機動戦艦ナデシコif「誰よりも早く貴方に出会っていたら・・・」
からからから
「・・・ねえ、ちょっと、・・」
「しっ。静かになさい。もうちょっとだから。」
「せ、狭い・・・」
「あんまり動かないでください。キャスター壊れちゃいます。」
「・・うーん、うーん、あんこがでるよー・・」
「な、何のギャグですか、それ?」
どうも、星野瑠璃です。前回の続きです。
お風呂場に突如現れた謎の美少女(本人評価)白鳥ユキナさん。
その正体は、どうやら私たちが今まで戦っていた「木星蜥蜴」。(本人談)らしいんです。にわかには信じられない事実。
でも、どうやら嘘じゃないみたいです。
こういう場合、軍に引き渡すのが筋なんでしょうが・・・相手は十四歳の女の子。
過酷な取り調べを受けるのが分かっているのに引き渡すなんて、ちょっと気分的に嫌ですし。
だからミナトさんが「彼女を逃がしてあげよう」って言ったときも、割合すんなりと賛同しちゃいました。
キャッチ&リリースってやつでしょうか?
でもさすがに部外者のユキナさんを連れてうろちょろするわけにもいきませんし。
とりあえず部屋にかくまうことになり、ユキナさんを脱衣所にあった、洗濯物を運ぶキャスター付きのワゴンに押し込んで、廊下を歩いています。
このまま何とか部屋に着けば・・・
「そこで何をしている。」しゅこーぱー
どっきーん
突然後ろから声をかけられてしまいました。私たちがおそるおそる後ろを振り返ると・・
いました。黒づくめの、奇妙なマスクをかぶった男・・・「キャプテン・ローウェル」
「再度問う。そこで何をしている?」しゅこーぱー
相変わらず奇妙なエアー音を立てながら喋ってます、この人。・・・そうか、もう三時間経っちゃったのか。
コスモス、いつの間にかドッキングしてたんですね。
まずいですね。この場をなんとかごまかさないと・・・あれ?この人の後ろにいる人って、もしかして・・・
「あ、あの・・・明人、さん?」
「え?・・あ、瑠璃ちゃん?」
おそるおそる呼びかけてみると、出てきました。やっぱり明人さんです
そっか、コスモスが来てるんなら当然明人さんも・・・よかった・・最後に見たときと変わらない、いつもの明人さん・・・
「あら、明人、くん?」
「明人さん!」
ハルカさんやメグミさんも気が付いたみたい。そういえば艦長の姿がないのがちょっと不思議ですけど・・・
あ、そっか。警戒態勢中で持ち場から離れられないんだ。
ラッキーですね。ええっと・・・こういう場合まずは・・「おかえりなさい」って、・・言ってあげるんですよね。うん。
「あ、あの、明人さん・・おかえ・・」
「再び問う。何をしている。」
・・・忘れてました。この邪魔者の存在。明人さんと私の間に立ちふさがるようにしてる
この邪魔者を排除しないと、おかえりなさいも言えません。・・・あれ?何か違うような・・・そうでした。
今はそれどころじゃなかったんでした。この場は何とかごまかして逃げるのが先決ですね。
「・・・どうも。見ての通り、洗濯物を運んでるんです。」
「非常警戒態勢中のはずだ。持ち場に着くか、そうでなければ自室に待機。悠長に洗濯などやっている暇はないはずだ。」しゅこーぱー
・・・とりつく島もありません。
「いいじゃない、お洗濯くらい。固いこと言・わ・な・い・の。」
でました。ハルカさんのお色気攻撃。でも、この人に果たして効き目があるかどうか・・
「き、規則は規則だ。軍人ならばそれくらいは分かっているはずだ!」しゅ、しゅこーぱー
おや?結構効き目があったみたい。
「あたし達、まだ軍人じゃないしー。」
「た、確かにナデシコ乗員の、軍への編入はまだだが・・いや、そんなことはどうでもいい!とにかく、非常警戒態勢中だ!
直ちに自室か配置部署に戻るんだ!」しゅこーぱー
「でもー、お洗濯がまだだしー。」
「し、下着なぞ二、三日替えなくとも、死にはしない!」しゅこーぱー
「男の人はそれでいいかもしれないけど、あたし達は女なのよ!デリカシー無いんですね!」
今度はメグミさんが食ってかかっています。なんとか押し切れますかどうか・・
「く・・と、とにかく戦場は男の職場だ。汗くさいのがいやなら、女性は後方で待機しているんだな。」しゅこーぱー
あ、その言葉、女性差別ってやつです。そう言うのミナトさん結構嫌ってるから・・
「ちょっと、そう言うのよくない・・」
「女が戦いに出て、何が悪いのよっ!!」
「あ。」
「え?」
「は?」
「な・・」
・・・やっちゃいました。ワゴンの中からすっくと立ち上がり、ユキナさんがしゅこーぱーさんをにらみつけています。
この人、敵の真ん中にいるっていう自覚無いんでしょうか?
