-NADESICO THE AFTER NOVEL "FOR THE LOVE OF FAMILY"-

第8話 温泉の『ダンジョン』




セイヤとサブロウタは地下水道のようなところに来ていた。ギリシャ神殿風呂にお湯を供給するポンプのそばの梯子を降りるとこのようなところに出たのだった。水の代わりに温泉が流れており、気温は大浴場と大した変わらない。上向きの階段を上る2人。
「えっと、こっちみたいだな」
サブロウタがおそらく作業員のために壁に貼られた案内板を見て言った。
「よっし、んじゃいくか」
セイヤが歩き出そうとして歩みを止めた。
「どうした?」
「いや、何か踏んづけたらしい」
−がしゃん−
突如階段がスロープになる。ただでさえ湿気のせいで滑りやすい道である。ものの見事に足を滑らすセイヤ。
「な、なんだ?うわぁぁぁぁぁ!」
「こ、こら巻き込むなあ!」
滑ったセイヤがサブロウタを巻き込んでそのまま滑り落ちた。
「ど、どうなってやがる」
「いいからとっととどけろって」
サブロウタはセイヤの下敷きになっていた。
「おお、わりいわりい」
「おいおい、ダンジョンかここは、うわっ」
立ち上がったサブロウタの足下が突如崩れた。慌てて近くのパイプに掴まるサブロウタ。
「な、何なんだここは?」

「見つけたぞパツ金野郎!」
その後、落とし穴、水攻め、吊り天井などのトラップに引っかかりながら進んだセイヤ達の後ろにさっきの暴走族達が立った。
「おいおい、まだやるのか?第一さっきとどう違う?」
サブロウタが両手を上げておどけた。
「へっ、聞いて驚け!さっきよりも10人多い!」
と、暴走族の一人がサブロウタに飛びかかろうとする。
−ぐいっ−
「なんだこりゃ?」
暴走族の一人が踏みつけたブロックが沈んでいる。
−ごん−
暴走族の頭に落ちるやかん。あっけにとられるセイヤ達。
「て、てめえらなんのつもりだ!」
「俺が知るか!」
「この野郎!」
喧々囂々とした雰囲気の中、別の暴走族が飛びかかる。
−ぼこっ。どどどどどどお−
するとブロックを踏んづけた暴走族の足場が崩れ、いきなり温泉の流れが速くなり、暴走族の一人は何処かへと流れ去った。
「て、てめえらよくも!」
言いがかりも甚だしいが、他の暴走族がセイヤとサブロウタに飛びかかる。しかし皆同じ罠に引っかかり、あちらこちらに流された。
「よっしゃ、この隙に行くぜ」
サブロウタがセイヤに耳打ちする。
「おお」

しばらく走った後。
「待ちな」
リーダー格の男がサブロウタの腕を捕らえた。
「へえ、よくここまでこれたな。ところで増やした仲間は?」
立っているのはリーダーのみだった。他の連中を犠牲にして進んだということか。
「うるせえ!だいたいてめえらだって引っかかりまくったじゃねえか!」
男の鉄拳が飛んだ。
「増やしただけ無駄だったな」
 サブロウタはそれをかがんでかわし、男の顎に立ち上がりながらのアッパーを当てた。男が吹っ飛び温泉の川に突っ込んだ。
「じゃ、いこうか」
「ま、待ちやがれ」
ゾンビのように男が川からはい上がってくる。サブロウタの足を掴み、川の中へ引きずり込んだ。
「こ、こら放せ」
「うっせえ、喰らえ!」
体勢の崩れたサブロウタの体を掴み、そのままジャーマンを喰らわせた。しかし川の水位が高かったため、サブロウタの頭をフルパワーで地面にたたきつけることはできなかった。つまり水のおかげで威力が相殺されたのである。
「ちっ」
「場所を考えて技をかけるべきだったな」
男とサブロウタが向かい合う。お互いが一歩前に踏み出した。
「とおりゃっ!」
「もらったあ!」
サブロウタの拳が男の腹を直撃した。
−ぐいっ。ごごごごご−
「な、なんだ」
「ぐほっ・・・まさかここにも罠が・・・うわっ」
突如2人の体が発生した渦に巻き込まれた。
「ぐあああ」
「ぬおおお」
渦が収まったとき、2人の姿は消え失せていた。
「ショウの仕業なのか?・・・ま、あいつの仕業なら殺すような仕掛けじゃないだろ」
一人で納得して、セイヤが歩き出した。

