-NADESICO THE AFTER NOVEL "FOR THE LOVE OF FAMILY"-

第15話 愛すべき人と『帰るべき所』





「な、なんだこれは!」
コントロールルームを掌握したテロリストが驚きの声をあげた。
「ちょっとの間、黙っててください」
全てのモニターにハーリーの顔が浮かび上がった。と同時に全ての扉にロックがかかった。
「で、出られんぞ!」
「こっちもか!」
慌てるテロリスト達。
「な、なんだこれは!」
次々と防火シャッターが閉じ始める。これでよけいな応援が来る可能性は無くなった。
「よっしゃあ。ハーリーの奴上手くやってくれたな」
サブロウタがエレベーターのボタンを押した。病院などにあるベッドごと輸送できるエレベーターを6倍くらい大きくしたもので、中にはシャンデリアが備え付けられて、床にはペルシャ絨毯がひかれており、天井はステンドグラスで覆われていた。
「まったく、脱出経路にこんなもん・・・どういう趣味してんだか」
呆れながらも中にあるテーブルや椅子を用いてバリケードを作るリョーコ。
「着くぞ」
扉の影に隠れる一同。
−ウイィィィィィ−
小さなモーター音をあげて扉が開いた。
「な、なんだ?」
テロリスト達が驚いて壁を見た。このエレベーター、執務室の壁にカモフラージュされていたらしい。
「ちっ、撃てえ!」
ガドリングの音が響き、リョーコが組んだバリケードが蜂の巣になる。
「やったか?」
一人がエレベーターに入ろうとした。
「甘い!」
イズミのベレッタがテロリストの腕を砕いた。倒れるテロリスト。
「なにっ!」
他の2人があわててガドリングを構えた。
「はーい、あぶないよっ」
−シュッ、ズドドーン−
爆炎があたりを包み込み、壁と天井の一部が崩れた。
「すごい威力だねえ、直撃したらゾンビどころか戦車だって倒せるね」
崩れた壁から吹き抜ける風を浴びながらヒカルがロケットランチャーをおろした。
「おい・・・こいつはまずいんじゃねえか?」
リョーコがエレベーターから出た。さっきのバリケードは単なる囮で実際は扉の陰に隠れていたのである。
「この程度で崩れる建物じゃないですよ。このまま進んでください」
ハーリーが言う。
「く・・・貴様ら何者だ?」
瓦礫の下になったテロリストが息絶え絶えに訊く。
「正義の味方・・・だ」
サブロウタが答えた。

「いくぜ、おーりゃあ!」
リョーコのデザートイーグルが、テロリスト達の防弾チョッキを朱に染め上げる。城内部のシステムの停止と、さっきの爆発で兵士達の間にかなりの混乱が起きていた。奇襲をかけるというユリカの作戦はまずは成功していた。
「燃えてるねえ」
同じようにサブロウタのデザートイーグルがテロリストの胸にマグナムを撃ち込んだ。
「これで、全員か?」
倒れたテロリスト達の数を数えるアキト。
「6人?一人足りない!」
ヒカルが叫び一同に緊張が走る。
「動くなっ!」
物陰に隠れていたテロリストが姿を現し、ヒカルの頭にサブマシンガンを押しつけた。
「ヒカルちゃん!」
アキトが叫ぶ。
「の野郎・・・」
 リョーコが舌打ちした。やむなく一同武器をおろして両手をあげた。
「質問に答えろ!貴様らは何者だ?王宮の関係者でもないようだが」
「正義の味方さ」
サブロウタが飄々とした口調で言った。
「ふざけるな!・・・が、まあいい。このままおとなしく死んでもらうぞ」
引き金に手をかけるテロリスト。
「リョーコ!」
サブロウタが叫んだ。
刹那。
−シュオオオオオオ−
青い粒子が辺りに漂い始めた。ボース粒子である。
「生体ボソンジャンプ?何者だ」
粒子が集まり、一人の刀を構えた男の姿を形作った。
「ぬっ!」
男に向けてサブマシンガンを撃つテロリスト。
「無駄だ・・・私に銃は効かない」
男の叫びと同時に彼の周囲にディストーションフィールドが形成され、全ての弾丸をはじいた。
「ばかな・・・」
テロリストが呆気にとられる。そしてそれは、ヒカルが隙を見いだすのに十分すぎる時間だった。
「おりゃ!」
ヒカルが肘打ちを入れ、テロリストの体を引き離す。
「くそっ!」
テロリストが今度は男を人質にしようと走る。
「斬!」
 そしてテロリストの命はそこで尽きた。刀を振るった男、ショウの手によって。

