機動戦艦ナデシコif「誰よりも早くあなたに出会っていたら・・・」

第十二話:あの「忘れえぬ想い出の日々」

=組曲 第二曲=

 

艦長が、泣いてます。

メグミさんも、泣いてます。

リョーコさんも、ミナトさんも、イズミさんも、ヒカルさんも・・・

みんな、悲しみにくれています。

そうですよね、悲しくないはずが、ないですよね。

消えてしまった明人さん。

私を、私たちを救うため、、敵もろとも消えてしまった明人さん。

でも、どうして私は、泣くことが出来ないんでしょう・・・

悲しいんです。

苦しいんです。

つらいんです。

胸にぽっかりと大きな穴が開いてしまったようです・・・

でも、私の目からは、一筋の涙さえ流れません。

どうして?

なぜ?

やっぱり、私は・・・

 

誰かが、ブリッジに現れました。みんなの視線が集まった、そこにいたのは・・・

!エリナさん、いえ、エリナ・キンジョウ・ウォン!

「エリナさん!」

「あなた!」

「てめえ、どのツラ下げてここに現れやがった!」

殺気だったみんなの怒声。その中をエリナさんは、悠々とこちらに歩いてきます。

「あらあら、みんな怖い顔しちゃって。せっかくいいニュースを持ってきて来て上げたのに。」

「なあにがいいニュースだ!この詐欺師が!」

「あら、聞き捨てならないわね。誰が詐欺師ですって。」

「アレが詐欺でなくて、何だと言うんですか。」

私の言葉に、エリナさんこちらを振り返ります。

「だましましたね、私を。いえ、私と明人さんを。」

私の言葉に、エリナさんやや鼻白んでます。

「う、嘘は言ってないわよ。」

「さっきプロスさんに聞きました。私には明人さんを解放するよう約束し、明人さんには私を自由にする約束をする。

ただしその見返りとして、私には艦を降りた後に研究所に戻る契約を、

明人さんにも艦を降りた後、”ボソンジャンプ”の研究に協力する約束を取りつける。」

「ひっどーい!」

途端にブリッジからブーイングの嵐が巻き起こります。

「ふ、船を降ろす約束は、守ったわよ!船を下りた後どんな契約をしようが、それはあなた達の勝手でしょ。いやなら断ればいいじゃない!」

今度は開き直りですか。断れないような状況にしておいてよく言いますね。

「そ、それに明人くんは無事なんだから、いいじゃない!」

まだ何か言ってます。そんなことでごまかされ・・・え?無事・・って・・・・

『明人(さん)見つかった(のか)んですか!!』

私も含めたほぼブリッジにいた全員の叫び声に、エリナさん二、三歩後ずさりしてます。

「ま、まあそんなところね。」

?変な返事ですね。歯切れが悪いっていうかなんというか・・・

「と、とにかく今アイツはどこにいるんだ?!」

「怪我、してないでしょうね?!」

「ふえええええん、よかったー。心配したんだよー、あきとー。」

明人さん発見の報告に、一時険悪な雰囲気だったブリッジが、雪が溶けるように氷解していきます。結局艦長泣いてますけど。

「とにかく、彼は無事よ。傷一つ負ってないわ。今いるところは・・・月よ。」

『月?!』

「そう、月。正確には月に停泊中の【コスモス】に収容されているわ。」

「さらに付け加えて言うなら、収容されたのは二週間も前だけれどね。」

え?明後日の方向から、なんだか不可解な発言が割り込んできました。

見上げてみると、いつの間にかそこには、いつもの白衣姿に身を包んだイネスさんがいました。

「イネスさんいつの間に・・・いえ、それより今、二週間前、って言いませんでした?」

「言ったわよ。天河明人。彼は二週間前、月面コロニーで起きた謎の爆発事故の現場から収容されているわ。

私もついさっき知ったばかりだけれど。彼は跳んだのよ。二週間前にね。」

二週間前の爆発事故?・・・あ、そうか。そういうことだったんですか。

「あの時」の爆発事故・・・あれは、ゲキガン・タイプの自爆が原因だったんだ・・・

じゃあエリナさんは、最初っから知っていた、ってこと?

明人さんが、私たちを救うためボソンジャンプする事も。

二週間後の月に跳ぶことも。

「・・・ばれちゃしょうがないわね。ま、そういうことよ。成功すると分かっていたから、あんな危険な賭もできた訳。

考えてもみなさい。彼は貴重な生体ボソンジャンプの成功例。そう簡単に犠牲にするわけ無いじゃない。」

なんだか勝手なことエリナさん言ってますけど。『そう簡単に手放すはずがない』の間違いじゃないんですか?

