-NADESICO THE AFTER NOVEL "FOR THE LOVE OF FAMILY"-

第14話 ルリ『救出作戦』




「正門が押さえられたか・・・」
アキトが呟いた。王宮の周りは高さ10メートルはゆうにある塀で囲まれていた。とてもじゃないが登れる高さではない。
銃声が連続して響く。おそらく警備兵とテロリストの戦闘だろう。
「呆気なく沈んだわね」
イズミが正門の前には倒れ伏す警備兵の姿を見て感想を言った。元々永世中立国という事でこの国は軍隊を持っていない。しかもスウェーデンの一部であった時代から含めて、ここでは最早400年近く戦争が起きていなかった。
「平和慣れしている所にテロリストだ・・・勝負は目に見えてる」
アキトがさっき奪い取ったサブマシンガンを調整しながら述べた。
「市街地の方に大半の兵力を送った・・・ユリカさんの読みは当たったわね」
つまりはピースランドの警備部隊はまんまと陽動作戦に引っかかり、王宮の警備が手薄になったのである。
「首謀者がここの軍隊の司令だからな・・・多分裏工作もあったんだろう」
アキトが呟いた。
「アキトさん、イズミさん、聞こえますか?」
ハーリーのウインドウが現れる。
「ああ、大丈夫だよ」
アキトが答える。
「王宮は完全に制圧されました。警備が手薄だったのが災いしましたね」
ハーリーの口調は暗い。
「ルリちゃんは?」
「無事です。監視カメラの映像を回します」
プレミアの私室に居る3人の姿が映し出された。周りにはサブマシンガンを携えた屈強な男達が4人。
「入れそうなルートは?」
アキトが訊く。
「正面からはまず無理です。たどり着く前にやられてしまう」
ハーリーが王宮の図面を映しだした。図面の随所に赤い光点がある。
「これは何?」
イズミが光点を指さした。
「敵です。総数は確認しただけで70人、こないだよりは少ないですけど全員プロです」
「万事休すか」
アキトが舌打ちした。
「いいえ、そこでですね」

それより少し前。
「クーデター?」
リョーコが素っ頓狂な声をあげた。
「マジかい?」
サブロウタも真剣な面もちになる。
「ええ。実は今の王様・・・ルリちゃんの実のお父さんが病気になっちゃったんです」
ユリカが語り始めた。
「多分、その隙をついて政権転覆を謀る・・・そんなところだと思います。首謀者の名前はガルダ、ここの軍隊の責任者です」
息をのむ一同。
「それで・・・まさかルリもそこにいるってのか?」
リョーコが声を荒げる。
「はい・・・お見舞いにいっていたんです」
ユリカが言いにくそうに口を開いた。
「まずいな・・・人質にされたか」
サブロウタが思案する。
「それで、私たちに彼女の救出を助勢してくれ、と?」
ショウの問いにユリカが頷く。
「私の目的はラピスちゃんを見つけることだけだったんですけど・・・できれば」「まかせとけ!ルリなら他人事じゃねえよ」
即答するリョーコ。
「俺もつき合う。こいつだけじゃどうにも心配だしな」
言ってリョーコの肩を抱き寄せるサブロウタ。
「ば、バカ野郎。オレは別におまえに・・・」
真っ赤になってリョーコが引き離す。
「あなたはどうします?」
ショウに訊ねるユリカ。
「別に構わない(ヤマサキを今追うのは不可能だからな)」
ショウが頷く。
「ユリカさん、聞こえますか?」
ハーリーのウインドウが現れた。ハーリーを見る一同。
「あれ、みなさんどうしてここに?」
「詳しい話は後。進入方法見つかった?」
「はい。ユリカさんたちが今居る森の奥に非常脱出用の鉄道線路があります。そこから進入すれば敵に会わずにルリさんの所まで行けます」
「あれか?」
リョーコが指さした先にある石造りの遺跡らしきものから伸びる線路。
「そうです」

