機動戦艦ナデシコif「誰よりも早く貴方に出会っていたら・・・」

第十七話:「冬の花」は私の心

 

 

「くしゅ。」

・・・失礼しました。皆さんお元気でしたか?星野瑠璃です。

前回で遂に皆勤賞を逃してしました。・・・何のことか分からない?・・・じゃ、いいです。

今私は、ナデシコにいます。といっても、正確にはナデシコのエアーダクトの奥、小さい小部屋みたいになっている所なんですけど。

ナデシコは一度火星で沈んでますので、現在の船体は火星で作られた物。

地球のネルガルの所有している設計図には書かれていない、こういった隠し部屋が幾つもあるんです。

なんで戦艦に隠し部屋が必要なのか、私にはよくわかりません。ウリバタケさんが言うには、

「過去の苦い経験」から、隠し部屋は必要不可欠なんだそうです。

ま、備え有れば憂い無し。役に立ってるんだから、いいとしましょう。

けど、さすがに隠し部屋だけあって、普通の部屋では当たり前のエアコンも何にもありません。

今の季節は冬だけあって、結構冷え込みます。あ、心配しないで。

とりあえず今のところは、このホウメイさんがくれた防寒着を着込んでいるんで、大丈夫ですから。

もっとも防寒着とはいっても、その外観はまるっきり着ぐるみ。それもネコの着ぐるみです。こんな物、ホウメイさんどこから調達したんでしょうか?

こんこん。

あ、ホウメイさんからの合図です。食事時間ですね。

「ほい、お待たせ。今日は寒いねえ。どうだい、調子は?風邪なんか引いてないだろうね?」

「はい、大丈夫です。いつもすいません。」

「なあに、いいってことよ。天河から、おまえさんのことはよろしくっていわれてるんだから。

ま、天河の作った料理じゃないから、おまえさんの口には合わないかも知れないけどねえ。」

「そ、そんなことありません。おいしいですよ、ホウメイさんの料理。」

「ふふふ、顔に書いてあるよ。『天河のチキンライスが恋しい』てさ。」

「え?!」

おもわず顔に手を当ててしまいましたけど、そんなことあるはずがありませんよね。

「ふふっ、図星だねえ。ま、好きな人の手料理がなんたって一番だからねえ。」

「・・・はい。」

「おや、素直だねえ。」

・・・自分でも、驚いてます。以前の私なら、こういうことを言われたら照れ隠しに、ムキになって否定するか、

「ばかばっか」とつぶやいていたかもしれません。

明人さんと別れてはや四週間。・・・会いたい。あの人に、会いたい。

あの人に会えないのが、こんなにも辛くて、こんなにも苦しいなんて・・・

あの人の優しい笑顔・・・

あの人の優しい声・・・

あの人の優しい目・・・

あの人の・・・

あの人の・・・

 

「じゃあ、あたしは行くよ。食器は此処にいつものように置いといとくれ。」

「はい。ありがとうございます。」

 

「ん、しょっと。ふう。」

「どうだった?子猫の様子は?」

「おやあんたかい、イネスさん。まだ営業時間外で、店は開いてないよ。こっそり忍び込むなんて、いい趣味とはいえないねえ。」

「ちょっとはびっくりするかと思ったんだけど、かわいげがないわねえ。」

「あはは、こんなおばさんに何いってんだい。それにオモイカネが監視してるから、見つかっちゃいけない人間に入られたら、

とっくに警告されてるさね。」

「そりゃそうね。で、子猫はどうしてる?風邪なんかひいてないわよね?」

「そう言う心配はないみたいだけど、元気はないね。なんせ四週間だから。」

「そう、よね・・・四週間か・・」

「で、何かあったのかい?あんたが用も無しにこんな時間に、此処にくるはずないからねえ。」

「図星ね。簡単に言うわ。出航、五日後に決まったわよ。」

「五日後か・・・ずいぶん急だねえ。」

「四週間もここに係留しっぱなしだったのよ。むしろ遅かったくらいね。クルーの補充に結構掛かったんでしょう。」

「あの連中の代わりなんか、そうそう見つからないだろうからねえ。まったくあの連中ときたら・・どうしてるかねえ、あの連中はさ。

ま、とりあえずあたしは食料の補給をめいっぱいしておくかねえ。」

「じゃ、私は医薬品か。子猫の方にはよろしくいっといて。じゃ。」

「おや、もう帰るのかい?コーヒーぐらいおごるよ。」

「あんまり部屋を空けっぱなしにすると、監視の人間に気づかれるから。じゃあね。」

 

