機動戦艦ナデシコif「誰よりも早く貴方に出会っていたら・・・」

第十五話:「私たちの戦い」が始まる

//ACT・1//

 

重い空気が、部屋に立ちこめてます。私とメグミさん、ハルカさんは今、コスモスの一室で軟禁状態です。

まあ敵の機動兵器のパイロットとおぼしき人物を匿い、あまつさえ逃亡の手助けまでしたんですから、当然と言えば当然ですが。

あの後、結局ユキナさんは捕まっちゃったんですけど・・・コスモスの艦長「キャプテン・ローウェル」。

あの人が彼女の、その、「兄」だと言うんです。もし本当ならあのしゅこぱーさんも「木星蜥蜴」だと言うことになります。

でも、そうだとすると、なぜ敵である人間が地球の戦艦の艦長をやっているんでしょうか?

ユキナさんがうそを付いているとは思えませんし・・・

いえ、それ以前に問題なのは、ネルガルは木星蜥蜴の正体を以前から知っていた、ということです。

全てを知りながら全てを隠し、正義など何もないと知りながら正義の戦いであると主張し、私たちを偽って、人殺しをさせようとしていた・・・

ぷしゅー

突然部屋の扉が、開きました。私たちがドアの方を見ると、そこにいたのは・・・

艦長、です。ナデシコ艦長、ミスマル・百合花。それと、プロスさん。

「瑠璃ちゃん、メグちゃん、ハルカさん。遅くなってごめんねー。やっとエリナさんから許可が下りたのー。もう大丈夫だからねー。」

「艦長・・・どうなったんですか、あれから?ユキナさんは無事なんですか?」

私の言葉に、艦長ちょっとだけ困って顔をしてます。どうやらあんまりいい状況じゃあないみたいです。

「・・・そのことなんだけど・・・とりあえずこの事件の関係者である瑠璃ちゃん達三人と、ナデシコ、コスモスの両艦長、それに明人。

これらの人間を集めて、ネルガルが緊急の話し合いをしたいって言ってるの。部外秘で。」

他のクルーに知られちゃいけない、って訳ですか・・・

「というわけで、どうぞこちらに。皆さんおまちです、はい。」

プロスさん、相変わらずの営業用スマイル。・・・でも、なんかいつもと違うみたい。

すごみというか、内側からにじみ出る物が感じられます。

「・・・一つ、質問していいですか?プロスさん。」

「はい、何でしょう、瑠璃さん?」

「プロスさんはこの事、知っていたんですか?木星蜥蜴の正体が、同じ人間だったってこと・・」

「・・・いえ、私はネルガルから何も知らされておりませんでした、はい。」

・・・なるほど、この人も蚊帳の外、ってわけね。現場の人間には何も教えたくないってことですか。

「まったくひどいよねー。艦長たる私にさえ教えてくれないんだもんなー、ぷんぷん。」

この人は相変わらず・・・

「ねえ、部外秘だって言ってたけど、そうなると秘密を知っちゃった私たち、これからどうなるのかなあ?ねえ、ミスター?」

今度はハルカさんがプロスさんに向かって質問です。確かに、そこの所は気になるところですが。

まさか口封じ、だなんてことはないでしょうけど・・・

「ご安心を。企業にも体面という物がありますので、秘密を知った者をどうこうするなんてことは表だってはできませんから。

それに・・・艦長とも話したんですが、秘密は、皆が知ってしまえば秘密じゃ無くなりますから、はい。」

・・・?また、何かたくらんでますね、この人。

「瑠璃さん、ちょっとお耳を拝借・・・こしょこしょ・・」

・・・そう言うことですか。・・・悪人、ですね・・・

 