「成る程・・・」
遺跡の中は非常用列車の車庫兼コントロールセンターだった。
「こいつはすげえや」
リョーコが感嘆の声を漏らす。非常用列車は4両編成で戦車並の厚さの強固な装甲で覆われており、中には武器も用意されていた。
「脱出の際の武器・・・か」
サブロウタがガトリングガンを手に取った。
「ショウ、準備はまだか?」
リョーコがコントロールルームのショウ、ユリカ、ラピスに声をかけた。
「あと少しだ。暫し待て」
ショウが答えた。この非常用列車は現在も運行を続けている地下鉄の線路を一部兼用している。そのため直通ルートを作って動かす必要があった。
「でも、何で非常用の列車の線路を地下鉄に使ったんでしょう?」
ユリカが作業を続けるショウとラピスに訊ねた。
「・・・平和ぼけの連中だ『非常』という言葉の意味も忘れたのだろうさ」
ポイントの切り替え装置を動かしながらショウが答える。
「・・・・・・あっ」
ラピスの前のモニターにエラー表示が出た。
「こっちもか・・・」
列車の運行を司るメインコンピューターがショウとラピスの作業を異端行為と見なして回線を分断したことが原因だった。
「うーん、このまま走って王宮まで行けるかな?」
ユリカが訊く。
「・・・今から5分後に97秒間だけ直通ルートが完成。でも時間的には・・・」
ラピスが答えた。
「そのときルートに列車はいる?」
「いいえ」
「そっか、ラピスちゃん」
振り向くラピス。
「ちょっとまずいけど、その時になったら一次的にコンピューターを止めれないかな?」
「ユーチャリスとリンクすれば・・・」
つまり直通ルートが完成している間、全列車をストップさせてその隙に突入するというのである。
「でも、ここのコンピューターじゃそんなに早くつながらない」
ラピスが首を振った。
「・・・仕方ないな」
ショウが刀を取り出す。
「ショ、ショウさん?」
−スパッ−
ショウが自分の右腕を大きく切り裂いた。血の代わりに粘性の強いオイルがどろりと流れ出た。
「ショウ・・・!何を?」
サイボーグであるとはいえ、自分の腕を切り裂いたのだ。ラピスも少なからず驚愕した。ショウはお構いなしにコネクターのようなものを引きずり出した。
「これは?」
驚きながらもユリカが訊く。
「義手のディストーションフィールド制御用コンピューターだ。これについているボソンケーブルを使えばいい。ユーチャリスやオモイカネのレベルには及ばないにしても、通信能力なら申し分ない」
言ってショウはラピスの持つ端末と自分の腕のコネクターをつないだ。つまり通信機能を強化したわけである。
「う・・・でもこれはね」
ユリカが上着を脱いでショウの内部が露出した腕にかけた。
「・・・・・・」
ラピスもあまり見たくないようである。
「どうしたんです?」
サブロウタが訊いた。
「い、いえ別に。ハーリー君、先行しているアキトとイズミさんはもう突入しちゃった?」
「いいえ、まだです」
「よっし、アキト達に列車の通過ポイントを教えてあげて。そこでアキト達を拾ってから行けばいいよ」
「よっしゃあ、作戦開始だ!」
リョーコが叫んだ。

「病人の前です。せめて銃をおろしてくれませんか?」
ルリがテロリストの首謀者らしき男・・・即ちガルダに目を向けた。
「君は軍人だ。君が抵抗しないという保障はない」
にべもなくガルダが答えた。
「今日は武器は持っていません」
毅然とした態度のルリ。プレミアは王妃に支えられてベッドに戻っていた。
「君と問答している暇はない」
ガルダはルリを一瞥した後、プレミアの前に銃を突きつけた。
「さて国王陛下殿、我々の要求は解っていただけますか?」
「・・・バカな・・・こんな事が明るみになれば・・・テーマパークとしての信用が潰え・・・この国は・・・滅びるぞ」
息絶え絶えにプレミアが言った。
「それこそ我々にとっては好都合・・・我々はこの国を根底から変えることが望みなれば」
ガルダは動じなかった。
「あなたにとっても良い話では?国王の重責から解き放たれ、そこのあなたの娘と余生を送ることもできましょう?」
ガルダがルリを指さした。
「・・・娘と話がしたい」
「良いでしょう。しかしあまり時間はとれませんよ」
銃をしまい、ガルダが対通信機用のジャマーをまいて部屋から出た。