所変わって、こちらは雪谷食堂。今は忙しい昼食時の激戦も一段落し、店の裏手で九十九と明人が、昼休みを利用して格闘技の特訓をしていた。

「たああっ!」

「甘い!脇ががら空きだぞ!」

「くっ!・・・まだまだ!」

「もっと踏み込みを早く!」

「・・・言われなくても!」

 

「はあ・・はあ・・はあ・・・・・」

「よし、今日はここまでだな。まだまだだが、とりあえず形だけは出来てきたな。」

「はあはあ・・あ、あんたらは、いつも、こんな訓練を、してるの、か・・」

「まあな。木星は重力が強いから、自然と鍛えられるし。地球では重力制御が発達しているせいか、体力的には木星の人間の方が強いんだ。」

「・・・コックって体力勝負だから、その点だけは負けない積もりだったんだがなあ・・」

「ははは、戦闘員とコックじゃ、求められる体力の質が違う。別に引け目を感じる必要はないさ。

さ、そろそろ昼休みも終わりだろう。厨房に戻ろうか。」

「ああ。」

 

「ホイコロ定食にカツ丼一丁!急いでねー。」

「あいよ!こちらさん、ラーメンと炒飯セット、あがったよ!」

「おい兄ちゃん!さっさと皿洗い済ませねえか!後がつかえてんだよ!」

「は、はい!」

昼と晩の食事時は、食堂にとっては戦場である。戦士である彼、白鳥九十九にとって、戦場は慣れ親しんだもののはずだが・・・

この戦場は、そう言うわけにはいかなかったようである。

「うふふ、白鳥さん、が・ん・ば・れ。」

「は、はい。」

「ミナトさん、これ三番にお願いします!」

「はーい。お待たせしましたー。」

「ありがとうございましたー!」

「白鳥さん、大丈夫っすか?」

「あ、ああ、天河くん・・・な、なんとか・・・」

「ふう、やれやれ。兄ちゃん体力ねえなあ。見ろよ、あの姉ちゃんの方がよっぽどタフだぜ。」

「は、は・・・」

 

そして、その夜・・・同じく雪谷食堂。その屋根の上。

 

「さ、寒くありませんか、ミナトさん。」

「だーいじょーぶ。うふふ。ほら、こうすれば・・・」

「あ、あ、あ、ミ、ミナトさん?!」

「ほーら、こうやってくっつけば暖かいわよ。」

「は、はひ・・」

「綺麗な月・・・ね?」

「は、はひ・・」

 

「・・・春だねえ・・・」

「え?今は冬っすよ?」

「いや、屋根の上が、さ。・・・ま、いいやな。さて、それじゃ試食してみっか。」

「はい、才蔵さん。お願いします!」

「どれ・・・」

かちゃかちゃ・・・

 

「ど、どうですか?」

「・・・十年はええ。」

「そ、そうですか・・・」(がっくし)

「・・・が、そこいらの百年はええ連中の作った炒飯よりは、はるかにましだ。十分客に出せる。合格だ!」

「あ、ありがとうございます!才蔵さん!」

「ナデシコの、ホウメイ・・だったか?いい師匠についたな。」

「はい!」

「あ、おい明人。そっちの皿はは何なんだ?」

「え?あ、これは・・・」

「なんだ、チキンライスじゃないか。何で・・そうか、なるほどな。瑠璃の好物だからな。」

「・・・はい。」

「どうしてんだろうなあ。なあ、明人。」

「ええ。・・・大丈夫だと、思います。きっと・・・」

「そうか・・・」

「大丈夫、だよね・・瑠璃ちゃん・・・」

 