コスモスの一室に集められた人たち。私たち三人と、艦長、プロスさん。それに明人さん。

そして渦中の人・・ユキナさんと、しゅこぱーさん・・もとい白鳥、・・確か九十九さん、でしたね。

今は例の妖しいコスチュームを脱いで、白い昔の学生服みたいなのに着替えてます。

でも二人とも、なんで離れたところに座ってるんです?ユキナさん、そっぽ向いてますし。

明人さんも・・・腕組みして部屋の壁に寄りかかってますけど、その表情は・・今まで私が見たことがないくらい険しい表情をしています。

白鳥さんは、「木星蜥蜴」。明人さんの両親を殺した、いわば親の仇なんですから・・・

「揃ったようね。まったく困ったことしてくれたわねえ、あなた達。特に女三人と、・・白鳥さん。」

重苦しい雰囲気の中、エリナさんが口火を切りました。

ねめつけるようなエリナさんの視線が私たちをぐるり、と見回します。そして、最後に白鳥九十九さんの所でその視線がぴたり、と止まります。

「特に白鳥さん。貴方の正体は絶対秘密にしてくれって言っておいたでしょう?その条件と引き替えに、コスモスの艦長になれたのよ。」

「・・・処罰は覚悟の上です。もとよりこの身、すでに死したるものと思っています。今更何の・・」

「もう死んでる、ですって!?ふざけないでよっ!!」

エリナさんと白鳥九十九さん、両者の会話に割り込んだのは・・・ユキナさん。

かなり興奮状態です。

「お兄ちゃんが死んだって聞かされたとき、あたしがどれだけ泣いたか知ってんの!?あたしは、お兄ちゃんは、地球の奴らとの戦いで

勇敢に戦って死んだと思ってたわ!だからお兄ちゃんの意志を継ごうって思って、月読さんや草壁中将に頼み込んで、

優人部隊に入って・・・女が戦いに出るなんて、って陰口を言われたりもしたけど・・・それでも・・」

「ユキナ・・」

「それが、なによ!よりにもよって地球の、敵の側で生きていて、おまけに地球の戦艦の艦長?!私たち木蓮を裏切って!?

ばか!さいてー!!あんたなんかお兄ちゃんなんかじゃない!」

うつむいたユキナさんの表情は、こちら側からはよく見えません。

でも・・こぼれ落ちる滴が、ユキナさんの膝に小さなしみをつくっているのが、分かります。

「ねえ、エリナさん。彼・・九十九くんが、木星側の人間の彼が、なんでコスモスの艦長をやってるのか、説明して上げてくれないかな?

なんか深い事情があるみたいだし、ユキナちゃんもこのままじゃ納得行かないと思うし。」

見かねたハルカさんが、エリナさんに説明をうながしてます。少し考えていたエリナさん、軽く首を振ると話し出しました。

「そう、あれは地球と木星が戦争状態になった始めの頃・・・今の人類のテクノロジーを遙かに越えた木星兵器群の攻撃に、

地球の軍隊は火星を追いやられ、瞬く間に月軌道まで勢力下に置かれてしまったわ。でもネルガルは、それらに対抗する事の出来る

新造宇宙戦艦「ナデシコ」を建造、着々と反撃の準備を整えていた。そんなある日、奇妙な人物が保護されてきたわ。

身元不明、遺伝子情報もデータバンクに登録されておらず。ただ本人の自供によれば、

「自分の正体は、今地球と戦争状態にある木星蜥蜴」だった。もちろん、最初の内は誰もそんなこと信じなかった。

ちょっと頭がおかしいんじゃないのか、ぐらいにしか思わなかったわ。ただ遺伝子をちょっといじくった形跡があったから、

他の企業が秘密裏に行っていた、遺伝子操作のモルモット・・もとい、サンプル試験体かなんかじゃないか、と思ってね。

ネルガルが保護したんだけど・・」

「彼の言っていたことは本当だった、と言う訳ですか。」

プロスさんの言葉に、エリナさんうなずいてます。

「あの日・・・会長と、会長秘書であった私は、この白鳥さんを連れてネルガルの研究所に向かったの。

目的は彼の遺伝子の調査及び、完成したSVS2002「オモイカネ」の専属オペレーターの引き渡しの件について・・・」

オモイカネの専属オペレーターって・・・私!?ということは、「あの日」って、明人さんのご両親が・・・亡くなった日なんですか?

「エリナさん、それって、俺の父さんと母さんが死んだ日のことっすか!?」

驚く明人さんに、エリナさん沈痛な顔でうなずきます。あの日、研究所で一体何が・・

「そこから先はこの僕が説明しようか?」

突然明後日の方向から声が掛かりました。皆が一斉に振り返ると、そこにいたのは・・・アカツキさん。なんでこんな所に?

「アカツキ君?!」

「アカツキ?!なんでおまえが?!」

「ひどいなあ、エリナ君。この僕を抜きにして、こんな大事な話をするなんて。」

「で、でも、あなたは!」

「いいじゃないの。みんなここまで秘密を知ってしまったんだ。毒をくらわば皿まで。

あの日現場に居合わせたのも、何かの縁ってね。」

あの日現場にって・・あの日研究所には天河さんのご両親の他は、少数の研究員がいただけで、他には・・・

白鳥さんと、エリナさんと、ネルガル会長・・・まさか?!