「・・・ルリよ、こんな事になってしまって申し訳ない」
プレミアが支えられながら起きあがる。
「・・・・・・」
ルリは何も答えない。
「儂は・・・おまえと暮らすことだけが望みだった」
「王としての後がまがほしかった・・・というのではなくて?」
俯くルリ。
「無かった・・・といえば嘘になろう。だが儂にとってはおまえは儂の娘だ・・・それ以上でもそれ以下でもなく・・・」
「・・・それでも、私は」
胸のペンダントを握りしめた。そこにいる4人の事を想い。
『ルリちゃん、これから一緒に頑張ろう』
−アキトさん−
『ルリちゃん、今度こそ本当の家族になれるね』
−ユリカさん−
『ルリさん・・・僕は・・・あなたのことを』
−ハーリー君−
『ルリ・・・同じなのね・・・私たち』
−ラピスちゃん−
「ルリよ・・・どうしても戻る気は無いというのか・・・」

「あそこだな」
サブロウタが列車にブレーキをかけた。この列車はいわゆるワンハンドルタイプの運転台で、手前にひけば制動がかかり奥に押せば力行するという割合簡単な操作ができた。
「これで4人か・・・」
リョーコが愛用のデザートイーグルに弾を込めた。
「待たせたね」
「町でぼーっとする・・・待ちぼうけ」
扉を開けて入ってくるアキトとイズミ。
「よっし、出発進行・・・」
「待って待って」
叫ぼうとしたリョーコの耳に聞き覚えのある声が届いた。
「ヒカル?おまえどうして?」
Vサインをして列車に乗り込むヒカル。
「へへ、実はここの王子様の一人が私のファンやっててね、ここに招待されてたの」
「成る程、それじゃあ行きますか」
サブロウタがレバーを押した。