『どう、オモイカネ?調子は?』

《はい、瑠璃さん。ネルガルに上書きされた部分も、ほぼ消去終了しました。ダミーのデータプログラムも順調に稼働中。》

あの事件の後、ネルガルはオモイカネに、会社の命令に絶対服従になるようなプログラムを入力してきました。

コンピューターにまで逆らわれちゃかなわない、てな訳ね。

でもこの私が目を光らせている内は、勝手にはさせません。

まあ、入力している端からプログラムが消去されてるなんて、普通思わないでしょうけど。

『うん、よかった。もう少しの辛抱だからね、オモイカネ。』

《はい。そう言えば瑠璃さん、まもなくメグミさんのラジオが始まる時間ですが。》

『もうそんな時間?分かった。お願い、オモイカネ。』

元声優だったメグミさん。ナデシコを降りた今は、過去の経験ってヤツを生かして、ラジオのパーソナリティーのお仕事をやってます。

結構人気有るみたいで、『メグたん』の愛称で呼ばれたりなんかしてます。

【・・・さて、そろそろお時間も残り少なくなってきました。最後に私『メグたん』こと、メグミ・レイナードからラジオの前の貴方に、メッセージを送ります。

今日は、誰に送っちゃおうか・・あ、雪・・・みんな、今外では雪が降ってます。ここスタジオの窓からも、白い雪が見えます・・・

雪で、思いだしちゃった。・・みんな、ごめんね。今日のメッセージ、私の知っている、大切なお友達に送りたいと、思います。

・・・瑠璃ちゃん、聞いてる?】

え?私?

【ねえ、瑠璃ちゃんと明人さんが、始めて会った日も、こんな雪の日だったんだよね。

握りしめた明人さんの手がとても暖かかったって、瑠璃ちゃん言ってた。

二人一緒に暮らして、二人一緒に歩いてきて。何よりもお互いを大事にして。

私は、そんな明人さんのこと、いいなって思ったんだ。私にも、そんな優しい人が側にいてくれたらな、って。

うらやましかったんだよね、きっと。

だから、明人さんに私を見てもらいたかった。振り向いてもらいたかった。

私のこと、好きになって欲しかった。だから、同じ様に明人さんを好きな艦長・・・百合花さんと、明人さんを取り合ったりもした。

でも、あの時・・・

あの時、あたしは明人さんを信じることが出来なかった。

あたしの中の明人さんは、「優しい」明人さんだったから。

「優しいだけ」の明人さんだったから。

だから、白鳥さんを憎んで、殴り続ける明人さんは、あたしの明人さんじゃなかった。

あんな明人さん、見たくなかった・・・

でも瑠璃ちゃんは、目をそらさなかった。どんなことをしても、どんな風になっても、明人さんは、瑠璃ちゃんの信じた明人さんだから。

全部・・・辛い時も、悲しい時も、嬉しい時も、全部・・・あの人と歩いていたから・・

瑠璃ちゃんの胸の中で泣いている明人さんを見たとき、私、分かっちゃった。

”ああ、瑠璃ちゃんも明人さんのことが好きなんだ”って。

”妹”としてじゃなく、一人の”女の子”として、好きなんだって・・・

えへへ、だから私はもう、いいの。私の恋愛はもうお終い。だって、かなわないんだもん。

これからは、おーえんするね。艦長なんかに負けちゃダメだよ!

そして瑠璃ちゃんに、この歌を送ります。明人さんと瑠璃ちゃんの、想い出の始まり。

今日のような雪が降っていた、あの日を歌ったようなこの歌。

この歌のタイトルは・・・「冬の花」】

そして、流れ出したメロディー。

優しいピアノでつづられた、透き通るような歌詞・・・

ありがとう、メグミさん・・・うん、決めた。

【冬の花】                                              瑠璃:『オモイカネ』
 
 
OP                                             オモイカネマークに上書きされた、ネルガル

吐息が白く煙る朝にも                                      のマークが消されていく。復旧していく

降りやまない冬の花に目覚める                                システム。そして、クルーの腕に付けられ

ねえ 憶えてる?                                          たコミュニケが、作動する。映し出される

はじめて手をつないだ季節も                                  懐かしい顔ぶれ。見つめ合う瑠璃と明人。

同じ空の色だった                                         照れながらも明人が何かを言い、同じく

どんなに凍えそうな夜も                                      ほんのわずか頬を染めた瑠璃が、応える。

あなたのとなりにいて                                        冷やかすウリバタケ。益々赤くなる二人。

あたたかい気持ちになれたの                                   拍手と喝采。照れる明人。うつむく瑠璃。

長い夜を越えて                                            むくれる百合花。

                                                     やがて瑠璃の口から語られる事実。ナデシコ

                                                     生存の報。そして瑠璃は、最後にこう言った。

                                                     瑠璃:『この艦は、私たちの艦です。』

 

