-NADESICO THE AFTER NOVEL "FOR THE LOVE OF FAMILY"-


第2話 目標は「オロチ」


「オモイカネ、データ検索。1週間前の各地でのボース粒子反応と、戦艦が身を隠せそうな場所」
ルリがオモイカネに問いかけた。彼女はイメージ・フィードバック・システム、通称IFSにより、直接コンピューターであるオモイカネと会話することができた。これはハーリーも同じであるが、ルリとオモイカネの方が相性が良く、彼女の方が格段に上手く作業をこなすことができた。
「意気込んで出かけたはいいけど、目標がどこだかわからないってのはなあ」
コンソールの上に足を乗せながらサブロウタがぼやいた。
「サブロウタさん!」
ハーリーが怒鳴った。
「該当データ無し・・・」
ルリが肩を落とした。それを見たサブロウタとハーリーが言い争うのをやめた。「まあまあ、ルリちゃん、そう気を落とさないで」
ユリカが後ろから声をかけた。
「条件を変えて再検索・・・今度の条件は」
「ルリルリ、地球から通信よ」
ミナトが声をかけた。
「うん、そろそろだね」
ユリカが言う。
「そろそろ?」
ハーリーが怪訝な顔を見せた。
「ミナトさん、こっちに回してください」
「はいはーい」
ミナトの言葉と同時にルリの前に円い眼鏡をかけた口髭の男が映し出された。「プロスさん?」
「はいルリさん、任務成功おめでとうございます」
画面の男、プロスペクターがいつもの口調で挨拶した。
「どうしたんですか、わざわざ通信なんて」
「ふっふーん。私が頼んだの」
ユリカが後ろから得意げに声をかけた。
「だってアキトの艦はネルガルが作ったんでしょ。ネルガルは元は裏の企業。だったら蛇の道は蛇、こういうことなら絶対データがあると思ったんだけど、大当たりってとこかな」
ユリカの口調は楽しげだ。
「いやあ、耳の痛いことを言うねえ」
プロスペクターのウインドウの隣にアカツキ・ナガレのウインドウが現れた。「はは、さすがですね」
プロスペクターが拍手した。
「まあまあ、その話は後で。それよりもプロスさん、アカツキさん、今通信してきたってことは何か心当たりがあるってことですね」
呆気にとられるルリ達を後目に、ユリカが尋ねた。
「ま、そういうことですね」
プロスペクターがデータを送った。
「これは?オモイカネ、このデータをメインモニターに」
映し出されたのは2枚の画像データだった。一つは円筒型のコロニーに8本のフィンのついたようなコロニーの図面。もうひとつはそのコロニーの周辺とおぼしき航海地図だった。
「O,R,O,C,H,I・・・オロチ?そんな馬鹿な、こんな名前のコロニーは存在しない。それにこんな宙域にコロニーがあるなんて話は聞いたこともない」
図面を見たハーリーが声を上げた。
「そのとおり。このコロニーはいわば幻のコロニー。この宙域はサルガッソー・オブ・アステロイドベルト。通称、宇宙の墓場」
「ああ、お父様から聞かされたことがある。火星と木星の間に位置するアステロイド・ベルトと呼ばれる小惑星群。でもここだけは何故か誰も近寄らない」
「ユリカさん、心当たりがあるんですか」
ルリが質問した。
「私の聞いた話だと、ここの周辺には元々だれも近寄らなかったの。特に何かがあるというわけでもないしね。だけど今から30年ほど前、偶然ここを通りかかった軍の戦艦が行方不明になった。その調査隊も。一説には秘密の研究施設があり、機密保持のために近づく者全てを葬り去っている。なんて言われてるけど」
「いや全くその通り、さすがだねえ、君も」
アカツキがわざとおどけてみせる。
「それで、アカツキさんはこのことを御存知なんですか?」
「確かにここには60年ほど前にネルガルが兵器開発用の違法コロニーを建造した。が、完成してからしばらくたつと同時に音信不通になっちゃったんだよ。話終わり」
「それで知らんぷりを決め込んでたわけですか」
ルリが冷たい視線をアカツキに向けた。
「君も身も蓋もない言い方をするねえ」
アカツキも自分のペースを崩さない。
「ま、とにかくは行って確かめるしかないということでしょう。確かにユーチャリスらしき戦艦がここへ向かったという情報もあるわけですし」
「そうですね。他に確かな情報もありませんから」
プロスペクターの言葉にルリが答えた。
「とにかくジャンプしてそこに行ってみましょう」
ユリカがきっぱりと言った。
「それじゃ、いってらっしゃい」
「朗報をお待ちしておりますよ」
アカツキとプロスペクターが通信を切った。