「あんたみたいに威張ってるばーっかの男、さいてー!女だって戦えるんだから!バカにしないでよ!」
「お、おまえは?!」しゅこーぱー
「ええーいっ!」
ちょっと頭抱えてたミナトさんが、いきなりワゴンを押して、脱兎のごとく逃げ出しました。慌てて私とメグミさんも後を追います。
「ばか!なにやってんのあんたは!」
「だあって、ああいう連中って腹立つんだもん!女だからってだけでロボットにもなかなか乗せてもらえなかったし・・」
「ミ、ミナトさん!どうするんです!?追っかけてきましたよ!」
メグミさんの言葉に慌てて後ろを振り返ってみると、ほんとです、追いかけてきます。
しゅこぱーさんと明人さん。
「ち、ちょっと待ってよ、瑠璃ちゃん!?」
すいません、明人さん。今回だけは・・・逃げます。
「待て!ちょっと待つんだ!」しゅこーぱー
待てと言われても、待つ人間はいないでしょう、普通。
よく刑事物のドラマなんかで、「待てー!」なんていいますけど、人間てなんであんな無駄なことするんですかね。
・・・すいません、話が少し脇道にそれちゃいましたね。
「どうします?このままじゃあ、追いつかれちゃいますけど。」
「・・・・こうなったら・・・」
がばっ
ミナトさん、何を?!
「必殺!下着隠れの術!」
ばああっ!!
ちょっと、ミナトさん!?
「どわあああ!??」
ミナトさん、いきなりワゴンの中に手を突っ込むと、中にあった下着を、後ろから走ってきた明人さんとしゅこぱーさんに向かって投げつけたんです。
二人とも突然飛来した下着に視界を遮られて、転倒しちゃいました。
「な、なんて事するんですか!ミナトさん!」
「しょうがないでしょ、この際!」
「あ、ててて・・なんだ、これ?」
あ、明人さん、それ・・・その手に持ってるのって・・わ、わたしの!
「だめーっ!明人さん、見ちゃだめーっ!」
「へ?もしかして、これって・・・る、瑠璃ちゃんの?!!」
「あ、明人さんの、ばかーっ!」
「ち、ちょっと待って瑠璃ちゃ・・どわあああ?!」
どんがらがっしゃーん!
「ち、ちょっとルリルリ?!あなたもなんて事するのよ?!」
「はあはあはあ・・・け、結果、オーライ、です・・・」
明人さんとしゅこぱーさんは、突如飛来したワゴンにつぶされちゃいました。
・・・ユキナさん巻き込んじゃったみたいで、一緒に目を回してますけど。
「ほら、そんなとこでのびてないで。さっさと逃げるわよ!」
「うきゅー・・・」
「ち、ちょっと・・・待てっつんてんだ、ろ・・・」しゅーーこーーぱーー・・・
だから、待てませんてば。
「はあ、はあ、はあ・・・ど、どうするんです、これから?」
「ふう、ふう・・とにかく、格納庫に向かって・・確か、脱出艇があるのよね、例のゲキガン・タイプには?」
「ゲ、ゲキガン・タイプって、マジンの事?そ、そうよ、首のところがそのまんま飛べるようになってるから、それで逃げることが出来るわ。」
「とにかく、そういうことならば格納庫に向かわないと・・でも、この警戒態勢の中、どうやって・・・」
「うーん・・・」
ほんと、どうしましょう?さっき見つかっちゃいましたから、もう同じ手は通用しませんよね。
「いた!瑠璃ちゃん!」
!見つかっちゃいました。明人さんとしゅこぱーさんです。またも追いかけっこの再会です。でも、これじゃあいずれ捕まっちゃうでしょう。
どうしましょう?
「はあ、はあ、・・・ど、どっかに・・・!あ、あった!」
ミナトさんが飛びついたのは・・・ダスト・シュート、ですか?
「早くこの中に!」
「え!?で、でもこれって、もしかして・・」
「つべこべ言わないの!捕まりたいの?!」
「あ、あたしはゴミじゃないんだから・・」
「ええい、メグちゃん手伝って!この子を放り込んでちょうだい!」
「あ、は、はい!」
「ち、ちょっと、やめてええ!」
「ええい、往生際の、わるい・・・」
「おいっ!ちょっと待て!その娘は!」しゅこーぱー
「まずい、早く!」
「だ・か・ら・!あたしはゴミじゃないんだからっ!」
「ユキナ!私だ!」しゅこーぱー
「・・へ?」
がしゃっ。からーん。
「私だ!おまえの兄、白鳥九十九だ!」
「・・・・は?!」
・・・ずるっ
「あ。」
「あ。」
「あ・・」
「あっきゃああああぁぁぁ・・・」
・・・落ちた。
・・・・もしかして、続く?
1999/10/14 かがみ ひろゆき
<<<<次回予告>>>>
ミナト:月。女神の名を持つこの衛星で、今、悲しい戦いが始まろうとしている。
正義と、憎しみと、絆と・・・
なぜ・・・争わなければならないの?戦いたくないのに。
なぜ・・・泣いているの?敵が討てるというのに。
なぜ・・・止められないの?大切な人のはずなのに。
信じていたものは、ひとつだけのはずだったのに。
正義は、自分たちにあると思っていたのに。
敵だから、倒せばいいはずなのに。
次回機動戦艦ナデシコif第十五話「『私たちの戦い』が始まる」
月の光は、愛のメッセージ・・・
前回の予告は「スーパードールリカちゃん」でした。正解者はKOUKYOUさん、ATORMさん、Kitaさん、真神(仮)さんの四人でした。
おめでとうございます&ありがとうございました!では、また来週もお楽しみに!