「おいしい役だよなあ、おまえって」
サブロウタが感心とも呆れともつかぬ声を出した。
「急いできてみたが全てが終わっていた・・・というわけではないのだろう?」
ショウが一同を見渡す。
「本番はこれからだ。ルリちゃんを救出することが」
アキトが言う。
「・・・成る程、ガルダとやらもそこか」
「そういうこった」
リョーコが言った。
  *
「さて、娘との話も終わったのだろう?」
首謀者、ガルダが3人の部下を引き連れて戻ってきた。
「外が騒がしいが、あなたの差し金かな?」
ガルダがプレミアを見る。
「・・・私は知らぬ」
プレミアが顔をあげた。
「まさか・・・」
ルリが思案し、そしてクスリと笑った。
「何がおかしい?」
ガルダがルリを睨む。
「黒い王子様が、私の小さなナイトの道案内でここに来ます」
全てを悟ったルリが悪戯っぽい笑みを浮かべてガルダを見た。
「どういうことだ!」
ガルダが吠えた。

「こういうことだ!」
アキトの叫び、と同時に扉が蹴破られ、飛び込んでくるアキト、サブロウタ、リョーコ、ショウ、ヒカル、イズミ。
「おりゃ!」
部下その1を撃つリョーコ。
「おわりね!」
部下その2を撃つイズミ。
「終わりだぜ!」
部下その3を撃つサブロウタ。
「くっ、おのれえ!」
サブマシンガンを構えるガルダ。銃口がアキトに向けられた。引き金に指をかけるガルダ。
「死ね!」
「させるか!」
ガヴァメントを向けるアキト。
−ズドオン−
銃声が響く。
「ぐあっ!」
ガルダの叫びと同時にサブマシンガンが地面に転がった。
「くそっ!」
再びサブマシンガンを拾おうとするガルダ。
「甘い・・・」
サブマシンガンがまっぷたつに斬られた。
「終わりだ。あきらめて投降しろ」
ショウだった。あの一瞬にすさまじい早さで銃を切り裂いたのである。
「だ、だまれえ!」
ガルダがショウを睨みホルスターに手をかけた。
「どけろ、ショウ!」
−一閃−
「ぐはっ!」
ガルダが血を吐き倒れた。
ガルダが銃を抜くより早く、アキトの弾丸が腹を薙いでいたのだった。
クーデターは、わずか4時間で終結した。反乱軍の敗北という形をもって。
「ルリちゃん、大丈夫か!」
「ルリさん!」
アキトがルリに駆け寄り、ハーリーのウインドウがルリの側に寄った。
「私は平気です。来てくれたんですね・・・アキトさん、ハーリー君」
2人に微笑みかけるルリ。そしてプレミアの方を向いた。
「御免なさい。やっぱり私はあなた方とは住めません、私の帰るところはここではなく・・・」

−スドオン−
銃声が響いた。
 ルリの胸から飛び散る鮮血。
 それは散りゆくバラの花びらのように床を赤く染め上げた。
糸が切られたマリオネットのように倒れ伏すルリ。
 赤い血が彼女の雪花のような白い身体を紅く染めてゆく。
「お、おのれ・・・せめて一太刀!」
息も絶え絶えなガルダの手に握られた銃から硝煙の香りが立ち上っていく。
「てめえっ!」
リョーコの怒号が響く。
−ズドオン−
二発目の銃声がガルダの頭を砕いた。
「ルリさん、一緒に生きようって言ったじゃないですか・・・ルリさん!」
涙混じりのハーリーの声が響く。
「ルリちゃん、しっかりするんだ、ルリちゃん!」
アキトがルリの身体を抱き上げた。
「・・・・・・」
閉じられたルリの瞳。
「そんな・・・嘘だと言ってくださいよ・・・ルリさーん!」