「なあ、一つ訊いていいか?」
リョーコがアキトに声をかけた。
「なんだい、リョーコちゃん」
アキトがサブマシンガンと愛用のガヴァメントの予備弾薬を体のあちこちにしまいながら答えた。
「ルリの奴・・・ここに残るのか?」
それはここにいる誰もが思った疑問だろう。
「わからない・・・ルリちゃんがそれを望むなら、俺には止められない」
思わず作業の手を止めるアキト。
「望むと思うのかい?」
サブロウタが声をかけた。
「それは・・・」
アキトが押し黙る。
「初めて俺と艦長、そしてハーリーがナデシコBで顔を合わせたときの事だ」
サブロウタがレバーを惰性走行の位置に戻した。
「年甲斐もなく真面目な人だと思ったよ。だがそれが真面目さから来る事じゃないことに俺もハーリーもすぐに気がついた」
「・・・気がついた?」
リョーコがサブロウタを見る。
「あの人はな、誤魔化そうとしてたんだよ。あんた達を失ったつらさを。ハーリーの奴が先に気がついた。毎晩毎晩あんたの写真を見ながら苦しそうに、泣きそうに語りかけるあの人の姿にな」
サブロウタがアキトをちらりと見てすぐに前を見る。
「・・・ルリちゃんが・・・俺を」
アキトが答える。
「ハーリーがあの人に想いを寄せているのはすぐに分かった。俺もあの人みたいに心の壁を自覚しないでつくっちまうタイプには、ハーリーみたいに自分から歩み寄ってくタイプがいいんじゃないか。そう思って結構応援してやったりもしたさ」
押し黙る一同。
「それでも、あの人はあんたのことを忘れられはしなかった。アマテラス攻防戦の時、コンピューターの暴走事件が起きた」
「あ・・・」
思い出したようにリョーコが漏らした。
「何でも原因は遺跡と融合させられていたあんたの奥さんが起こしたって事だったが、んなことはどうでもいい・・・それよりそのとき出たエラーメッセージが・・・」
「O・T・I・K・A・・・」
リョーコが呟く。
「逆さに読むと、A・K・I・T・O。つまりあんたの名前だ」
サブロウタが目を細めた。
「アキト君・・・」
ヒカルがアキトを見た。
「あの人はすぐに気がついたよ。あんたが何か関係してるって事に・・・一つ教えてくれ。なぜ生きてたなら姿を見せなかった?教える必要がなかったってのは本心じゃないんだろう?」
「あの娘まで・・・巻き込みたくなかった。あんな姿になった俺を、見てほしくなかった」
拳を握るアキト。
「・・・分かっちゃいねえよ、アキト。おまえ全然分かっちゃいねえ」
リョーコがアキトの前に立つ。更に続けるリョーコ。
「あいつの・・・おまえに対する気持ちには気がつかなかったのか?」
「それは・・・」
うつむき沈黙するアキト。
「アキト」
「え?」
−バキッ!−
リョーコの拳がアキトを打った。
「・・・生きてる、そう教えてやるだけでどれだけあいつが楽になったことか。どれだけオレが・・・」
リョーコが後ろを向く。
「サブロウタさん、聞こえますか?」
ユリカの通信が入る。
「感度良好、どうしました?」
「そのままのペースで進んであと3分で到着するそうです。後はハーリー君が道案内してくれますから」
「こっちの用を済ませたら私も行こう」
ショウのウインドウも現れた。
「分かった。聞いての通りだぜ」
ブレーキの音が響き、列車が速度を落とす。
「行くぞ・・・」
リョーコがデザートイーグルを構えた。

「運行システム掌握完了」
ウインドウボールに包まれたラピスの体にナノマシンのタトゥーがぼおっと輝き浮かび上がった。コンピューターと接続するために彼女の体に埋め込まれたナノマシンが活性化しているのである。
「ラピスちゃんさっすがあ。これでみんな着けるね」
ユリカがうんうんと頷く。
「それはそうとして、あんまり長く続けるとここがばれる。帰りまで押さえ込めるか?」
同じようにタトゥーを浮かび上がらせたショウがラピスに訊いた。
「防壁を展開中・・・あと49時間はこっちに干渉できない」
「ガードプログラムか」
頷くラピス。
「ルリちゃん・・・無事でいてね」
祈るように手を合わせるユリカ。
「ルリ・・・」
ラピスが呟く。
「変わったな・・・君も。初めて会ったときはこんなに人のことを心配したりするようには見えなかったのに」
ショウがラピスを見た。
「ルリと・・・色々話したから」
全ての作業を終えたラピスが端末から手を離した。浮かび上がったナノマシンが消える。
「ルリちゃんと?」
ユリカがラピスをのぞき込む。
「私とルリは同じだったから。生まれた境遇も・・・初めて好きになった人も」
目を閉じるラピス。
「アキト・・・なんだね。私のこと・・・恨んだりした?」
ユリカが絞り出すように呟く。ラピスは首を横に振った。
「ユリカ・・・私もルリもあなたを恨んでなんかいない」
「ラピスちゃん・・・」
「恨めなかった・・・あなたは優しかったから。ただの道具だった私を・・・人として見てくれたから」
ラピスが再び瞳を開く。
「それはルリも同じ・・・だからアキトとあなたを祝福した・・・あなたの元から離れたアキトをルリは追いかけた、私はあなた達を導いた」
「ラピス・・・」
ショウが呟いた。彼女のアキトに対する気持ちも、アキトのユリカに対する気持ちも彼は知っていた。本人達の心をあのとき読んだのだから。
「そうすることがアキトにとって一番いいことだと思ったから・・・そのことをルリに話したら・・・私も同じと言ってくれた」
「ラピスちゃん・・・」
ユリカがラピスを抱きしめる。涙が頬を伝いラピスのプラチナブロンドの髪を濡らした。
「ユリカ・・・ルリは帰ってくる?」
「帰ってくるよ・・・絶対。こんなにルリちゃんのことを心配してくれる人がいるんだもの・・・帰ってくるよ」