ルリが泡風呂に体を埋めていた。横ではユキナとユリカが世間話に花を咲かせている。思えば地球に戻ってから、いやアキト達が行方不明になってから今までずいぶんがむしゃらに生きてきたような気がしていた。彼女の胸中に去来する想い、それは・・・
「どうしたのよ、深刻な顔しちゃって」
ユキナがルリの隣に腰掛けた。ユリカもいる。
「・・・いえ、別に」
「ルリちゃん・・・アキトのこと?」
ユリカの問いにルリが静かに頷いた。
「ただ、いろいろありすぎて・・・心の整理をしたかったんです」
「深刻に考えるのはあんたの悪い癖よ。気にしない気にしない。それに、これからの楽しいことでも考えなさいって」
ユキナがルリに微笑みかける。
「ん、なんか音が聞こえない?」
「あの岩風呂のとこじゃない?」
ユキナが岩風呂の中心にあるひときわ大きい岩を指さした。そこから温泉がわき出ている。見ると少しずつ流量が多くなり始めている。
−ずどどどどどどどお−
刹那、噴火するように水が一斉に噴き出し、何かをルリ達のいる泡風呂の湯船の中へと撃ち込んだ。衝撃で水柱が立ち、雨のようにルリ達の体を覆った。
「な、なんなのおー」
ユリカが眼をこすりながら飛んできた『何か』を見た。
「な、なんなのよ、もう・・・」
ユキナが絶句した。
「さっきの暴走族みたいですね」
ルリが冷静に言った。思わず沈黙する三人。
「う・・・ぐぐ」
暴走族のリーダーが目を覚ました。
「な、なんだおまえら・・・」
思わずあたりを見渡す暴走族。
「それはこっちのせりふよお!」
ユキナが桶を投げつけた。
「喰らえ、桶攻撃!桶攻撃!」
ユキナが積まれていた桶を暴走族に次々と投げつける。
「冷水攻撃!冷水攻撃!」
ユリカがシャワーの冷水を男にかける。気が動転しているらしく、彼女らしからぬ行動だ。
「こ、こらなにしやがる!ぐえ!」
「フロントさん。女性大浴場に不法侵入者、警備を呼んでもらえますか」
ルリはさすがに怒っていても冷静で、ユキナとユリカの攻撃のとばっちりで頭にできたこぶをさすりながらフロントに連絡を入れていた。

「どわわわっ!」
サブロウタが男湯の滝風呂の頂上に出現し、そのまま流されて滝壺の近くにいたアキトの目の前に落っこちた。
「どうだい?私のダンジョンの感想は?」
ショウが笑いながら近寄った。見るとあちらこちらに気絶した暴走族達が浮かんでいる。流された先は男湯の各所であったようだ。
「・・・バカはやめろってことかい・・・ははは」
サブロウタが力無く笑った。

「ふう。どう、ラピスちゃん」
ミナトとラピスは男湯との隔壁に近いところにある滝風呂に来ていた。
「・・・」
ラピスが天井を見上げた、雲の中から白いものが落ちてくるのが見えた。ラピスが思わず手を伸ばす。
「どうしたの?」
「雪・・・・・・はっ」
ミナトの言葉にあわてて手を引っ込めるラピス。
「雪見とくれば酒だよな。どうだ、一杯」
リョーコが徳利の入った盆を片手にヒカル、イズミと共に入ってきた。リョーコがミナトに徳利を差し出す。
「あらいいわねえ。それじゃあいただこうかしら」
「ラピスも飲む?」
ヒカルがラピスにも徳利を差し出した。
「ラピスちゃんにはまだ早いんじゃない?それに暴れるかも」
「あ、でもそれおもしろそう。ねえねえ、一杯やってみない」
たしなめるミナトの横でヒカルが陽気に笑い、ラピスに猪口を渡した。
「もう」
言葉では呆れていても、結構楽しそうなミナトだった。しかしここで酒を飲むなと言わなかったことが彼女最大の失敗であることを知る由もなかった。
「ん・・・誰だっ!」
リョーコが突如叫んだ。岩の陰から妙な視線を感じたのだ。リョーコは素早く視線の元に走り寄った。さすがは軍人、水の中とはいえ動きは素早い。それに気づいた視線の主は水中に潜り逃げようとする。しかしリョーコの方が一枚上手だった。
「そこだっ!」
リョーコが拳を突き立てる。
「どわっ!」
セイヤだった。彼は何とかダンジョンをクリアしたらしい。
「てめえ、どこから入ってきやがった?」
リョーコに威圧されてセイヤは完全に萎縮している。
「い、いやあ水中に穴があってな・・・」
「ほお、それで?」
リョーコがぼきぼきと指の骨をならした。
「どこに繋がっているのかなあ・・・」
リョーコの眼が光った。
「もちっとまともな言い訳しやがれ!天誅!」
リョーコのハイキックから繋がるコークスクリューブローがセイヤの顎を直撃し、セイヤは隔壁上のディストーションフイールドを突き抜けて、盛大な水柱が上がった。あまり強力なフィールドではなかったようだ。