「もしかして、アカツキさん、あなたの正体って・・・」

「おや、気が付いたか。さすがだねえ、瑠璃くん。そう、お察しの通り、僕がネルガルの会長さ。」

「・・・ええええええっ?!」

やっぱり・・・でも、これでまた新たな謎が一つ、出来てしまいました。

なんでネルガルの会長が戦艦に乗り込んで、エステのパイロットなんかやってるんです?

「はい、期待通りの反応、ありがとう。いやー、いいもんだねえ。この正体がばれる時の悦楽の瞬間。やっぱこうでなくっちゃ。」

「そ、そんなことはどうでもいいんだ!アカツキ!おまえ、父さんと母さんが死んだあの日、あの場所にいたってのか?!」

「天河くん・・「そんなこと」はないだろう、「そんなこと」は・・まあ、いい。確かにあの日僕とエリナ君、それに白鳥君の三人は、確かに研究所にいた。

そして、あの日・・研究所は、「木星」の連中の襲撃を受けたんだ。無人兵器群だけじゃなく、れっきとした「人間」の襲撃者にね。

その連中の目標はネルガル会長、もしくは元火星研究所所長・天河氏の身柄の確保。その目的は、

両者だけが知っている火星「遺跡」の所在地の情報。」

「火星の・・「遺跡」?」

「そう。彼ら木星蜥蜴が火星を占拠した目的。この戦争終結のカギを握る物。けれども、その所在地は要として知れず。

ま、我らネルガルが施したカムフラージュは完璧ってことかな?発見できない「遺跡」の情報を何としても入手しようと、

潜入してきた木星の特殊部隊の襲撃によって、我らは初めてその正体に気が付いたってわけ。

幸いにも僕とエリナ君は、この白鳥君のおかげで彼らの手から逃れることが出来たが・・・君のご両親は、その、不幸にも・・・」

さすがのアカツキさんも、こと「人の死」に関しては、言葉を濁してます。

「とにかく、「遺跡」の所在地を入手するための情報源は、もはや僕一人。テロの対象になるのは慣れっことはいえ、

さすがに四六時中狙われるとなるとねえ・・しょうがないから、危険きわまりない地上から逃げて、戦艦に乗り込んだってわけ。

その際白鳥君にはボディ・ガードとしてコスモスに一緒に乗り込んでもらったんだ。

なにしろ木星の特殊部隊とやり合えるのは彼しかいなかったんでねえ。」

そういうことですか・・あの日、そんなことがあっただなんて・・・

真相を知った明人さん、怒りと悲しみと、様々な感情が入り交じった表情をしています。

固く、血がにじむんじゃないかと思うほど固く握りしめられた拳が、明人さんの怒りを物語っています。

「でも、なんで白鳥さん私たちに・・「地球」に協力してくれるの?あなた・・・「木星」側の人間、なんでしょう?」

ハルカさんが、少し遠慮がちに白鳥さんに聞きました。ぴくり、とユキナさんが身じろぎしたのが見て取れます。

「・・・・私は、木星にいた頃は軍の中心で、活動をしていました。当初の木星側の戦争目的は、火星ー月までの範囲を制圧した後、

地球側が過去に犯した数々の罪を告発、それによって地球側の戦争意欲を低下させ、講和に持っていく。

しかる後木星ー地球間で新たなる秩序となる新政府を樹立・・それが、我らの用意した筋書きでした。

しかし、いざ戦争が始まり、あまりにもあっけなく火星・月が手中に収まった為、軍部は増長してしまった・・

『木星ー地球両政府による共同政権など生ぬるい。正義の代弁者である我ら木蓮が人類全てを統括・管理すべきだ』

という過激派が台頭するようになってしまった。私たちは『今現在は我ら木蓮が優勢だが、元々国力が違う。

講和は有利な状況の内に成さねば意味がない。』と意見したのだが・・・

それでも、少々の過激派の抵抗があるとはいえ、当初の筋書き通りに行くはずだった・・・『あの男』の裏切りさえなければ・・・」

「『あの男』?」

ようやくユキナさんが、顔を起こしてくれました。白鳥さんは、少し躊躇してるみたいですけど・・・

「・・・おまえが信じてくれるかどうかは、分からないが・・・おまえも知っている、あの男・・・『月臣元一郎』」

「!?」

がたん、と音を立てて勢いよくユキナさんがイスから立ち上がりました。なんだかかなりショックを受けてるみたいですが・・・

「お話の途中、すいません。月から緊急通信が入ってるんですが・・」

突然、ブリッジにいるアオイさんが、ウインドウに現れました。月からの通信?