「お客様にご連絡を申し上げます・・・スカンジナビア航空12便、成田行きのシャトルにご搭乗のお客様は、東ゲート14番までお越しくださいませ・・・繰り返します・・・」
ピースランド空港。そこに立つのは・・・。
「行こうか」
トランクを抱えたアキトが立ち上がった。
「ユリカ」
「うん」
置いていた上着とハンドバックを抱えユリカが立ち上がる。
「ラピス」
「・・・・・・」
いつもの白いケープを羽織りポシェットを肩に下げるラピス。
「ハーリー君」
「ええ」
リュックを背負ってハーリーが外を見た。
「それじゃあ、行こうか・・・ルリちゃん」
「はい」
微笑みを浮かべてルリが立ち上がった。
「大丈夫ですか?いくら助かったとはいっても・・・?」
ハーリーがルリの傍らに歩み寄る。
「ハーリー君」
「はい?」
「私、あなたに謝らなければなりません」
ルリがポケットから血がこびりついて固まっている赤茶色の金属を見せた。元は円筒形の物体だったらしきものの真ん中に大きくえぐられたように穴が空いている。
「これは・・・まさか?」
こくりとルリが頷いた。それはあのクリスマスの日に彼から手渡されたペンダントだった。

「どけろ!まだ助かるかもしれん!」
ショウが胸を紅く染めたルリに駆け寄った。
「ショウ・・・」
アキト達一同がすがるようにショウを見た。ルリの脈を取るショウ。
「・・・まだ生きている。王様、この宮殿に手術できる設備は?」
ショウがプレミアを見た。
「・・・案内させよう」

手術灯が消えた。
ショウが手術室から出てきてマスクを取る。アキト、ユリカ、ハーリー、ラピス、リョーコ、サブロウタ、ヒカル、イズミ、秋山が一斉にショウを見た。
「フ・・・」
微笑みショウが親指を立てた。
歓声が廊下に響きわたった。

同じ寝室にベッドが二つ並んでいる。
「すまぬ事をした、許してほしい・・・ルリ」
プレミアが語りかけた。プレミアのたっての願いで2人は同じ部屋に寝かされていた。そして2人の治療はショウが担当していた。
「・・・貴方のせいではありません。気にしないでください」
カーテンを開けてルリが答えた。
「ルリ・・・どうしてもここに戻る気はないのか?」
プレミアが首をルリの方へ向けた。
「私は・・・ナデシコという艦の中で、初めて人の『絆』を得ることができました。被験体としてではなく、道具としてではなく、私を人としてみてくれる人達との」
ルリが天井を見上げた。
「儂らでは・・・そうはならんか」
プレミアが寂しげに語る。
「あなた達の気持ちはよく解ります・・・ですけど、私は自分で勝ち取ったあの絆を捨てたくない。誰かに与えられた環境に流されていくのではなく、自分が一緒にいたいと思う人達の側にいたい・・・」
ルリの心によぎる4人の顔。
「自分で道を選びたいんです」
ルリがまっすぐとした瞳でプレミアを見た。
「・・・そうか」
大きく息を吐くプレミア。
「すいません・・・」
ルリが再び天井に視線を移した。
「いや・・・いいのだ。自分が望む相手と共に生きる・・・それは人本来のあるべき姿なのだろう」
プレミアが微笑みをたたえてルリを見た。
「・・・・・・」
ルリが驚いたように視線をプレミアに向けた。
「・・・大きくなったな、ルリ。親はなくとも子は育つということか」
その表情にあるのは『慈愛』
紛れもなく父が娘に向けるものだった。
「おまえが最も信頼する黒い王子と小さな騎士・・・テンカワ・アキト君にマキビ・ハリ君か・・・」
アキトとハーリーのウインドウがプレミアの前に現れた。
「彼らにはナイトの称号を授けよう・・・国を守ってくれた礼と・・・ルリ、おまえを守るために」
「・・・・・・」