「・・・詰めを誤ったな」
ショウが白目をむいて浮かんでいるセイヤに声をかけた。
「はは、途中でやられて正解だったな」
サブロウタが笑った。
「まったくもう、何考えてるんですかあなた達は」
ハーリーが呆れたように言った。
「でもおまえも来れば良かったんじゃないか?無事に成功したら艦長の白い肌を・・・」
「やめてください!ルリさんをそんな嫌らしい目で見るのは!」
「お、呼び方が『艦長』から『ルリさん』に変わったのかあ」
サブロウタがにへらーと笑いハーリーの側による。
「なあ、何があったか教えろよ」
「別に何も・・・」
「なあ、あんたは知ってるだろう?」
サブロウタがアキトに声をかけた。
「うーん、いつも一緒にいるわけじゃないからなあ」
「やめてくださいよ!全く」
ハーリーが立ち上がりサブロウタを怒鳴った。サブロウタがわざとおどけてみせた。
「・・・それに、あの人の瞳の先にいるのは・・・僕じゃない」
ハーリーがアキトを俯きがちに見た。
「いや、そうでもないさ」
ハーリーの肩に手を置くアキト。
「俺は、ルリちゃんの『お兄ちゃん』以上の存在じゃない」
「え?」
「昔、まだユリカと結婚する前の話・・・そろそろ上がるか」
「はは。ま、しっかりやれよ」
アキトとサブロウタが湯船から出ていった。

「どういう・・・ことなんだろう」
風呂から上がったハーリーがホテルの休憩所でフルーツ牛乳片手にさっきのことを考えていた。
「人には、様々な過去があるものさ」
ショウがアイスクリームをかじりながら横から声をかけた。
「ショウさん、いつの間に・・・?」
「あれー、ハーリー君じゃない」
浴衣姿のミナトが2人の前に歩み寄った。片手に缶ビールを握っている。
「どうしたのよ」
「悩み多き時代・・・というところか」
「ショウさん!」
ハーリーが怒鳴る。
「はは・・・だがね」
ショウのハーリーを見る目が真剣になる。
「だが・・・?」
思わずハーリーも緊張した面もちになる。
「彼らに悪気はない。そして彼女への想いが本当なら、命を賭けてそれを貫け。騎士道精神とでもいうのかな」
「騎士道精神・・・」
「ナイトになれってことさ。それに・・・失った幸せのことを想って苦しむほど・・・辛いことはないからな」
「ショウさん?」
「がんばれよ。応援しているから」
ショウがハーリーの肩に手を置いた。
「ハーリー君、ショウさん、ミナトさんここにいたんですか。宴会場でみんな待ってますよ」
ユリカが駆けてきた。
「ごめーん。今行くところ」
「悪い悪い、もうそんな時間か」
ミナトとショウが手を振った。
「・・・幸せ、か。それは永遠に得られぬ虚構の宝なのか・・・それとも・・・」
ショウの呟きに、ユリカは気がつかなかった。

