-NADESICO THE AFTER NOVEL "FOR THE LOVE OF FAMILY"-

第10話 輝く『想い』




「おりゃ、ボディが・・・がら空きだぜ!」
リョーコの拳が暴走族の一人に突き刺さった。白目をむいて暴走族が倒れる。しかし再び彼女の前に別の暴走族が立ちはだかった。
「身の程を知りな!」
サブロウタのキックが暴走族達を薙ぎ払う。それでも何せ数が多すぎた。ユリカの概算ではその数およそ500。これではルリとハーリーを助ける前にこちらが死にかねなかった。
「数が多い・・・畜生」
アキトにも徐々に疲れが見え始めていた。
「うーん・・・そうだっ!確か・・・」
ユリカがコミニュケを開いた。

「な、なによあれ!」
運転席に座るミナトが驚愕の声を上げた。この車は暴走族達から巻き上げたものだ。
「な、何人居るんだ!」
道を埋め尽くすような暴走族たちの数に恐怖するジュン。
「・・・約、500人」
ラピスが手元の端末でデータを集める。
「あれ、誰か倒れてる。警官?」
ユキナが指さした先、道の真ん中に倒れる数人の警官と壊されたパトカー。
「止まってくれ」
ユキナの言葉に助手席に座るショウが言った。倒れた警官にショウ達が駆け寄る。
「何かあったの?」
イネスが倒れた警官を抱き起こした。
「しゅ、集団暴走行為で逮捕しようとしたら・・・逆に・・・応援を呼んでいる暇もなかった・・・うっ」
職員が血を吐いて意識を失った。脈を取ったイネスが首を振る。
「早く、連絡を」
ジュンがコミニュケで警察に連絡する。
「・・・仕方ないか。イネス、ここにいる生き残りの治療を頼む」
「それはいいけどショウ、あなたはどうするの?」
「無論アキト達に加勢する。いくらバカでも数が多すぎる」
ショウが懐からCCを取り出した。彼は火星生まれの人間ではないが、サイボーグ化と遺伝子操作によりCCを使えば単独での生体ボソンジャンプが可能であった。つまり肉体改造によりA級ジャンパーの能力を得ており、ボソンジャンプで直接アキト達のところへ行けるのである。
「待ってください、僕も行きます」
ジュンが願い出た。
「君は彼女たちを守ってやってくれ。第一君はボソンジャンプの遺伝子操作は受けてないだろう?」
生体ボソンジャンプのためには火星生まれの人間を除いて遺伝子操作を受ける必要があった。ここでジャンプができるのは火星出身のイネス、遺伝子操作を受けたラピス、ショウの三人のみ。
「それは・・・」
「彼女を守ってやりな」
ショウがジュンの肩に手を置き、ユキナの方を見た。
「さて・・・ん?」
ラピスがショウの腕を掴んでいだ。
「家族を・・・見捨てたくない」
すがるようにショウを見るラピス。
「連れてってあげなさい。分かるでしょう?彼女の気持ちは、それに彼女の力が役に立つわよ」
イネスが微笑んだ。
「フ、そうだな。よし、行くぞラピス」
ラピスが力強く頷いた。

