-NADESICO THE AFTER NOVEL "FOR THE LOVE OF FAMILY"-


第20話 紅い大地に『二人』




「う・・・」
 肌を焦がすような光のまぶしさに、ハーリーは目を覚ました。
「生きてる・・・んだな」
 ゆっくりと起きあがり、辺りを見回す。
「ルリさんっ!」
 どこまでも続く紅い荒野。その中に愛しい相手の姿を見つけ、意識がはっきりと甦った。
「大丈夫ですか!しっかりしてください!」
 右足につけられた三本の傷からうっすらと流れる血が痛々しい。慌てて彼女の体を抱き起こす。
「ルリさん!ルリさん!ルリさん!」
「う・・・」
 彼の呼びかけに答えたのか、ルリの瞼がぴくりと動く。
「ルリさん!」

どこまで続くのか解らない。
 それ以前にここはどこなのだろう。
 虚無そのものとも云うべき漆黒の空間。ルリはそこを漂っていた。
「私たちは道具です」
 メノウの姿が浮かび上がる。
「違います!」
 突如現れたその姿に臆することなく、ルリが凛として言い返す。
「そんなことを言ってていいのか?」
 サンゴの声が響く。
「・・・・・・!」
 その言葉と同時に、自分がかつてのユリカと同じように『遺跡』に融合させられていることを知った。
「・・・・・・!」
 言葉が発せない。
 体が動かない。
「無駄なのですよ!」
 メノウとサンゴの顔がヤマサキのそれに変わる。
「あなたは道具でしかありません!」
 おぞましいほどの恐怖感。
「R・・・U・・・R・・・I!」
 刹那、光が彼女を覆う。
 彼女を縛っていた遺跡が砕け散る。
 光は人の形を成し、彼女を優しく抱き留める。
「アキト・・・さん?」
  *
「よかったーあ」
 ハーリーがほっと胸をなで下ろした。
「ハーリー・・・君?」
 ルリのアンバーの瞳の焦点がようやく合わさる。そして脚の傷の痛みと・・・体の違和感に気がついた。
「・・・・・・あの」
「よかった・・・本当に」
 ハーリーが目に涙を浮かべている。
「いえ・・・そうではなくて」
「脚の方は大丈夫ですか?」
脚の傷にはハーリーのハンカチが巻かれていた。それだけでは足りなかったのか彼の服の右袖が破られ、包帯代わりにさらにその上から巻かれていた。
「それはいいんですけど・・・」
「本当ですか?よかった・・・」
 事実そのおかげで痛みは大分おさまっていた。おさまっていたのだが・・・
「あのですね」
「はい?」
 ハーリーのマシンガントークにようやくルリは割り込めた。思えばユリカと仲がよくなったせいで彼にその性格の一部がうつったんだろうかとルリは思いつつもうっすらと頬を染め、言葉を発する。
「・・・手」
「え?」
ハーリーがあわててルリの視線の先を追う。
「その・・・ちょっと恥ずかしいんですけど」
 二人の間を駆け抜ける一陣の風。
 抱き上げたとき、無意識のうちに掴んでいたのだ。

 五秒ほど彼の思考が停止し・・・

「ごめんなさーい!」

エコーがかかって、荒野に彼の声が響いた。


 ルリ達が消えて、呆然とした一同。
「ショウ?あなたはどこに彼女たちを跳ばしたのです?」
 一番先に我に返ったのはヤマサキだった。
「元はといえば貴様のせいだろうっ!」
 ショウが激昂しヤマサキに斬りかかる。
「くっ・・・何をなさいます?」
 ヤマサキが懐から鉄扇を取り出し、ショウの攻撃を受け流す。
「赦さない・・・赦さないぞヤマサキ!」
アキトの銃が火を噴く。黒マントを蹴散らしヤマサキに飛びかかるアキト。
「俺やユリカだけじゃなく、今度はルリちゃん達か!おまえはいったいどこまでやれば気が済むんだっ!」
「学者の天命は真理の探究・・・そのための犠牲はつきものですよ」
 ヤマサキがバックステップでアキトの攻撃をかわす。
「そこにいるショウは下らぬ『良心』とやらで『学者』の本文を失った愚か者です・・・私に言わせれば大恥さらしはあなたなんですけどねえ」
 ショウを嘲笑うかのような視線を飛ばすヤマサキ。
「・・・貴様、言いたいことはそれだけか!」
 ショウの刀を握る手に力がこもる。
「ええ、ああご安心ください。今回は退きますから。これ以上ここに残ってもいいことはないようですからねえ」
 飄々とした笑いを浮かべながら、ヤマサキがCCを取り出す。
「それとショウ・・・ラピスを渡してもらえます?」
「誰が・・・!」
「愚かですねえ・・・あなたは誰も救えない、母も、妹も、ライラも、そしてラピスはおろかあなた自身すら」
「く・・・貴様どこで?」
 ショウの顔に多少の驚きが混じる。
 誰からライラや家族の事まで聞いたのだ?
「母?妹?」
 それ以上に驚いたのはアキトとユリカだった。
 この男の過去に何があったという?
「愚かな真似はお止しなさい。それではお後がよろしいようで」
 ヤマサキの姿が消えた。