「うわー、すっごいわねえ」
ミナトが宴会場の天井を見上げた。この宴会場も透明なドームの中にあったのである。このホテルの3つのドームは一つがこの宴会場、もうひとつが大浴場、もうひとつは工事中だった。
「星を見ながら宴会かあ、なかなかいい演出だな」
ショウも感心している。
「おーい、こっちだこっちだ」
セイヤが手招きする。全員が浴衣にドテラというスタイルである。宴会場同士は2メートルほどの壁で隔てられていた。
「それではみなさんそろいましたね」
浴衣姿のユリカがマイク片手に一同を見渡した。
「それでわっ、アキトが戻ってきてくれたこと、ラピスちゃんとハーリー君が家族になってくれたこと、その他まとめて・・・」
ユリカがぐっと腹に力を込めた。
「かんぱーいっ!」
「おおーっ!」

「はいっ、ショウさんもどうですか」
にこやかにショウの杯に酒を注ぐユリカ。
「あ、ああ。ありがとう」
「どうしたんだよ。遠慮するなって」
アキトが言う。
「しかし何故私に親切にする?」
「えー、だって全部じゃないにしろアキトを治してくれたし、それに家のことまでお世話になったんですから、ホント感謝してますよ。流石ですよ」
にっこりと答えるユリカ。
「・・・・・・」
押し黙るショウ。
「ど、どうして黙るんだ?」
アキトがのぞき込む。
「い、いや気にするな。医者として当然のことをしたまでだ・・・」
ショウが取り繕うように答える。
「どうしたんですか?」
ジュンがイネスに訊いた。
「あら、知らないの。彼、治療したなんて言ってるけど実際はツインデヴァイスっていう新型の治療用ナノマシンの実験にアキト君を使ったのよ」
「じ、実験?」
「しかも成功確率は10%を下回ってたの」
「そ、それは確かに言えませんねえ」
「ま、結果オーライね」
イネスが自分で酒をついだ。

「さ、ルリルリも一杯どうぞ」
ミナトが徳利をルリに向けた。
「私、未成年なんですけど」
「まあ、気にしない気にしない。私がルリルリくらいの時にはもう飲んでたわよ」
ラピスよりは年上だからいいと思ったのか、結構乗り気だ。
「ミナトさーん。やめてくださいよお」
ハーリーが横からミナトに哀願した。
「なんだ、おまえも飲めばいいじゃないか」
サブロウタが猪口と徳利をハーリーに差し出した。
「はあ、それでは少しだけ」
ルリが猪口を受け取った。
「そうこなくっちゃ」
ミナトが楽しげに酒を注いだ。
「ミナトさーん、ルリさーん、やめましょうよお」
ハーリーの言葉を無視してルリが酒を口に運ぶ。
「・・・・・・。おいしいですね」
ルリの雪のような白い肌がほんのり桜色に染まった。
「ミナトさん、もう一杯お願いします」
「うん、そうこなくっちゃ」

「これが・・・」
ラピスは手早く徳利を数本持ち出し、壁際で猪口に注がれた酒を見つめていた。
どうやらさっきの一件で、酒に興味を覚えたらしい。
「お、おまえいけんのか?」
リョーコが後ろから声をかけた。
「・・・・・・」
ラピスが振り向く。
「なんだ、思いっきりどーんといけよ」
「・・・・・・」
リョーコの言葉にラピスが一気に飲んだ。少し顔が紅潮してきた。
「お、一気とはやるな」
リョーコの言葉には応えずにラピスが2杯目を注いだ。ラピスは黙々と飲み続けている。頬も上気してきた。
「・・・めんどくさい」
−ごきゅっ、ごきゅっ、ごきゅっ・・・ぷはーっ−
徳利を一本空にしたところで、ラピスは猪口を捨て徳利ごとラッパ飲みし始めた。
「お、おい、そいつはまずくねえか」
リョーコも初めて心配げな顔をした。
「・・・・・・」
ラピスが無言で徳利をリョーコにつきつけた。
「な、なんだよ」
「飲みなさい」
「え?」
「飲みなさい!」
「お、おう」
ラピスの勢いに押されて思わず頷くリョーコ。ラピスの金色の瞳は普段は綺麗だが、こういうときは夜叉にも見える。
「(こ、こいつ酒乱か?やばい、オレはとんでもないことをしたのかも)」
「何か言った?」
「い、いやなんでもない。ハハハハハ」
リョーコが愛想笑いを浮かべた。リョーコを萎縮させるとは、ただ者ではあるまい。