透きとおる風の中にたたずみ                                    頷く明人、ハルカ、ウリバタケ、百合花。

揺れている波の声に心預ける                                    クルーの面々。勇ましい雄叫びと共に、三機

言葉にできないもどかしささえ                                     のエステバリスが、深い森より飛び立つ。

すべてわかってくれたよね                                       才蔵との別れを惜しむ明人、ハルカ、九十九。

ふたり 刻んだ時間の中で                                       明人の肩を軽くたたき、激励する才蔵。

輝き続けるものを                                            店の裏の空き地。シートの中から現れる、

この胸にぎゅっと抱きしめて                                     明人の エステバリス空戦フレーム。

明日の力にして                                             スパナを懐にしまい込み、出ていこうとする

あなたが大切に思う                                           ウリバタケ。後ろから、奥さんが一言、二言

かけがえのない夢を                                           声をかける。ゆっくりと振り返るウリバタケ。

あきらめないで信じていて                                        その表情は、優しい。

私はここにいるよ                                              ウリバタケ:『きっと、帰ってくる。』

 

                                                        奥さんが差し出す番傘を受け取るウリバタケ。

降り積もっていく雪のように                                        なぜか火打ち石を切る奥さん。ゆっくりと

あなたを想っている                                             彼の姿が雪景色の中にとけ込んでいく。

                                                        ネルガル会長室。机の引き出しの中に置かれ

やがて春の陽射しの中で                                         た、ナデシコの作動キー。ゴートは手に取ろ

きっと微笑んでいて                                             うとして、一瞬躊躇する。が、やがて微かな

                                                        笑みを浮かべると、キーを取り、部屋を出て

つよい何かに負けないように                                        いった。

つよくあり続けたい                                              ブリッジで一人待つ瑠璃。メグミが現れ、隣

どんなときも輝いていて に座る。                                     微笑む二人。ゴートが、ウリバタケが、プロス

冬の花のように                                                が、そして百合花が、ブリッジに現れた。

真っ直ぐ空を見上げ                                             作動する相転移エンジン。レーダーに映る

                                                         エステバリス四機の機影。着艦する機体。

      ED                                                  一人一人が、真っ直ぐに、前だけを見つめて。

 
 
       百合花:「機動戦艦ナデシコ、発進!」
 
 
1999/11/21 かがみ ひろゆき
                       *文中にて流された歌は、キングレコードCDアルバム「電子の妖精」 #4:【冬の花】 からでした。

 

 

                             ///あとがき///

どうも、こんにちは。かがみ ひろゆきです。今回のナデシコif「誰よりも早く・・・」、いかがでしたでしょうか?今回はCDアルバム

「電子の妖精」#4「冬の花」をBGM で流していただくと、より雰囲気が味わえると思います。さて、今回でシリアス編も無事終了。

次回は恒例の特別編をお送りいたします。サブタイトルは「愛のあわわアワー(仮)」・・・内容は・・・秘密です(笑)。

それでは次回をお楽しみに!

 

                               −−−次回予告−−−

ウリバタケ:よおっ!みんな元気にしてたかあ?さあて恒例の次回予告だ!今回は俺様のとっておきの秘蔵ビデオ・コレクションからの出題だ!

       いやー、巨大ロボットはいい!男のロマンってやつだよなあ!そんじゃ、いっちょいってみようかー!

       やあやあ、今回も楽しんでもらえたかな?それじゃ次回の予告だ。ここんとこ固いお話ばっかりだったから、

       息抜きがてらの軽いお話をいってみようか!次回ではな・な・ななーんと!劇場版キャラのラピス・ラズリが何の脈絡もなく登場!

       ただし、おちゃらけだから、みんな怒らないでくれよな!そしてもう一本は(なんと次回は二本立て!)

       WOWOWノンスクランブルで好評放映中のロボットアニメ「ザ・ビッグオー」をパロディ化!どうする気なんだろうねえ、作者は。

       さて、それじゃ次回機動戦艦ナデシコif特別編「愛のあわわアワー(仮)」に、スイッチ・オン!

 

      前回の予告は「宇宙の騎士テッカマン・ブレード」でした。正解者はめるう゛ぃるさん、岡崎昌宏さん、真神(仮)さん、門卓さん、

      Wakamatuさん、Kitaさん、の六名でした。おめでとう!

なお今回の予告は、Wakamatuさんにアイデア提供をしていただきました。ありがとう!

ヒントは、敵役の三幹部がブンドル・ケルナグール・カットナルというものすごいネーミングだったことです。

ではそのお一人に、星野瑠璃さんをご覧になってのご感想を。

「これは・・真に、美しい・・・」



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