 一方ルリ達。
「ルリさん、ごめんなさい、ごめんなさい」
 米つきバッタのように平謝りのハーリー。
「・・・・・・ふん」
 彼から視線を逸らし明後日の方向を見るルリ。
「わざとじゃないんです。不可抗力です」
 彼の額が大地につくくらい頭を下げる。
「・・・・・・」
 しかしルリは未だ視線を逸らしている。
「そんなつもりはなかったんですってばあ」
 遂に涙混じりになるハーリー。
「・・・・・・くす」
 しかし別にルリは怒ってはいなかった。要はただ単に彼の姿が面白いのでわざと放っておいただけなのである。とは言いつつもこれ以上意地悪するのはかわいそうだと思ったのか、
「ハンバーグ・・・」
「え?」
 ようやく口を開いたルリにハーリーが頭を上げた。
「ナデシコBに乗っていた頃、料理が好きなあなたは色々と作ってくれましたね」「は、はあ」
 完全に「この人は何を言っているんだろう」という表情になるハーリー。それと意外と思われるかもしれないが彼の趣味は「料理」なのだ。
「それがアキトさん達と暮らすようになってからは何かと理由をつけて作るのをばったりとやめましたよね」
「はい」
「どうしてですか?」
 ルリにのぞき込むように見つめられて、顔を真っ赤に染めつつしどろもどろに答えた。
「その・・・本職の料理人の前で・・・料理なんかしたくないじゃないですか」
「そうですか・・・」
「あの・・・なにか?」
「結構好きだったんですよ。あなたのハンバーグ」
「え?」
 今度はまともに硬直した。
「ここから無事に帰れたら、もう一度あなたの料理を私に食べさせてくれる。それで赦してあげます」
 今度は心から微笑むルリ。
「ルリさん・・・わかりました・・・なんだっ」
−ごごごごご−
 いきなり地面が揺れる。
「きゃっ」
「ルリさんっ!」
 二人の前の地面が割れた。何ががせり上がってくる。
 もうもうと立ち上る土煙。
「いやー、やっとでられたわ。あーすっきりした」
 例のバイクとヤヲトメの立体映像。うーんと伸びをするヤヲトメ。
「あらぁー・・・大胆ねぇ」
 ヤヲトメに言われて、初めて二人は抱き合っていることに気がついた。
「やるぅー」
 二人は顔を真っ赤に染めて、体を離し互いから顔を背けた。

 月のアキト達は混乱の最中にあった。
「ルリちゃんは?ハーリー君はいったいどこに?」
 アキトがショウにつかみかかるように問う。
「落ち着け・・・アキト」
「落ち着かずにいられるか!もし宇宙空間にでも跳んでいたらどうするんだ!」
 アキトの脳裏に宇宙の真空で砕け散る二人の姿がよぎった。
「アキト、アキト待って。ショウさん喋れないよ」
 後ろからユリカに押さえられて初めてショウの首を押さえていることに気がついた。
「ご、ごめん・・・大丈夫か?」
 アキトが慌てて手を離す。
「・・・少しは・・・落ち着いたか?」
 ショウが服の襟を整えながら問う。
「悪い、カッとなった」
 アキトがばつが悪そうに頭を下げる。
「やれやれ、相変わらず人の話を聞かないで行動するねえ、君は」
 エステバリスから降りてくるアカツキ。
「まてよ・・・あのとき俺が銃を撃ったから・・・」
 一人で落ち込んでゆくアキト。
「アキトぉ・・・」
 思わずアキトに抱きつくユリカ。
「落ち着け。まだ最悪の事態じゃない」
 ショウが二人を諭すように言う。
「ふうん・・・ま、君がそれだけ落ち着いてるって事は、助かっているんだろ?」
 アカツキがにやりとしてショウを見た。
「ああ。少なくとも宇宙空間にでていることはないだろう」
 ショウがはっきりと言う。
「えっ・・・どうしてですか?」
 ユリカが問う。
「彼女・・・ヤヲトメが人機融合兵器だからだ」