不意にルリが立ち上がった。
「ルリルリ?」
「ルリさん?」
「ん、どしたあ」
ミナトとハーリーとサブロウタがルリの視線の先を追う。そこではユリカにステージに引っ張られようとしているアキトの姿があった。ユリカは酒が飲めないので、こういう場では食べるか騒ぐかのどちらかなのである。
「・・・・・・」
ルリがアキトの前に立った。
「あれ、どうしたのルリちゃん」
ルリの瞳が潤んだ。
「る、ルリちゃん・・・?」
ユリカが慌てふためく。するとルリはユリカには目もくれずアキトに抱きついた。姿勢の崩れていたアキトはあっさりとルリに押し倒された。
「アキトさんひどいじゃないでしゅかあー!どうして2年間も私をほっておいたんでしゅかあー!」
ろれつの回ってない喋りでアキトを責めるルリ。
「る、ルリちゃん落ちついてって・・・酒臭い」
アキトがミナトを恨めしげに見た。ミナトがあわてて視線を逸らす。
「アキトしゃーん!」
「ミナトさん!ルリちゃんになにを!」」
ユリカがおもわずミナトを怒鳴った。
「ユリカしゃんうるさいでしゅ!アキトしゃん!そりゃあ復讐したい気持ちは分かりましゅよ!味覚を失ったのは辛かったと思いましゅよ!でも捨てることは無いじゃないでしゅかあー!私捨てられたんでしゅよー!引き取るなんて言ってたくせにー!」
ルリがアキトの両肩を掴んで強引に起きあがらせた。肩を掴んで強引にアキトを前後に振った。
「ちょ、ちょっとルリちゃん!」
ユリカがルリの肩を掴んだ。
「ラピスの方がいいんでしゅかあ!アキトさんはそういう趣味なんでしゅかあ!」
「いや、あのね、そうじゃなくって・・・」
アキトも相手が相手だけにどう答えるべきか迷う。
−ぐさっ−
突如何処からか飛んできたフォークが2人の足下に突き刺さった。思わず全員が硬直した。
「ルリ、アキトから離れて」
フォークの主はラピスだった。ドテラを脱ぎ捨てたラピスが颯爽と2人の前に歩み寄った。こちらはろれつはしっかりしているが、いつもと雰囲気がまるで違う。顔も赤い。ルリがアキトから手を離して立ち上がる。ユリカも思わず声を失った。
「何のつもりれしゅか?」
ラピスを睨み付けるようにルリが振り向く。
「もう一度言うわ。アキトから離れて」
ラピスもルリを睨み返した。2人の視線が交錯する。ルリがアキトから手を離して立ち上がった。思わず息を呑む一同。
「どういうつもり?」
「アキトは渡さない・・・だって、だって、アキトは私の全てだものー(はあと)」
『だぁぁぁぁっ』
 いきなりかわい子ぶった喋りになるラピスにこける一同。
「い、一体何」
ユキナが何とか起きあがった。
「おい・・・飲ませたのか?」
「い、いや少しだけのつもりだったんだよ・・・そしたらあいつ徳利数本空にしてやがった」
「とめろよー、おい」
「睨まれたんだよ・・・オレもあそこまでひでえ酒乱は見た事ねえ」
サブロウタとリョーコの会話を無視してラピスが両手を組んで両目に星を浮かべながら喋り出す。
「だってアキトは私の全てっ、今まで実験台だった私を初めて好きだって言ってくれたんだもの。そして2人で語り合ったあの夜・・・きゃっ、いやん、いやん」
赤い顔を更に赤く染めて頬に手を当てるラピス。
「・・・何、あれ」
「わ、私に訊くな・・・」
ラピスのユリカが伝染ったとしか思えない喋りと顔を真っ赤にして首を振る彼女の仕草にイネスやショウまでもが絶句する。
「好きという言葉がなんでしゅか!アキトしゃんは私を命をかけて守ってくれたことがありましゅ!」
「それが?私はアキトと一つになって戦ったのよ。守られるだけの恋なんて流行らないわよっ」
「誰が守られるだけでしゅかっ!ナデシコ時代は私はアキトしゃんをサポートしてましたっ!」
「所詮サポート、アキトと一体になった私にかなうわけないわっ」
「くっ」
「ルリさん、お、落ち着いて」
何とか我に返ったハーリーがルリの側で何とか事態を収束しようと彼女を押さえた。しかしルリは彼をふりほどき、ラピスと真っ向から対峙した。
「身の程知らずにはそれなりの罰をあげないと・・・アキトは渡さないわ」
最早完璧にキャラクターが違うラピスが懐からフォークを取り出した。
「・・・・・・ゆるしましぇんわ、アキトしゃんは私のもの」
ルリが袖からステーキ用のナイフを取り出した。どっから持ってきたんだろうか。
「ら、ラピス、凶器はやめろっ!」
ようやく正気に戻ったアキトが叫ぶ。
「ルリさん、それだけは!」
ハーリーが叫ぶ。2人が静かに踏み出した。2人を止めようと飛び出すアキトとハーリー。
 あわや流血かといったとき。
「う」
「あっ」
−どさっ−
2人が倒れ伏した。静かに寝息をたてている。
「な、なんだ?」
「世話の焼けるお姫様だ・・・いや、妖精だったか?」
ようやく我に返ったショウが2人の眠りのツボをついていたのだった。
「ほったらかしとけば目を覚ます。全く、たちの悪い酔っぱらいはこの手に限るよ」
「この手って・・・いつもやってるんですか」
ユリカが心配げにルリ達とショウを交互に見る。
「ん、ああ・・・たまに。眠っただけだから心配ない」
ショウがルリとラピスに自分のドテラをかけた。先程までの確執はどこへやら、仲むつまじく眠っている。
「た、助かった」
「みたいですね」
へたりこむアキトとハーリーの安堵の声を聞くこともなく。