「どうした、ざまあないな」
「ち、畜生・・・」
 片膝をつくハーリー。顔は腫れ体中痣と擦り傷だらけで、骨までやられたのか左腕が上がらない。アキトやリョーコは他の連中と戦っていて応援は期待できない。自分の横には意識を失い縛られたルリがいる。
「へっへっへっ」
相手が一歩、また一歩と歩み寄る。無造作な足の踏み込み、隙だらけだった。それほど相手には余裕があった。
「う、これまで・・・なのか」
ハーリーがなんとか立ち上がった。
「てめえにつき合うのも飽きたわ。死ねや」
冷徹な目でハーリーを見るリーダー。
「死ぬ・・・?いや・・・まだ・・・死ねない・・・あの人の・・・ためにも」
痛みをこらえながら左腕を振った。最後の力を振り絞る、彼は知ってか知らずか自然体で立っていた。
「覚悟は決まったか?」
その言葉に臆さずにハーリーが相手を見据えた。その態度に怒りを露にするリーダー。
「すかしてんじゃねえぞ!」
暴走族リーダーの鉄拳が飛ぶ。
「僕は・・・あの人の・・・ために!」
ハーリーが飛び込む。ハーリーの顔面を狙う拳を左腕ではじいた。はじかれた勢いで拳の向きが大きく狂う!
「うおぉぉぉぉぉっ!」
踏み込む勢いを利用したパンチが暴走族リーダーの水月、即ち鳩尾に食い込む!相手の突進するエネルギーとこちらの踏み込むエネルギーがあわさって拳が食い込んだ。要するにカウンターアタックである。
「ぐふっ」
「これで・・・どうだあ!」
そのまま拳を滑らせ、崩れた体の顎にアッパーを入れた。
「が、ガキめ・・・」
暴走族リーダーの体が仰向けに倒れた。
「う・・・ルリ・・・さん」
ハーリーがルリを見た。呆気にとられる他の暴走族。
「ハーリー・・・君」
ルリが目を開いた。何があったのかを彼女はすぐに理解した。彼が自分のために戦ってくれたのだという事を。彼の顔は痣だらけで、体のあちこちが血で汚れていた。彼は格好悪いけど格好良かった。
『お姫様を守るのが、ナイトの務めだろ』
彼女の記憶によみがえった、ぼろぼろになりながらも微笑んでくれたアキトの顔。
−あのときと・・・同じ・・・彼は、私のために命をかけてくれた−
ルリの胸に熱いものがよぎった。彼が昨日何をしたかなんてどうでもよかった。自分のために命をかけた彼の姿にアキトがだぶった。
「ルリ・・・さん」
ハーリーがよろよろの足取りでルリに歩み寄る。
一歩、また一歩。
「ハーリー君・・・」
ルリが瞳を潤ませる。
「・・・・・・」
ハーリーが手を伸ばす。その細くも力強い彼の手がルリの頬に触れようとする。
その時だった。
「こんの・・・ガキャア!」
腹をおさえて暴走族リーダーが立ち上がる。右手にはナイフを握っていた。
「おおーりゃあ!」
リーダーの振り下ろした拳がハーリーの背中に当たり、彼の体が地面に叩きつけられた。
「うあっ!」
短い悲鳴をあげてハーリーが倒れる。
「ハーリー君!逃げて!」
ルリが叫ぶ。鎖で縛られており動くことはできない。
「・・・ル・・・リ・・・さ」
ハーリーがルリに手を伸ばす。
「さっきのは、痛かったぜ!」
伸ばした腕を踏みつけるリーダー。悲鳴をあげるハーリー。
「やめてっ!」
ルリが叫ぶ。
「ぶっ殺してやる!」
ナイフが振り下ろされる。
「ハーリー君!」
ルリの悲鳴が響きわたった。