「よおおっし!よくわかんないけど、とにかく明人は月にいるのね!

みんな、直ちにナデシコ発進準備よ!月に向かって、れっつ・ごー!」

「って、そう簡単に行かせるわけ無いでしょうが!」

「ほえ?」

さっそくナデシコを月に向けて発進させようとした艦長、エリナさんに突っ込み食らってます。

そりゃそうよね。修理や調整の為入港したばっかりで、補給もまだなんですから。

「ええーっ、そんなー!私、いますぐにでも明人の所に飛んでいきたいのにー!」

艦長、それは皆さん同じです。でも、ほんとちょっとまどろっこしいですね。

「補給も無しで飛べるわけないでしょう!代わりのオペレーターだってまだ来ていないのに!」

え?代わりのオペレーターって・・・あ、そう、でした・・・

私はもう、このナデシコには乗っていられないんでした・・・

「ちょっとエリナさん、あなたまだルリルリを研究所に引き戻す気!?そんなこと、私たちが許さないわよ!」

ハルカさんが怒りも露わにしてますが、・・・すいません、無理、なんです・・・

「ハルカさん・・・いいんです。もう・・・」

「ルリルリ、何いってんの!あなたがそんなことで・・」

「そう、無理ね。なんたってこの契約書があるかぎり・・・」

そう、契約書。アレにサインしてしまった以上、私と明人さんの身柄はネルガルの思うがまま・・・

「・・・?あれ、変ね、たしかここに・・・」

ごそごそスーツのポケットを探っていたエリナさん、小首を傾げてます。どうしたんでしょう?

「お探し物は、これですかな?」

またも、明後日の方向から誰かの声が上がりました。

顔を上げると、今度はプロスさんです。その手につままれているのは・・・私の契約書?

「あーっ!ちょっとあんた、何であんたがそれを持ってんのよ!返しなさいよ!」

エリナさん、かなり慌ててます。ほんと、いつの間にすり取ったんでしょう?