「よっこいしょっと」
寝息をたてるルリをハーリーがおぶった。
「大丈夫か?俺が運ぶか」
サブロウタが声をかけた。ルリとラピスがショウに気絶させられた後2人は部屋の隅で寝かされていたが、宴会も終わりハーリーがルリを部屋に運ぼうとしているのである。
「大丈夫ですよ。・・・にしてもルリさんが酒乱だったなんて・・・」
ハーリーが大きくため息をついた。
「そうだよなあ。酒のませんなよ、夫婦喧嘩で尻に敷かれるからな」
ぽんぽんと肩を叩くサブロウタ。
「やめてください!僕は別に・・・」
「ま、がんばれや」
サブロウタが去っていく。

「よっこらしょっと」
ルリをおぶったまま、ハーリーがルリ達の部屋の扉を開けた。ラピスはあの後自力で意識を回復し、温泉に浸かりに行っていた。最もリョーコとユリカが一応監視役という事で付いてはいっていたが。
「はにゃ、ハーリー君?」
「あ、目、覚めました?」
ルリを背中からベッドに下ろす。しかしルリの眼は焦点が合っていない。
「ルリさん?」
「ハーリー君・・・一緒に寝ようよーう」
いきなりルリがハーリーに覆い被さった。まだアルコールが抜けきってなかったようである。
「わ、ちょっとルリさーん!」
押し倒された拍子にハーリーは後頭部を打ち意識を失いかけていた。消えゆく意識の中で彼は思った。
「ルリさん・・・暖かい」
ルリに抱かれて、ハーリーは母親に抱かれる赤子のように眼を閉じた。

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こんにちは。メグミ・レイナードです。
作者の陰謀で今までほとんど出番なかったけどみんな覚えてるかな?
『陰謀じゃない。ストーリーの都合上出しようがなかったんだ、誤解される言い方をするでない!(作者)』
作者うるさい!
ま、それはともかくまさかルリちゃんとラピスちゃんにあんな酒癖があるとは、ちょっと意外。
でも、あの2人がアキトさんを取り合う姿は、なんか昔を思い出しちゃって恥ずかしいやらなにやら。
ルリちゃんに淡い思いを抱くハーリー君。
君はどこまで男になれるかな?
次回、NADESICO THE AFTER NOVEL "FOR THE LOVE OF FAMILY"
 第9話 ナイトの『資格』
温泉旅行編、続きます。

私の出番も増やしてねというメール、よろしく。感想メールまで。

作者のOROCHIさんに感想メールを出す


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