ひたすら停留所を知らせるアナウンスだけが流れていた。
「ハーリー君」
「ルリさん」
意を決したように2人が口を開いた。
「その・・・」
「い、いえ実は・・・」
そこまで言って再び口ごもる2人
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ひたすら走り続ける路面電車。
ガタゴトというレールの継ぎ目を踏む音が続く。
モーター音軽やかに進む電車。
俯くルリ。
硬直するハーリー。
いかほどの時間が経ったか。
『次は松風町、松風町でございます・・・お降りのお客様は・・・』
場違いなように明るい声のアナウンス。
「降り・・・ましょうか」
やっとの思いで言葉を紡ぐルリ。
「そう・・・ですね」

2人は電車から降りて、海辺の道を歩いていた。
「お、結構いい雰囲気になりそうだ」
光学迷彩用のマントを被ったサブロウタが2人を見つめていた。このマントはセイヤの製作で、被った人間の姿を消すことができた。サブロウタだけではなく、アキト、ユリカ、セイヤ、リョーコ、ヒカル、イズミまでもが光学迷彩用のマントを被って2人の後を追ってきていた。
「ハーリー君も結構やるじゃないか」
アキトが自分のことを棚に上げて言った。
「うーん、ハーリー君もさっすがあ。ルリちゃんとハーリー君、うまくいくといいね」
ユリカが2人の姿を見つめる。
「ラブラブな一家だねえ。あ、でもラピスちゃんは?」
ヒカルが言った。
「孤独に生きる女・・・ラピス」
イズミが不気味に言う。
「うーん、でも、きっといい人が見つかるよ。ラピスちゃんの王子様が」
「ユリカ・・・」
アキトがユリカを見た。
「おい、あのバイク昨日の連中じゃないか?」
リョーコがアキトとユリカの会話に割り込んだ。見覚えのあるバイクや車の群がルリ達の側に止まった。
「あ、ほんとだ。ほらあの旗」
ユリカの言うとおり『聖舞留』の旗が取り付けられている。しかもバイクから降り立った人物は、昨日ユリカとユキナに水をかけられた挙げ句に警察へと連行されたあの男だった。

「見つけたぞ!昨日はよくもやってくれたな!」
「あなたは・・・昨日の」
「なんなんです、あなた達は」
ハーリーがルリをかばうように男の前に立った。
「よくも昨日は俺達をコケにしてくれたな。あのあと町中探したぜ!」
「町中・・・町の外の人間だと知っていたのならホテルに来ると思いました」
どうやらただむやみやたらと探し回っていたらしい。
「う、うるせえ!てめえらまとめてぶっ殺す!」
バカにつける薬はないということか。暴走族の一人がルリの手を掴もうとする。
「やめろっ!」
ハーリーが手を払った。
「なんだ、このガキ」
暴走族がハーリーの胸ぐらを掴む。
「ナイト気取りか・・・にいちゃんよお!」
そのまま彼の体を地面に投げ捨てた。ハーリーがうめき、暴走族が彼の腹を蹴った。
「ハーリー君!」
ルリが駆け寄ろうとする。
「おっと、よく見りゃけっこういい女じゃねえか」
別の男がルリの体を掴む。
「やめろっ!その人に手を出すな!」
立ち上がるハーリー。
「おっ?結構根性あるじゃねえか」
暴走族のリーダーがハーリーの前に立った。
「おとなしく・・・寝てろっ!」
別の暴走族がハーリーを殴り飛ばす。
「うわあっ!」
「へっへっへっ、ざけんなよコラァ!」
止めを刺そうとする暴走族。それを制するリーダー。
「リーダー?」
「おい、そこのおまえ。俺と取り引きしねえか?おまえがおれとタイマンで勝てたらそこの女を無事に返してやろう」
別の暴走族がルリの体を鎖で縛り付けた。
「ルリさん!」
「逃げるも戦うもおまえの自由だ。最もおまえ一人で逃げられるとは思えねえがな」
顎髭をさすりながら笑うリーダー。彼に選択権はなかった。
「ま、絶対無理だ、ひゃっひゃっひゃっ」
別の暴走族達が嘲笑した。
「ハーリー君!うっ・・・」
「よけいなことは言うなよ」
声を上げたルリの腹に別の暴走族が拳を入れた。ルリが意識を失いがっくりとうなだれる。ルリの体が近くの標識に鎖で縛り付けられた。
「やめろ!その人に手を出すな!」
「じゃあ、決まりだな」
暴走族のリーダーが指の骨を鳴らした。

「あの野郎・・・させるかよ!」
「俺の弟分に手出しはさせないぜ!」
リョーコとサブロウタが迷彩マントを脱ぎ捨てて暴走族達に突っ込んでいく。遅れてアキト、イズミ、ヒカルの三人も。
「パツ金野郎!・・・おまえら、そいつを捕まえろ!」
リーダーの声と共に新手が現れた。
「上等じゃねえか・・・だが、俺の弟分を傷つけた礼は3倍にして返してやる!」
サブロウタの放つ拳が男を跳ね飛ばした。