「貴女には大変残念でしょうが、これをお返しするわけにはまいりませんで。はい。」

「ちょっと、どういうことよ?!あなた、まさか会社に逆らうつもり?!」

「いえいえ、そんなつもりは。ただ、この契約には少々不審な点がありまして・・・」

「不審な点?なによ、それ!」

「説明しましょう。まずこちらの明人君の契約書を見てちょうだい。」

今度はイネスさんが、懐から別の契約書を引っぱり出しました。どうやら明人さんの契約書みたいですが・・・

「ど、どうしてそれまで・・・」

「はい、ここのところをよーく見てちょうだい。この契約書にサインした日付を。

これによると、明人くんがこの契約書にサインしたのは三日前と言うことになってるけど?」

「そ、そうよ。彼、四日前にこの契約書にサインしてるわよ。それがどうしたって言うのよ?」

「それはおかしいわね。天河明人くんは、二週間前の月コロニーの爆発現場で収容されて、

現在は月の【コスモス】に収容されているはず。三日前にこの地球に、このナデシコにいるはずがないんだけど?」

・・・は?イネスさん、何言ってるんでしょう?意図が良く解りません。

「・・・ちょっと待ってちょうだい?何が言いたいの?」

「鈍いわねえ。つまり、天河明人くんは二週間前から月での存在が確認されているわ。でも、ナデシコは四日前には地球へ降下している。

月にいるはずの明人君が、どうしたら地球にいるナデシコでサインできるのかしら?」

「そ、そんなの分かってるはずでしょ!彼は二週間前に”ボソンジャンプ”したから・・」

「では、仮にそういうことにしたとしましょう。ではこの契約書を裁判所で審議する際、そのことを証言できますかな?」

「あ・・・」

プロスさんの言葉に、エリナさん絶句しています。裁判沙汰になった場合、そんなこと公の場で証言できるはずありませんね。

”ボソンジャンプ”はネルガルがその技術を独占したいトップ・シークレット。言えるはずがありません。

「ほう、証言できない?と、いうことは、このサインは天河明人本人のサインじゃない、と言うことになりますねえ。」

「じ、冗談じゃないわよ!彼がこのナデシコに乗り込んで地球に降下しているのは、周知の事実よ!」

「証拠はありますかな?」

「わ、私がきちんと面接して、契約したのよ!」

「当事者の証言では、証拠としては不十分ね。ちょっと誰か、地球に降下してから明人くんを見かけた人って、いる?」

イネスさんの言葉に、皆さん顔を見合わせた後、何か気が付いたようです。

「さあ?ここんとこパーティーやらなんやらで忙しかったからなあ・・」

「私、見てませーん。」

「そういや、ここ二週間ばかり見かけなかったような・・」

「あ、あなたたち・・・」

案の定、みなさんとぼけまくりです。エリナさん窮してます。

その視線が、泳ぐようにアカツキさんの所に流れました。

「あ、あなたなら大丈夫ね。どう、天河君は確かにナデシコにいたわよね?ね?!」

「ああ、もちろん・・・と、言いたいところだけど、悪い、ここんとこパーティーに招待する女の子を口説いていたもので、

天河くんの事は眼中になかった。覚えがない。」

ややばつがわるそうなアカツキさん。まあへたな嘘の証言をしたところで、ひっくり返されるのは目に見えてますからね。

「あ、あなたまで・・・いいわ、人間なんか当てにしないわ!オモイカネにアクセス!

ここ二週間の間の艦内状況の記録を!天河明人が艦内にいたかどうかチェック!」

《ミス・エリナ、残念ながらこの二週間の間、天河明人氏が艦内に存在した形跡がありませんが・・・》

オモイカネ。ナイスです。

「ど、どいつもこいつも・・・・」

「と、いうわけでこの契約書のサインは偽物、と言うことが確認された訳ね。では、この契約は無効、と。」

イネスさん、手にした明人さんの契約書をびりびりと破いてしまいました。

「ああああ!」

エリナさん、驚愕の顔しています。

「と、いうわけでこちらの契約も自動的に無効、と。」

プロスさんが、今度は私の契約書を破り捨てます。細かくちぎった後、ぱーっと辺りにまき散らしました。

「あ・あ・あ・・・・・・・」

エリナさん、世にも情けない顔をしています。そのままうなだれると、しばらく身じろぎもしませんでした。

やがて、きっ、と顔をあげると、こちらに向かってこう言い放ちました。

「こ、今回はおとなしく引き下がるけど、見てなさい!必ず手に入れてみせるわよ!二人とも!」

くるり、ときびすを返すと、そのままエリナさんブリッジを出ていっちゃいました。

よく見るとかすかに悔し涙なんか浮かべてます。まあ、自業自得ですが。

扉が閉まると同時に、みんながわっと私の周りに集まってきました。

「よかったわねえ、ルリルリ!」

「一時はどうなるかと思ったけど、まあなんとかなったな。」

「めでたし、めでたし。」

「はい、ちょっとどいてちょうだい。」

みんなの輪をかき分けて、イネスさんが私の前に現れました。

腰に手を当てて、こちらを見据えてます。助けてもらった格好ですから、ちゃんとお礼を言わないと・・・

「あ、イネスさんどうも・・・」

「まったく、今回は何とかなったけど、今後こんなことがないように。周りにこんなに

大人がいるんだから、必ず誰かに相談なさい。いいわね。」

普段よりちょっときつめの表情のイネスさん。・・・怒ってるのかな?

「そうですよ、瑠璃さん。世の中にはああいった詐欺紛いの契約がごまんとあるんですから。

それに人事や退社の件に関してはこの私を通していただかないと。はい。」

プロスさんもやや厳しい目をしてます。今回はこのお二人に助けてもらっちゃいましたね。

「そうよ、ルリルリ。こういうことは、これからはちゃんと私たちに相談すること。」

「はい、すいません。ミナトさん。」

「水くさいぜ、瑠璃。おれたちだって少しは力になれるんだからよ。」

「ごめんなさい。」

それからは皆さん「相談するように」って、口々に私に言います。私、あやまりっぱなしです。

でも、なんだか、うれしいです。

変ですよね。しかられてるのに、うれしいなんて。

「そうだよー、こういうことは艦長の私に話してくれれば、すぐに解決!だから、ね!」

・・・艦長、すいませんがあなたはちょっと・・・

「さて、それでは最後に待望の再会というわけで、月の【コスモス】から通信が入っていますよ。瑠璃さん。」

え?月から?・・・!明人さんから?!