「が・・・て、てめえどっから」
「え?」
しかしルリの眼前で繰り広げられた光景は意外なものだった。
「なんとか・・・間に合ったな」
この場にボソンジャンプしてきたショウがナイフを持つ手を握っていた。横にはラピスもいる。ショウが握った手に力を込めた。
「ぐあっ・・・て、てめえは・・・」
痛みに耐えかね、リーダーがナイフを落とした。
「それまで。丸腰の相手に武器を用いるのは感心しないな」
ショウが落としたナイフを踏みつけ、ハーリーの腕を踏みつぶすリーダーの脚を蹴り飛ばした。その勢いで後ろに後ずさるリーダー。
「てめえ、誰だ!」
別の男が叫ぶ。
「生憎、君たちのような外道に名乗る名は持ち合わせてはいない」
−キイン−
一閃。ショウのふるった刃がルリを縛る鎖を切り裂いた。
「ハーリー君!」
ルリがハーリーに駆け寄る。
「ラピス、2人を頼む。いざというときはこれを」
ショウがラピスにヘッドリングとCCを手渡した。このヘッドリングはイメージング補助装置とも言うべきもので、イメージングができないために単独でのボソンジャンプができないB級ジャンパーのために開発された装置だった。因みにショウの場合はこの装置を体の中に埋め込んでいるのである。イネスの言っていた彼女の力とはこの装置を使えることだったわけだ。
「・・・・・・」
ラピスが心配げにショウを見る。
「心配するな」
 軽くラピスの頭を撫で、ショウが再びリーダーと向かい合う。
「何だ、今度はてめえが相手するのか?弱いくせにいきがるとどうなるかわかってんだろうな?ええこら!」
リーダーが怒鳴り立てる。
「そう『生兵法は怪我の元』良く解っているな。リーダーだけあって少しは頭も切れると見える」
3人をかばうように立つショウ。
「バカかてめえは。泣かすぞこら」
「泣かす・・・成る程。しかし大勢で一人をなぶるような奴に負けるほど弱くはないつもりだがね」
「おいおい、勘違いすんじゃねえよ。俺はそこのガキとタイマンはっていたんだぜ」
「タイマン?事情がよくのみこめないな」
「そこのガキが俺に勝てたらそこの女を助けてやるっていう条件でな」
リーダーがルリを指さした。
「だったらとっとと助けるべきではないのか?」
「なにい?」
「わからないのか?素手の相手に武器を持ちだした時点ですでに君の負けは決まっている」
「何だとこら!」
「リーダー、こいつもやっちゃいましょうよ。いつものこれで」
リーダーにダガーを渡す暴走族。
「そうだな・・・死ねや、バァーカ」
ダガーを抜くリーダー。
「さて、真のバカはどちらか・・・」
刀を構えるショウ。
「死ねや!そこのガキと一緒にな!」
「・・・君に、彼を愚弄する資格はない!」
リーダーとショウが走る。
 2人の体がすれ違う。
刹那・・・
−ブシュッ、ピュウウウウウ−
「う、がああああああっ!」
四肢から血を流し倒れるリーダー。傷一つなく見下ろすショウ。
「武器の強さは鍛えるものと使うものの『腕』と『心』で決まるもの。君にはどちらもない」
ショウが刀を納める。
「い、いてえ・・・ちくしょおぉぉぉぉぉっ!」
威勢も消え果てもがくリーダー。他の暴走族達は震えていた。
「怒りや愚かしさを通り越して哀れにすら思えてくるよ。君は本当の意味での命の奪い合いをしたことがあるのかね?」
ショウが冷たく見下ろした。
「ひ、リーダーがあ!」
「じょ、冗談じゃねえ!」
「お、俺は御免だぜ!」
蜘蛛の子散らすように逃げ去る他の暴走族。
「この手の組織はボスがやられると呆気ないものだ・・・何?」
ショウがリーダーが落としたダガーを拾い上げた。
そこに刻まれているのは、オロチの紋章。
「おい、これをどこで手に入れた」
ルリ達に悟られないように小声で訊ねるショウ。
「こ、こないだ盗んだ車の中にあったんだよ。な、なあ、俺はまだ死にたくねえよ・・・」
がたがた震えるリーダー。
「・・・いつだ?持ち主は知らないのか?」
ショウがリーダーの首を掴んだ。
「い、一週間前だ。名前は・・・そうだ、車の中のカードにヤマサキと」
「ヤマサキ・ヨシオといわなかったか?」
「そ、そうだ。ひっ」
ショウがリーダーの首を離した。
「奴が・・・?誰が奴を解き放ったというのだ?」

「ハーリー君!」
ルリがハーリーの体を抱き起こした。
「ルリさん・・・。へへ・・・僕はやっぱりナイトにはなれませんでしたね・・・情けないや」
ルリが首を横に振った。
「そんなことない。私のために必死になってくれたハーリー君は・・・立派です・・・ありがとう」
ルリがハーリーの体を抱きしめた。

「こ、こいつをどうやれってんだよ・・・」
「はは・・・マジでまずいよな」
「冗談、でしょお」
「接待で命を失う・・・絶体絶命」
「くそっ、ルリちゃん達を助けるどころかこんな・・・」
リョーコ、サブロウタ、ヒカル、イズミ、アキトの前に立つ暴走族達。
「へっへっへっ・・・死ねやーぁ!」
突っ込んでくるバイク達。
「一難去ってまた一難・・・か」
サブロウタがリョーコをかばうように立った。
「ばか、死ぬつもりか」
リョーコの声にサブロウタはいつものニヒルな笑みを浮かべた。
「それも・・・悪くないかな。死ぬのは女の膝の上って決めてたんだが・・・おまえと一緒ってのも悪くない」
「ばか・・・やろう」
リョーコがサブロウタの背中を抱いた。
「死ねーーーーーーーーーー!」
轟くエンジンの音。タイヤの焼ける臭い。
それは、狂者の咆吼。それは、業火の臭い。