「火」
 ルリがポーカーフェイスでヤヲトメを見る。
「星」
 ハーリーがそれに続いた。
「そっ。火星」
 講師スタイルのヤヲトメが肯定する。彼女の姿は立体映像なのでどうとでも姿は変えられるのだ。
「どうして解るんです?」
 ハーリーが聞く。
「方法は色々あるわよ。例えば地面からナノマシンがでてきた」
 ヤヲトメのでてきた跡からミミズのような形をした惑星改造用のナノマシンが顔を出している。
「例えば、重力が少し小さい」
 それで、やけに体が軽いことに気がついた。テラフォーミングが行われた結果火星の重力は地球のそれの約0.8倍強程度に保たれていた。因みに本来は0.38倍であった。
「成る程・・・で、どうやって帰るんです?」
 ハーリーが訊く。
「もう一回ジャンプしたらいいんじゃないですか?」
 ルリの言葉にヤヲトメが首を振る。
「いやぁー、そうしたいのは山々なんだけどさっきのダメージでジャンプシステムの制御装置がいかれちゃって・・・あはは」
「それってかなりやばいんじゃあ・・・」
 ハーリーがジト目でヤヲトメを見る。
「だーいじょぶじょぶじょぶ。それに君たち若いのに暗いわよ。助けに来てもらうって考えは思いつかない?」
 言いながら、ダッシュボード部の通信装置に手をかける。
「電波、届くんですか?」
 ハーリーが訊いた。
「電波?そーんな原始的な物じゃないわよ。ボソン通信機よ」
 ボソン通信機。チューリップを介して通信を行うシステムである。普通はバイクの中に入るような大きさの機械ではないのだが、そこはオロチ製だけあってか小型化に成功しているのだろう。
 よくよく考えてみたらアステロイドベルトのオロチにある彼女の本体とリアルタイムで会話するにはボソン通信機でもないと不可能だ。
「そうなんですか。にしてもよかった・・・空気のあるところで」
 今になってハーリーがほっと胸をなで下ろした。
「あ、その点は大丈夫。知ってる?宇宙空間をイメージして跳んでも絶対『死ぬ』って所へは跳べないのよ。人間・・・いや生物の自己保存本能ってやつね」
「人間って・・・あなたは?」
 言いかけて、ハーリーは一つのことを思い出した。オロチで開発されていたという禁断の兵器。
「まさか・・・人機融合兵器?」
「そうです」
 ルリが頷いた。
「人機融合兵器にして、オロチの全てを司る。それがあなたでしたね、ヤヲトメ・・・さん」
「よく知ってるわね・・・ああそっか、ショウが教えたのね」
 頷くルリ。
「僕は・・・」
「知ってる。一度私にアクセスしてきたわよね」
 ヤヲトメが微笑む。
「一つ訊いてもいいですか」
「ん、なあに?」
 ルリの方を見るヤヲトメ。
「あなたは・・・辛くないんですか?」
「どうして?」
ルリの顔をのぞき込むヤヲトメ。
「あの・・・いえ、やっぱりいいです」
「そっか・・・サンゴとメノウに会ったんでしょ」
 ヤヲトメの言葉に頷くルリ。
「ま、最初の頃は色々悩みもしたわよ。でもまあ、強いて言うなら『未来』を信じたからかな」
「未来を信じる・・・」
「そ。もう20年前にもなるかなあ。一人の男の人がね、オロチにスパイとしてやってきたの。その人が言ってくれたの。必ず助ける方法を見つけてやるって」
 そこでヤヲトメが神妙な顔になる。
「大切なのは『どうやって生まれたか』じゃない。『どうやって生きるか』、そしてそれを決めるのは神だとか運命なんていいかげんなものじゃない。他ならないあなた達自身・・・それだけは忘れないで」
そこまで言うとヤヲトメは表情を崩す。
「さって、通信準備も整ったことだし・・・」