「これより本艦はボソンジャンプを行います。総員準備してください」
ルリの艦内放送が流れた。
「相転移エンジン出力良好、ディストーションフィールド出力安定」
ハーリーが次々と状況を告げる。
「A級ジャンパー、イネス・フェレサンジュによる目標座標設定完了」
ボソンジャンプを行うためには、目的地を『遺跡』に伝えるためのジャンパーと呼ばれる人間の存在が不可欠だった。先天的にこの能力を持つ者をA級ジャンパーと言い、遺伝子操作で後天的に能力を身につけた者をB級ジャンパーという。アキト、ユリカ、イネスの三人はA級ジャンパーで、ルリ、ハーリー、サブロウタの3人はB級ジャンパーだった。ただしB級ジャンパーの人間は、チューリップと呼ばれるワープゲートに入ることのできるだけで(普通の人間がボソンジャンプを行うと肉体が破壊される)単独ではボソンジャンプはできない。故にイネスが作業を行っているのである。イネスにデータを渡し、目的地をイメージしてもらったそのときだった。
「周囲に異常・・・あれ」
「どうしました、ミナトさん」
「周囲にボース粒子の増大を確認、何者かがボソンアウトしてきます」
ハーリーがミナトの後を引き継いだ。
「なんだありゃあ」
サブロウタの声と同時に何隻もの戦艦と機動兵器がナデシコCを囲っていた。そして驚くべきことに、戦艦には「火星の後継者」のマークが描かれていた。

「初めまして。否、久しぶりだな、ナデシコの諸君」
歳の頃は40過ぎの青い髪をした眼光鋭い男がモニターに映し出された。
「おまえ・・・冥月、天雲冥月か!」
サブロウタがモニターの男を見て驚愕した。
「タカスギ・サブロウタか。えらく面代わりしたものだな」
冥月がサブロウタを見下すように言った。
「何者ですか、あなた方は」
ルリが毅然とした態度で冥月を見た。
「我らは『火星の後継者』の亡霊。復讐の二文字のみを糧とする鬼の集団。我らの崇高なる理想を踏みにじりし外道ホシノ・ルリ、汝を滅するが我らが天命!」
冥月の言葉が終わると同時に背中に巨大なバックパックを取り付けた積屍気と呼ばれる『火星の後継者』が使用する人型の機動兵器がナデシコCのフィールド内にボソンジャンプしてきた。同時に積屍気がライフルを乱射し、ナデシコCの装甲が一部吹き飛んだ。船体が大きく揺れる。
「総員第一種戦闘態勢。エステバリス隊は船体にとりついた敵機を排除してください。私はIFSによるハッキングを行い敵母艦を占拠します。マキビ・ハリ少尉、ナデシコCのコントロールを頼みます。動きをランダムに設定して移動を繰り返してください。そうすればとりつかれることもなくなります」
以前、木星の人間はボソン砲或いは跳躍砲と呼ばれる爆弾をボソンジャンプさせる武器があった。それから身を守るためにユリカが編み出した戦法がこれだった。
「こちらリョーコ、準備いいぜ!」
「こちらヒカル、オールオッケー!」
「こちらイズミ、準備完了」
「こちらサブロウタ、いつでもいいぜ」
エステバリス隊が発進準備が整ったことを示す通信を送り順次出撃した。

「おらおらっ、ひとんちの中に入って壁を壊そうたあいい度胸してるなあ」
リョーコのエステバリスがラピッドナイフと呼ばれる近接戦用の武器を取りだして積屍気の1機に斬りかかった。さすがにナデシコCを傷つけては本末転倒なので飛び道具は使えない。
「そんな子はお仕置きだよっ」
ヒカルのエステバリスが取り付いていた積屍気の1機に跳び蹴りを食らわせた。
「塩を斬る、しお、斬り、お仕置き。ク、ククククク」
イズミがいつもの寒いギャグを飛ばしながら積屍気にワイヤードフィストと呼ばれるいわゆるロケットパンチを当てた。慣性力で積屍気が吹っ飛んで行く。
「そらよっと」
サブロウタのスーパーエステバリスが踵落としを積屍気の1機に当てた。エステバリスはパイロットの意思をそのまま制御に使うというIFSを使用しているので格闘技に精通している者が使えば、格闘戦ではかなりの強さを発揮した。そんなわけで取り付いていた積屍気部隊は撃退されつつあった。