「させぬわっ!」
凛としたショウの声が響いた、吹き飛ぶ暴走族達。
「ショウさん!」
再びボソンジャンプしたショウが彼らの前に立ちフィールドを展開させたのだ。脇にはルリを抱えている。フィールドに激突したバイクの暴走族が他の連中を巻き込んだのである。
「・・・・・・」
同じようにボソンジャンプしてくるラピス。彼女の脇にはハーリーがいた。
「ま、間に合ったようだな」
「はあ・・・はあ」
ショウとラピスが肩で息をしている。さすがに他人を連れて2回も連続で生体ボソンジャンプをしたので体への負担も大きいようだ。しかしそれも彼に比べれば。
「ハーリー君!」
ユリカがぼろぼろのハーリーを抱きとめた。
「ユリカ、おまえはハーリー君を連れて病院へ行け。ラピスとルリちゃんも連れていってくれ」
様子を見て取ったアキトが言う。
「わかった。ラピスちゃん、位置教えて」
こくりと頷き端末に手を置くラピス。
「う・・・」
がくりと倒れるラピス。
「ラピス!」
駆け寄るアキト。
「連続2回のジャンプはきつかったか・・・」
ショウがラピスの脈を取る。
「おい!まさか・・・」
アキトがショウを睨む。
「違う。ただ単に疲労のせいだ。命に別状はない」

「の・・・野郎!やってくれるじゃねえか!」
残りの暴走族達が飛びかかる。
−ドキューン!−
銃声一発。先頭のバイクのタイヤがバーストした。
「うわわわぁぁぁぁぁっ!」
派手にこける暴走族。
「ば、バカ巻き込むな!」
吹っ飛んだバイクが別のバイクに当たってまたこける。以下同じように連鎖的に20数台巻き込んだ。
「ぬん!」
吹っ飛んだバイクに対し一同をかばうようにフィールドを張るショウ。
「銃声?」
「新手か?」
あたりを見回すアキトとサブロウタ。
「あれは・・・」
ルリが指さした先に現れる白いライダースーツ人間達のバイク。先頭のバイクに銃を持った男がいた。
「畜生、これまでか」
サブロウタが舌打ちした。
「ううん、違う」
ユリカがはっきりと言う。彼女の言葉通り白いライダースーツ達は暴走族達を四方から囲み、圧倒的な力で暴走族達を切り崩していく。その中の一人がルリ達の前にバイクを止め、ヘルメットを取った。
「お久しぶりです、少佐」
ややはねた前髪を持つ黒髪の男だった。
「ア、アララギ大佐!?」
ルリもさすがに唖然とした。宇宙軍のこの人が何故ここに?
「ルリちゃんの知り合い?」
「以前、ユリカさんを救出する作戦の時に私たちの護衛を務めた艦隊の司令官です」
目を丸くするアキトに冷静さを取り戻したルリが答える。
「あなたですか、ミスマル・ユリカ。私たちに知らせてくださったのは」
アララギがユリカに会釈した。
「今はテンカワ・ユリカですよ」
ユリカがにっこりと笑い指摘した。
「はは、これは失礼」
「どういうことです?」
「ルリちゃん知らなかった?店に来ているルリちゃんのファンはたいてい宇宙軍の軍人さんでこの人がファンクラブのリーダーなんだよ」
ルリが記憶の糸をたぐり寄せると確かにアララギは一度店に来ていた。
「私はたまたま出張でここにいたのですが、妖精を汚そうとする不埒な輩がいると聞き同志を連れはせ参じたわけです」
ルリは『宇宙(そら)に咲きし白き花、電子の妖精ホシノ・ルリ』と呼ばれていて、軍内部のアイドルだった。しかしアララギはともかく他の連中はここの近くにいる軍人達だろう。ここまで規模の巨大なファンクラブができていたとは、さすがのユリカも驚きを隠せない。
「すまないが、車かバイクを貸してもらえないか?」
ショウが一歩前にでて、ハーリーを指さした。
「彼は、確かマキビ・ハリ?」
「君たちと同じ、彼女を守るために命をかけたナイトだよ」
ショウの言葉にアララギが頷いた。アララギが車を一台呼んだ。
警察のサイレンの音が響く。
「遅いよ・・・来るのが」
ユリカの台詞には怒りと呆れが混じっていた。