「ヤッホー。ショウいる?」
 ユーチャリスのブリッジに座るラピスの前に現れたのはVサインするヤヲトメのウインドウだった。
「無事・・・なの?ルリは、ハリは?」
 ラピスが面食らいながらも自分の大切な人達の名を呼んだ。
「二人とも大丈夫。ほら」
 後ろにはヤヲトメのバイクに入っていた消毒薬でルリの治療するハーリーがいた。ほっと胸をなで下ろすラピス。
「ショウ、アキト、ユリカ聞こえる?ヤヲトメからの通信、二人とも無事だって」「なにーっ!本当か、本当かラピス!」
「ルリちゃん!ハーリー君!どこどこっ!」
 アキトとユリカのウインドウがユーチャリスのブリッジ全てを覆うともしれない大きさでラピスの前に現れる。
「私たちは大丈夫です。心配かけてごめんなさい」
「どうやら火星に跳ばされたようです」
 ルリとハーリーの顔がウインドウに表示された。
「ルリちゃーぁん、ハーリーくぅーん・・・よかったよお」
 涙を浮かべて二人のウインドウに頬ずりするユリカ。
「ルリちゃん、脚大丈夫か?」
 アキトは自分がルリを護れなかったせいであんな怪我をしたのではないか・・・彼にはそんな負い目のようなものがあった。
「大丈夫ですアキトさん。怪我はこの通りハーリー君とヤヲトメさんが」
 ルリがアキトの気持ちを察したのか笑顔で答えた。
「そっか・・・よかった」
 アキトが胸をなで下ろした。
「ところで、今どこにいる?」
ショウが訊ねた。
「火星・・・であることは間違いないんだけど・・・」
 言いよどむヤヲトメ。
「具体的にどこだかわからない」
「あたり」
 ショウの言葉に肩をすくめてみせた。
「とりあえず動き回ってみるから。解ったら教えるから救けに来てね」

 火星のルリ達。
「ちょっとぉーーーーーー!分からないってどういうことですかぁ!」
 ハーリーが叫ぶ。
「そういうこと。だからさあ」
 ぽんとハーリーの両肩に手を置くヤヲトメ。
「三人でがんばろっ(はぁと)。だいじょーぶ、何とかなるって」
「その根拠のない自信はどこからくるんですか・・・」
がっくりとハーリーが肩を落としたのは言うまでもない。
「あれ、何でしょう」
 ルリが遠くを指さす。何か薄い灰色の線が見える。
「行ってみよう。二人とも乗って」
  *
「これは・・・」
「道路・・・ですね」
 線の正体は道路だった。しかしアスファルトはあちこちひび割れ、ラインは剥げていた。
「放置されてずいぶん長いようね」
 ヤヲトメが分析した。
「でも、これを通っていけば町にでられますね」
 ルリが頷く。
「そのとぉーり。どう、ハーリー君?なんとかなったじゃない」
ヤヲトメがVサインを向けた。
「そりゃあそうですけど・・・」
 彼は驚いていた。自分たちの運の良さとヤヲトメの性格に。
「さあ、いこいこっ!」
 そうか・・・ユリカに似ているんだ。
 ルリと二人でバイクにまたがりつつ、彼は思った。

「あれ?」
 放置された(と思われる)ハイウェイを疾走するヤヲトメのホバーバイク。その上に乗るハーリーが言葉を発した。
「街・・・みたいですね」
 ルリも気がついていた。遠くに灰色のビルが建ち並ぶ様が見える。
「何とか・・・なっちゃいましたね」
「でしょぉー。ほら急ぐわよ」
 バイクの横を飛びながら、ヤヲトメが言った。

「街・・・ではありますよね」
「はい」
 ルリとハーリーが言う。そう、確かに街だったが・・・
「廃墟・・・といった方が正しいですね」
 ルリがきっぱりという。遠くからでは分からなかったが、れっきとした廃墟の街である。
「あ、でも位置の特定くらいはできますよね」
 ハーリーがぽんと手を打つ。
「そゆこと。分かってきたわね。あとは街の名前を調べて救助を待てばいいだけよ」
 バイクが速度を落として街の中を進む。
「この様子だと、こないだの木星との戦争の時に潰された街の一つみたいですね」 ルリが言う。火星は木星の人間や地球の人間が移住してきて再興が進められていたが、それにしたところでかつての火星の1割にも満たない。残りの9割以上の都市が、こうして放置されたまま忘れられているのだ。
「あ・・・」
 ハーリーがバイクを止めた。かつては街の中心部であったと思われる噴水のある広場に出た。バイクを降りて歩き出すハーリー。
「どうしました?」
「いえ・・・こんなものが」
 ハーリーが抱えたのはあちこちがほころんだネコのぬいぐるみだった。そしてその先にはその持ち主らしき小さな髑髏が転がっていた。
 体は近くに倒れた瓦礫の下に埋もれている。髑髏も長い時間の間に泥や埃にまみれ、持てば崩れそうなほどもろくなっていた。
 無言で立ちつくす3人。