<どうしたの、オモイカネ>
声には出さずに意思でルリがオモイカネに問いかけた。
<ダメ、入れない>
<どういうこと?>
「どうやら相手は前みたいにシステムを乗っ取られることを恐れて通信システムをブロックしているようね」
イネスの顔のウインドウがルリの前に現れた。
<そのとおり>
オモイカネの答えも同じだった。彼我の兵力差を計算すると約8:1。システムハッキングができないナデシコCにはリョーコ達のエステバリス4機しかない。敵は全方向を囲っていた。四方から襲い来る敵に対してはグラビティ・ブラストもほとんど意味がない。
「どうすれば・・・そうか」
ルリがユリカの方をちらりと見た。
「ルリちゃん。艦長はルリちゃんだよ」
ユリカは笑いながら言った。その言葉にルリは決意を固めた。
「イネスさん。オロチの位置をイメージしてください」
「跳ぶの?」
「はい」
「フフ、了解」
イネスの顔のウインドウが消えた。
「リョーコさん。取り付いているのは後何機ですか」
「あと、3、4機くらいだな」
「全部倒したらちょっとくらい穴開けてもいいですから船体にへばりついてください。ジャンプします。あとディストーションフィールド発生装置は壊さないでくださいね」
「わあった。まかしとけ」
「ジャンプして逃げるのか、いくらなんでもそれは」
ゴート・ホーリーが叫ぶ。
「そうでもないですよ。このまま戦っても勝ち目は薄い。昔から言うじゃないですか『逃げるが勝ち』って」
ユリカの言葉にルリが頷いた。
「ハーリー君。最後の敵を払い落とすと同時にディストーションフィールド出力最大。ジャンプします。目標は、オロチ!」
「了解!」

「どりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
リョーコのエステバリスがラピッドナイフを最後の積屍気に突き立て、そのまま勢いに任せて投げ飛ばした。
「よし、へばりつくぞ」
サブロウタのスーパーエステバリスが装甲の引っ込んだ部分を掴み、ワイヤーを射出して完全に固定した。
「おっけー」
ヒカルの言葉に続いてリョーコとイズミも機体を固定した。
「ジャンプします」
ルリの言葉と同時にナデシコCが輝き、そして消えた。

「ナデシコCボソンジャンプ。行き先は不明です」
冥月の横に立つオペレーターが言った。
「先ほどの通信の解読はできたか」
「はい。ナデシコCはオロチなる場所に向かうとのことです」
冥月がにやりと笑った。
「なるほど、オロチか。隠者の庵、ククク」
「隊長?」
「ボソンジャンプのイメージ伝達装置を我に回せ。これより我らはオロチに向かう」

ルリ達の眼前に一つのコロニーが浮かんでいた。小惑星に守られるかのように小惑星の中に浮かび、瓢箪のようなコロニーのくびれた部分からは巨大な8基のディストーションフィールド発生ブレードが伸びていた。
「オロチ、応答願います。私は連合宇宙軍独立ナデシコ部隊、ナデシコC艦長ホシノ・ルリです。寄港を許可してください」

PREVIEW NEXT EPISODE


みなさんおひさしぶりっ。
 私は元ナデシコ艦長、そして独立ナデシコ部隊提督のミスマル・ユリカです。遂に私たちはオロチに到着しました。そして遂にアキトと再会を果たすのですっ。
 ・・・でも、アキトは拒絶します。私を、ルリちゃんを、みんなを。
アキト、どうして私たちを拒むの?
一体アキトに何があったの?
オロチの管理者という謎の男、ムラクモ・ショウ。あなたは何を知っているの? そしてルリちゃん、落ち込んじゃダメ。
アキトに聞きに行こう。何があったのかを。
次回、NADESICO THE AFTER NOVEL "FOR THE LOVE OF FAMILY"
第3話 それは『好ましからざる再会』
是非読んでくださいね。
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