「それじゃあ、その装置には触れないでくれ」
「はい」
集中治療室から出ていくショウとイネスにルリ、アキト、ユリカ、ラピスが会釈をした。ハーリーの口には呼吸器が付けられ、体中包帯に巻かれていた。腕には点滴が施されている。そしてデスクライトのような機械が体の各所に赤い光を浴びせていた。これは一種の放射線治療用の機械で、この機械が放射する光で代謝機能が活発化し、人間本来が持つ自己修復能力を高める機械だった。これとヒールデヴァイス(体組織修復用のナノマシン)を複合利用することにより、何とか危機は脱していた。
「ごめんなさい、しばらく席を外してもらえませんか?」
ルリの言葉にアキト達が無言で席を立った。

「前にも・・・こんな事があったな。アキトを追っかけたとき」
リョーコが呟いた。
「ああ・・・」
アキトが顔を上げた。
「あいつに・・・俺が生半可な格闘技なんかを教えたからか」
サブロウタが壁を叩いた。
「止せ。そんなことを言ったらナイトになれとたきつけた私もだ。それに、あいつらが襲ってきたんだ・・・結果は同じだった」
ショウがサブロウタの手を押さえる。
「ルリちゃんと仲直りさせるどころか・・・こんなことに」
アキトが拳を握った。
「ハーリー君・・・」
ユリカが祈るように病室を見た。
「・・・・・・」
不安げに病室を見るラピス。ラピスがユリカの手を握った。
「・・・大丈夫、大丈夫だよ」
ユリカがラピスを抱きしめた。

どれほどの沈黙が流れたのだろうか。ハーリーが目を開き、自分で呼吸器を外した。
「ハーリー君!」
「ルリ・・・さん」
震える手を伸ばすハーリー。
「私はここ」
優しく彼の腕をルリが握った。
「ぼ・・・僕は・・・あのとき・・・何も」
息も絶え絶えにハーリーが口を開く。
「分かってます・・・アキトさんから全部聞きました」
ルリが瞳に涙を浮かべて彼を見た。
「・・・ありがとう」
ルリがハーリーの額を撫でた。
「そ・・・そんな」
「もう、誰かを失って悲しむことはしたくないから・・・あなたも、私の大切な人だから・・・」
ルリが潤んだ瞳でハーリーを見る。
「ぼ、僕は・・・自分が、いやでした」
ハーリーがハアハアと息を荒げながら必死に言葉を紡ぐ。
「生まれたときから・・・僕は・・・自分がただのモルモットにすぎないことが分かっていました」
「ハーリー君、もうやめて。そんなに無茶をしたら・・・」
ルリが呼吸器を取り付けようとする。
「それでも・・・あなたと出会って・・・人として生きることを・・・教えてもらって・・・」
ハーリーが構わず喋り続ける。
「僕は・・・アキトさんのように強くもない・・・ショウさんのように高度な知識が・・・あるわけでもない。ゴホッ」
 ハーリーがむせかえった。
「ハーリー君!」
ルリがハーリーの背中をさすった。
「でも・・・好き・・・です。あなたの・・・ことが。ナイトには・・・お粗末ですけど・・・へへ、ギャグですよね。何の取り柄もない僕が・・・」
言いかけたとき、ルリがハーリーを抱きしめた。
「ルリさ・・・」
「強さじゃない、賢さじゃない・・・私なんかのために、命をかけてくれるあなたが、私は好き」
ルリが微笑んでハーリーを見た。
そっと彼の額に、ルリは自分の唇を重ねた。

彼は今、ナイトだった。

PREVIEW NEXT EPISODE

やあ久しぶり、アカツキ・ナガレだ。
僕も今まで出番がほとんどなくて、いやホント辛い目にあったよ。
しかしハーリー君かい、彼もなかなかやるねえ。
好きな女のために命をかけるなんて、そうそうできやしないよ。
さて、次回はあまり僕からは言いたくないネルガル最大の汚点の話。
その名は9TH PLANT。
ショウがかつて所属し、ラピスを生み出したネルガル最悪の研究所。
そこでかつて何があったのか?
ショウは何故オロチに留まったのか?
いくらかの謎が明かされる。
次回、NADESICO THE AFTER NOVEL "FOR THE LOVE OF FAMILY"
第11話 雪の日の『ライラ』
期待してくれよ。

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