「葬ってあげましょ・・・」
 ヤヲトメの言葉に頷く二人。
「このぬいぐるみの持ち主は・・・どんな未来を夢見ていたんでしょう」
 ハーリーがコンクリートの剥がれた地面を手で掘り始める。ルリも無言でそれに続いた。
「私たちは・・・こういう子供達を増やすために造られた?」
 小さな髑髏を穴の中に埋め、ルリが拳を握りしめ呟く。
「そうだというなら・・・ずいぶんと残酷ですね。神様は」
 ハーリーが墓標の代わりにぬいぐるみを穴の上に置いた。
「神を崇めるの・・・あなた達は?」
 ヤヲトメが言う。
「どういう・・・ことです?」
 俯きながらルリが問う。
「神なんてものにすがっちゃ駄目よ!」
 ヤヲトメのいつになく強い口調に二人が体を震わせる。
「神なんてものがいるのなら、それはえらく残酷なものよ!そんなものは信用には値しないわ!いい、たとえどんな苦難を背負って生まれてきたとしてもその人間には罪はない!
 もし罪があるというのならそれはあなた達を創造した人達!神とやらも同罪よ! 忘れないで・・・その人の人生を決めるのは生まれかたじゃないわ。
 神にすがってはいけない。
 運命とあきらめてはいけない。
 そんなものは打ち破って!
 あなた達は未来があるわ!
 だから・・・くだらないしがらみに惑わされないで!」
「ヤヲトメ・・・さん?」
 ルリがようやく我に返った。
「あは・・・ごめんなさい。でもね、あなた達が『生まれてきてごめんなさい』なんて顔をしてたもんだから」
 ヤヲトメが涙を拭い微笑む。
「いいえ、あなたの言いたいことはよく解ります」
 ルリが首を振った。
「なんか、私って駄目ですね。艦長なんですから、いつも前向きに生きることを考えなくちゃ駄目なのに・・・」
−ズズン−
 突然、ビルの一角が崩れ、3体のバッタと呼ばれる機動兵器がその姿を現した。
「バッタ・・・?」
ヤヲトメが呟く。
「自動迎撃システムの生き残りか!」
 ハーリーが叫ぶ。
「逃げましょう」
 ルリの言葉と同時にヤヲトメがバイクをよこした。
「なっ!」
 しかし3人を囲むように降り立つバッタ。
「こうなったら・・・どこに出るか分からないけどもう一回・・・」
 ボソンジャンプを始めようとするヤヲトメ。
 その瞬間・・・
『まだいたのかっ!』
 深い青色をした旧ナデシコに積まれていたのと同じ形のエステバリスが現れた。『しつこいんだからっ』
 同じく別のエステバリスが現れる。カラーリングがこちらはライトグリーンだったが。
「あれは・・・そんな・・・まさか?」
「ルリさん心当たりが?」
 ルリはまるで幽霊でも見つめるような瞳でエステバリスを見ている。
「カイト・・・さん・・・ミカヅチ・カザマ?・・・ラビオ・パトレッタ・・・イツキ・カザマ・・・?」
 その言葉に、ヤヲトメの眉がぴくりと動いた。



PREVIEW NEXT EPISODE

私は月臣源一郎。
 友と祖国を裏切り、ただ生き続ける者。
 遠い日に、ホシノ・ルリが抱いた恋心。
 彼の者の名はカイト。
 時代の流れの中に消えた、ナデシコBの初陣。
 時代の流れの中に消えた、忘れ得ぬ心の傷。
 かくも運命の神とは忌まわしき者か。
 次回、NADESICO THE AFTER NOVEL "FOR THE LOVE OF FAMILY"
  第21話 悔恨の『記憶』
 誰にでもある。忘れ得ぬ想い。

 意見、感想等は感想メールまで。

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