「ち、ちょっと、何でコミニュケが繋がってんのよ?!この部屋は今、プライベート機能で外部からのアクセスは不可能になっているはず・・・」

はっ、とした表情で、何かに気づいたエリナさんが、プロスさんの方に顔を向けます。

プロスさん、明後日の方向に向いて、口笛なんか吹いてますけど・・・

「やってくれたわね・・・まさか、艦内にこの部屋の状況、ばらしてくれるなんて・・」

「密室での密談てのは、あんまり趣味ではありませんので、はい。

それに実際命を賭けて戦っている皆さんが、何も知らされていないというのはあんまりですから。」

にらみ合うプロスさんとエリナさん。間に挟まれる格好になったアオイさん、困っちゃってますけど。

「あ、あのー、通信が・・」

「分かってるわよ!何!?」

「は、はい。月基地からの通信ですが・・・『現在月基地は敵の機動兵器の攻撃を受け、半ば制圧されつつあり。」

「な、なんですって?!」

月基地が、襲撃を受けているんですか。駐留していたコスモスが離れた隙に、ってやつですね。

「は、はい。その際、敵機動兵器の・・その、パイロットとおぼしき人物から勧告を受けたそうです。」

「勧告?!」

「はい。内容は、こうだそうです。『地球軍に告ぐ。先の戦闘に於いて、こちらの機動兵器の操縦者を捕虜にしたはずだ。

直ちにこちらに引き渡すよう要請する。もしこれが聞き入れられぬ場合は、この月基地を破壊する。おとなしく引き渡してくれれば、

今回は退く事を、優人部隊・月臣元一郎の名において約束しよう。』以上です。」

「月臣さん?!」

「月臣だと!?」

ほとんど同時に、ユキナさんと白鳥さんが、声を張り上げました。どうやら知ってる人みたい。

「で、あのー・・・どうしますか?」

「何のんびりしてんのよ!さっさと発進して!月の救出に向かうのよ!」

エリナさんに怒鳴られたアオイさん。貧乏くじですね。でも・・・

「で、でもブリッジ要員と、艦長が・・」

そうなんですよね。私たちがここにいるとナデシコは動きません。

「・・・くっ、いいわ、今回の事件に関するあなた達の処分は、一時保留とするわ。直ちに持ち場に戻って!」

どうやら不意の襲撃に助けられた格好になりましたね。でも、これからどうなるんでしょう?

部屋を出る際、ちらりと見た明人さんの横顔は、今まで私が見たこともないくらい険しい表情・・・

今までご両親の仇と思って戦っていた「木星蜥蜴」。その敵が、目の前に突如現れた・・・それも、同じ「人間」として・・・

もしこのまま、仇を討とうとすれば・・・明人さんは、人殺しをしてしまうことになります。

でも、そんなこと明人さんに、出来るはずがない・・そう、思いたい・・

だって、あの人は・・あの人は・・私の・・

 

・・・・To Be Continued

 

1999/10/21 かがみ ひろゆき

 

                             ///あとがき///

どうも、かがみ ひろゆきです。前回に引き続き、今回もなんかシリアスな、て言うか、堅苦しいお話になっちゃいました。

とりあえず第二話辺りからの伏線がようやくでてきましたが・・・それにしてもギャグもラブラブも少ない・・・

TV版もこの辺りではかなりシリアスでしたが 、あんまり固っ苦しいのはねえ・・ナデシコらしくありません。

なにはともあれ、今少しシリアス編、お付き合い願いますね。では、次回も機動戦艦ナデシコifを、みんなで読もう!

 

                             ///次回予告///

            ゴート:月臣元一郎。白鳥九十九。彼らの過去に、一体何があったのであろうか?

            白鳥ユキナ。彼女と、その兄との確執は埋まるのであろうか?そして・・・天河明人。

            両親の仇を目の前にした彼は、その手を血に染めるのか?瑠璃は、待つ。彼を信じて。

            次回機動戦艦ナデシコif、第十五話「『私たちの戦い』が始まる」//ACT・2//

            君は、刻の涙を見る・・・

 

前回の予告は「美少女戦士セーラームーン」でした。正解者は真神(仮)さん、KOUKYOUさん、Kitaさんでした。おめでとう!


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