「ナイトか・・・俺らしくないな」
プレミアから渡されたナイトの紋章を刻んだレリーフを見ながらアキトが自嘲気味に漏らした。
「どうしたんだ、アキト?」
後ろからリョーコが声をかけた。
「俺に・・・こういうものは似合わないと思ってさ」
レリーフを見せるアキト。
「ハーリーの奴はえらく緊張してたっけな」
称号の授与式でがちがちになっていたハーリーの姿を思い出したリョーコが思わず笑った。
「ハーリー君にはその資格がある・・・俺がいない間にあの娘を支えてあげたのは・・・彼だ」
レリーフを握るアキト。
「俺には・・・その資格があるのか?生きてることも教えず、彼女を拒み・・・俺は何をしてあげたんだ?」
握る手に更に力がかかった。
「・・・相変わらず鈍いよな」
リョーコが両掌を上に向けて呆れたように言う。
「え?」
「鈍いんだよ・・・ていうか勝手だぜ」
リョーコが一転して真剣な目になり腕を組んでアキトを見た。
「おまえは結局自分の勝手な行動でルリを苦しめていただけだって気がついてんのか?」
「それは・・・」
「だったらおまえのすることは何だ?あいつの幸せを助けてやることじゃねえのか?」
「・・・・・・」
「おら、とっとといってこい」
アキトの背中を押すリョーコ。
「リョーコちゃん・・・すまない」
アキトが歩き出した。
「へへ・・・・・・」
手を振るリョーコ。
「・・・あ、あれ?」
彼女の頬に熱いものが流れ落ちる。
「リョーコ・・・」
後ろからかかるサブロウタの声。
「な、なんでてめえがここにいるんだよ!」
顔を見せずにリョーコが叫ぶ。
「来るんじゃねえ!・・・え?」
サブロウタが無言でリョーコの身体に手をまわした。
「な・・・なにすんだよ・・・」
まわされた腕に力がこもる。
「は、放せよ・・・」
放せなかった、否、力が入らなかった。ためていた涙があふれ出す。
「バカ・・・ヤロウ」

「これに弾が当たって、弾丸が身体にめり込むのを防いだそうです・・・ごめんなさい」
ルリがハーリーに頭を下げた。このペンダントに弾が当たり、弾丸は彼女の胸をほんのわずか刺しただけだった。これがなければ、心臓を貫かれて即死だっただろう。
「そ、そんな・・・いいんですよそんなこと」
ハーリーが慌ててルリの頭を上げさせた。頬を染め頭を掻きつつハーリーが続けた。
「いつか・・・僕に言ってくれたじゃないですか。大切なのは、一緒に生きることだって」
「ハーリー君・・・」
「今の僕には・・・あのときのルリさんの気持ちがよく解ります。大切な人を失う悲しさも・・・一緒に生きることの喜びも・・・あっ」
思わずルリの手を握っていることに気がついて慌てて離そうとした。
「え・・・」
しかし離されることはなかった。ルリがその小さな手を力強く握りしめたからだった。
硬直するハーリー。
「どうしたんだい、2人とも?」
アキトの呼び声が聞こえた。
「行こう・・・ルリ」
ラピスが声を発した。
「あなたの愛すべき人と帰るべき所、それは・・・」





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私はマキ・イズミ。
エステのパイロットで今はバーのママ。
エステのパイロットになるために私たちを育てた一人の女がいる。
その名は・・・
次回、NADESICO THE AFTER NOVEL "FOR THE LOVE OF FAMILY"
  第16話 『獅子』を育てた女
回る因果に巡り会い、星の海へとかき消える。
求めるべきは安息、戦場・・・それとも?
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