「うわあっ」
ハーリーの体が宙に舞った。彼は一応軍人なのでサブロウタから木連式の格闘術を教わってはいるから確かに弱くはない。しかしあくまでも同年代の人間と比べたときの事だ。ましてや体格差がありすぎた。
「どうした、つまらねえな」
「く・・・」
体を押さえながらハーリーが立ち上がる。
「守るんだ・・・守るんだ・・・守るんだ!」
「ほざけ!」
ハーリーが拳を入れようとする。しかしその手を捕まれ、再び地面にたたきつけられた。
「リーダー、こんなガキ相手にしてないでそろそろあの女かっさらいましょうよ」
「そうだな。パツ金野郎も片づけてあの女と・・・」
暴走族のリーダーがハーリーの頭を踏みつけた。踏みつけた足を高く上げる。「くたばんな!」
「く、くそっ!」
ハーリーが横に転がりつつ暴走族のアキレス健につま先で蹴りを入れた。
「う、このガキ!」
「まだ・・・まだ・・・だ」

「さて・・・なんなんだおまえらは」
この町の出身であるショウを道案内役としてホテルから出たミナト、ジュン、ユキナ、ラピス、イネスの前に聖舞留の連中が立ちはだかった。その数およそ50。
「やっとみつけたぜ!町中探し回った甲斐があったってもんだ!」
この部隊のリーダーらしい男が叫んだ。
「町中って、ここのホテルを探せば済む事じゃないの?」
イネスが呆れたように呟く。
「う・・・うるせえ!」
どうやらこっちの連中も今まで気がつかなかったらしい。
「でも、これって結構やばいわよ」
ミナトの口調にも余裕はない。
「ユキナちゃん。僕の後ろに隠れて」
ジュンがユキナをかばうように立った。
「ジュンさん・・・」
ユキナがジュンの腕を握った。
「フン・・・どうしてもやるのか?」
ショウが一歩前に踏み出した。
「余裕ありそうね。でもあなたがサイボーグ化したことでどんな能力を得たとしても・・・」
イネスが声をかけた。
「サイボーグ?」
イネスとラピスを除く一同がショウを見た。
「さがっていろ」
ショウが一歩前にでた。
「今更命乞いか?聞くつもりはないぞ!」
ショウは別に臆した様子もなく、男達を見据えた。
「リミッター解除・・・非常用フィールドスタンバイよし」
ショウが呟くように喋る。
「何をごちゃごちゃ言ってやがる!」
暴走族達がバイクに乗ったままショウに飛びかかった。
「外道が・・・否、愚かしい・・・」
ショウが片腕を前につきだした。
−ドガシャーン−
次の瞬間、暴走族達が地面に転がっていた。ショウの体には傷一つない。
「なるほど、ディストーションフィールドね」
イネスが感心したようにショウの肩に手を置いた。
「どういうこと?」
ミナトが尋ねた。
「説明するわ。彼はサイボーグ、そして彼の腕はフィールドの発生装置になっているの。フィールドは空間を歪曲させるバリア。いわば壁」
「壁にぶつかったって事?」
「そう。でもあんな大きなフィールドを発生させるのは普通じゃできない。そのエネルギーはどこから得てるの?」
イネスとミナトがショウを見た。
「答えは簡単。私の腕の中にはチューリップがあるからだ」
チューリップ、ボソンジャンプのためのゲートである。彼は小型のチューリップを作ることによりオロチの発電所からのエネルギーを義手に回すことができた。
「ち、近づきゃバリアも意味はねえ!」
ナイフやら鎖やら鉄パイプやらを持ってショウに飛びかかる男達。
「ほう、ただのバカかと思ったら少しは考える力もあるようだな。見直したよ」
ショウがどこからか刀を取り出した。
「果たしておまえ達に・・・私が斬れるかな?」
鞘を投げ捨て、刀を正眼に構えるショウ。
「調子こいてんじゃねえぞコラァ!」
飛びかかる暴走族達。
「少しは、楽しませてくれたまえ!」
飛び出すショウ。

「派手にやったわね」
イネスがあたりを見渡した。ホテル前の道路に倒れ伏す気絶した暴走族達。派手に斬られたバイク、炎上する車、その中心で息一つ乱さずに刀を納めるショウ。
「・・・殺したの?」
ラピスがショウを見た。
「まさか。峰打ちだよ」
言いながら倒れた一人の顔を叩き意識をよみがえらせた。
「ひ、ま、まいった。俺達の負けだ・・・ま、まさか殺すなんて言わないよな」
さっきまでの威勢はどこへやら。
「それはおまえ達の答え次第だ。教えろ、これで全員か?」
「ほ、他の所を探してる奴もいる。リーダーもそこにいる」
「なるほど・・・目的は?」
「お、おまえたちと一緒にいたパツ金の男と銀髪の女だ。あの女のせいで捕まったって恨んでる」
ショウの力に萎縮してか実によく喋る。
「ルリのせい?何言ってんのよ!そんなのただの逆恨みじゃない!」
怒鳴るユキナ。
「お、おっしゃるとおりです・・・」
「ショウ、ルリ達が・・・」
ラピスが言った。
「たしかにそうだな、追ってみよう。場所は分かるか?」
ラピスがユーチャリスの端末を取り出した。ルリのコミニュケを逆探知して位置を確認しようというのである。ルリの位置を示す光点が出て、町の地図が重ねられた。
「この位置からすると・・・海岸道路か」
この町出身のショウが位置を確認した。
「よし、行くか」
ショウの言葉に全員が頷いた。

PREVIEW NEXT EPISODE

よお、スバル・リョーコだ。
ふざけた奴らがでてきたぜ。だが人の恋路を邪魔する奴らは馬に蹴られて三途の川だ!
ハーリー、勝てないとわかってても好きな奴のために命を賭けられるおまえは最高のナイトだ。
俺達が行くまで、生きてろよ。
次回、NADESICO THE AFTER NOVEL "FOR THE LOVE OF FAMILY"
第10話 輝く『想い』
温泉旅行編、完結!

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