唐突に開かれたウィンドウの中にいたのは、・・・明人さん。

最後に見たときと、変わらない姿。

ちょっと癖のある髪。

「ええっと、あはは・・・ど、ども、心配かけちゃったみたいで、みんなごめん。」

「明人!」

「明人さん!」

「あきとー!」

よかった・・・本当に、怪我一つないみたいです。ほんとに・・よかった・・

「あ、あの、明人さん・・・」

「・・・瑠璃ちゃん・・・」

おずおずと話しかけた私に、明人さんがこちらの方を見ます。

でも・・・なんだか、いつもの明人さんと違う・・・

いままで、こんな明人さんは見たことがありません。険しい目・・・

「あ、あの、明人、さん?」

「瑠璃ちゃん、どうして俺に黙ってこんな事したんだ?」

あ・・・

「俺達、『家族』じゃあ無かったのか?瑠璃ちゃんを犠牲にして、俺だけ艦を降りて、

俺が喜ぶと思ったのか?」

私を見つめる明人さんの険しい視線・・・思わず私、顔を伏せてしまいました・・

怖い・・コワイ・・こわい・・・

明人さんが?・・・いえ、違う。

・・・嫌われるのが、そう、明人さんに嫌われるのが・・・こわい

私・・・嫌われちゃったのかな?

嫌われちゃったのかな・・・

膝の上に握られたこぶしが、小さく震えています。

胸が・・苦しくて・・

のどの奥に、熱い固まりのような物がこみ上げてきます・・

そうして、どれだけの時間が過ぎたんでしょうか?一秒?十秒?一分?十分?

・・・どれだけ過ぎたんでしょう。分かりません。

「・・・瑠璃ちゃん、顔を上げて・・」

明人さんの声が・・・聞こえる。・・・?いつもと同じ、声?

そっと顔をあげると、そこにあるのはいつもの明人さん。

いつもの通りの、優しい目をした、明人さん・・・

「ごめん。俺も瑠璃ちゃんに黙って勝手なことしたくせに、偉そうなこと言って。瑠璃ちゃん、俺のために船を下りようとしたのにな。ほんと、ごめん。」

「い、いえ、そんなこと・・私こそ、勝手なことしてすみませんでした。ごめんなさい。」

お互いにあやまりっこしている私たち。

よかった。もう、怒ってないみたい・・・

「はいはい。それでは一件落着ということで、はい。」

プロスさんが締めくくり、これでこの件は解決・・・

「あまいわよ、明人くん。」

「は?」

突然ミナトさんが、横から顔を出してきました。あれ?

「女の子達をこんなに心配させといて、『ごめんな』の一言ですますつもり?」

「え?いや、その、ミナトさん?」

「そうですよ、明人さん!私がどれだけ心配したか!」

「メ、メグちゃん!」

「てめえ、隊長のおれにまで黙ってるなんて、許さねえぞ!」

「リ、リョーコちゃんまで・・」

「と、いうことで皆さん。いいですか?せえのー・・・」

『明人(さん)、覚悟して待ってなさい!』

「ち、ちょっと待ってくれ、みんな・・・」ぷつっ

通信が途切れた後、ブリッジで皆さんの笑い声が響きました。

そうですよね、私、明人さんだけでなく、この人達とも別れてしまう所だったんですよね。

ナデシコ・・・私と、明人さんと、艦長と、みんなとの・・・

想い出の詰まった場所・・・

私、戻ってこれたんですね、ここに・・・

 

1999/9/14 かがみ ひろゆき

                              

                                  <<<予告>>>

:キャプテン・ローウェル:  俺には、分からない・・・「天河明人」。アイツは、なぜあそこまで命を賭けられる?

                  なぜ、あそこまで人を信じることが出来る?なぜ・・・

                  奴には、仲間がいる。

                  帰るべき場所もある。

                  守るべき人が、ある。

                  俺には・・なにも、無い・・・

                 <正義すら   我の中では   朽ち果てて   彼の燃ゆる身は   我の昔日・・・>

                   機動戦艦ナデシコif第十三話「『正義』は一つじゃない」

                   俺は・・・何をしている・・・しゅこーぱー

 

                                   ///あとがき///

こんばんは。かがみ ひろゆきです。ナデシコif第十二話お届けしましたが、いかがでしたでしょうか?

四月から連載を始めたこのナデシコifも、はや半年。物語もようやく折り返しとなりました。ってことは、終了まで後半年もかかる?!

うっわー、終われるんかしら?

さて、今回の予告はやや難しいかな?全国ネットで流れたことのある番組を選んできたつもりですが、さすがにえり好みできなくなってきた。

あのボトムズ以来の、暗い主人公のアニメです。「能」を舞ったりしていたけど、・・あれじゃ、青竹踏みだよなー。

では、次回も是非お読みください!

PS:前回の予告の答えは「カードキャプターさくら」!萌え燃えーの正解者の方々は、ATORMさん、 hasegawa yoshinobuさん、 SSSさん、 Kitaさん

の四人でした。おめでとう!


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