「準備はいいな」
リョーコが一同を見渡す。頷く一同。列車の扉が開く。
「聞こえますか?」
ハーリーの通信だった。
「ハーリーか、ナビゲート頼むぜ」
サブロウタがハーリーのウインドウを見る。
「ええ。簡単に説明します。ここは非常用の脱出経路なので公式の設計図には載っていないし、入る方法も王様の部屋の入口か今みなさんが入ってきたようにしかありません。ですからここのフロアには敵はいません」
「なんだ・・・拍子抜けしたぜ」
リョーコがデザートイーグルをおろす。
「僕はこれから城のコンピューターを使って敵を分断します。その隙にルリさんを救出してそこから脱出してください」
「分断?どうするんだ」
アキトが訊いた。
「城のコンピューターは僕の支配下にあります。というか制御系を全て僕の所に集中させているんです。敵側が支配したコントロールルームには正常画面のダミーを表示してますから、ルリさん直伝の『ばれないようにハッキング』作戦ですよ」
言いながらハーリーが笑った。つられて苦笑する一同。
「なんだかんだ言って、結構色々教えてもらったんだな」
リョーコが笑う。
「へへ・・・あ、それより道ですけどここのプラットホームの側にあるエレベーターに乗ってください。そこから王様の執務室へ行けます。執務室には敵は3人。そこから出たら右に進んで、突き当たりが寝室です。そこにルリさんと王様と王妃様がいます」
照れながらハーリーが自分のウインドウの横に地図を表示した。
「廊下に敵は7人・・・」
イズミが呟いた。
「更に寝室に4人います。そこにいるのが首謀者ですからそいつを押さえれば」
「全てが終わる・・・か」
サブロウタが引き継いだ。ハーリーが首謀者の顔を表示した。
「この人がガルダ?」
ヒカルが指さした。
「はい」
ハーリーが答える。アキトが銃を構えた。
「突入!」
アキトを先頭に一同がエレベーターに向かって走り出した。

「さってと、そろそろいくか」
ハーリーが再び端末に手を乗せた。
「ハーリー君、準備いい?」
ユリカのウインドウが現れた。
「はい、アキトさん達にも今連絡しました」
「お願いね」
「はいっ!」
ハーリーの手にナノマシンが浮かび上がった。
「ルリさん・・・」

「一つ教えてください」
ユリカがコードを切り離すショウに訊ねた。
「何か?」
「あの男と・・・ヤマサキとはどういう関係なんですか?」
ユリカが訊いた。自分を遺跡と融合させ、アキトを変えた科学者。ヤマサキ・ヨシオ。ラピスが顔をこわばらせた。彼女にとってもあの男は自分をいいように弄び、苦痛を伴う実験を与えた男の一人なのだから。

−これが、ラピスですか−
−こんな子供に、あのルリと同じ力が?しかし哀れですな。ヤマサキ博士?−
−今更何を、他の連中をさんざん殺しておきながら?それとも幼女趣味ですか?あなたは?−
−まさか、それでは実験を始めましょうか−
−代わりはありません・・・大事に使うとしましょう−

ラピスに過去の記憶がよみがえる。震えるラピスの体を優しくユリカが抱いた。
「・・・奴は、オロチ出身者なのさ」
ショウが懐からヤマサキが持っていたのと同じダガーを取り出した。
「このダガーはオロチの出身者であることを示すものだ。奴も持っている」
柄の部分にはオロチの紋章が刻まれていた。
「オロチ出身、やっぱり・・・いつか言ってたみたいにオロチに飽きて地球に降りた?」
「いや・・・違う。奴は、追放者だ」
ショウが口ごもった。
「追放者?」
ショウがラピスをちらりと見て申し訳なさそうに話し始める。
「奴は、ある研究をしていた。そのために、奴は多くの子供をさらい被験体にした・・・」
「研究?」
「キマイラプロジェクト。奴はそう呼んでいた」
「キマイラ・・・複数の生物を融合させて作る生物ですけど・・・まさか?」
ユリカがはっとする。
「強化兵士を作るためだったそうだ・・・ユリカ、君と遺跡を融合させたのもその技術らしい」
「そんな・・・」
「事実が発覚した時すぐに私は奴の研究所を押さえ、奴をとらえた。その後奴は一週間分の食料と酸素を与えられて宇宙に飛ばされた・・・死んだと思っていたが・・・」
「生きていた・・・」
ラピスが初めて口を開いた。
「かつて奴とは友人として親交があった・・・だから直接殺すことをためらった。あのとき首をはねておけば、君たちをここまで苦しめることもなかったのかもしれない・・・すまない」
「あなたのせいじゃないですよ」
ユリカがはっきりと口を開いた。
「あなたは自分のできる最良の選択をしたんです。あなたが恥じることはないですよ。絶対に」
ユリカがにっこりと微笑んだ。

「・・・さて、私も行くか」
コネクターを腕の中にしまい、ショウが立ち上がった。
「・・・待って」
ユリカに抱かれていたラピスが駆け寄り、ショウの斬った腕に自分のハンカチを巻き付けた。
「お、おい・・・」
自己再生能力があるから心配ない、といいかけてショウが口を閉じた。ラピスの瞳に映る悲しみと心配の心が分かったからだった。
「・・・ルリを、アキトを・・・」
「分かっている・・・大丈夫だ」
優しくラピスの頭を撫でるショウ。
「・・・ごめんなさい」
ラピスが瞳を潤ませて頭を下げた。
「何故・・・君が謝る?」
「私は・・・あなたをアキトの代わりにしようとしているのかもしれない」
ラピスが拳を握った。爪が食い込んでいく。
「それなら私も同じだよ」
ショウが優しく微笑んだ。
「え?」
「私も君にライラを重ねているだけなのかもしれない・・・」
ラピスの肩に置かれる彼の手。
「でも・・・」
「人を好きになる気持ちというのは、何なんだろうね?」
優しく問いかけるショウ。
「遺伝子が子孫を残すことを求めるから?それとも人の欲望を正当化しようとしているから?自分の心が不完全だから?」
「不完全な心?あなたが?」
ラピスが意外そうな顔をする。
「不完全だよ・・・私は。悩み、傷つき、苦しむ・・・完全な心を持つというなら、そんな苦しみは味わうこともない」
「・・・・・・」
「誰かの代わりを求めて誰かを好きになる・・・最初はそれでもいい。いや、本当はダメなのかもしれない。それでも、いつか本当にお互いが必要となる・・・そんなときがきっと来る・・・その日を信じる、それじゃあダメかな?」
 ショウが懐からCCを取り出した。ショウの体が青白い粒子に包まれた。
「・・・・・・・」
ラピスが顔を上げ、彼女の唇がかすかに動いた。
『あなたも死なないで』
そう言ったのではないか、ショウは何故かそんな気がした。





PREVIEW NEXT EPISODE

私はイネス・フレサンジュ。
 元ナデシコ医療班兼科学班主任。現在はボソンジャンプの研究者。
クーデター部隊の目的、それは退廃したこの国を根底から変えること。
つまり平和ぼけに嫌気がさしたわけね。
でも、どんな理念を持っていても所詮はクーデター。
その信念は認められるかしらね?
次回、NADESICO THE AFTER NOVEL "FOR THE LOVE OF FAMILY"
第15話 愛すべき人と『帰るべき所』
ピースランド編完結。
 ルリちゃん、あなたの愛する人は誰?
感想には返事を必ず出すそうよ。よろしくね。
宛先は→ここ感想メールよ

作者のOROCHIさんに感想メールを出す


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