機動戦艦ナデシコif「誰よりも早く貴方に出会っていたら・・・」

第十二話:あの「忘れえぬ想い出の日々」

=組曲 第一曲=

 

メリークリスマース!!

パン!パン!

盛大なクラッカーの音。白いテーブルクロスに、色とりどりのお料理。

そして、大きなゴールドクレストのクリスマスツリー。

ナデシコ艦内は、今日だけは戦艦の役割を忘れ、クリスマスパーティーの喧騒に湧いています。

結局入港こそ許可されたものの、乗組員の上陸は許可されませんでした。

それでもめげないナデシコクルー、かねてより準備していたパーティーを盛大に、かつやけくそぎみに楽しんでいます。

あ、やけくそ気味なのはウリバタケさんと淳・アオイさんの二人だけですけど。

せっかく用意したバーティ会場とディナーの予約が無駄になったそうです。あらかじめ先方さんの予定を確かめないから・・・

ま、どうでもいいけど。

『ルリルリ。どうしたの?もうパーティ始まっちゃってるわよ?』

ウィンドウが開き、サンタさんの格好をしたハルカさんが現れました。

ちなみに私が今居るのは、自分の部屋。いつもの制服を脱いで、白いドレスっぽい服に着替えたところでした。

『あら、かわいいー。何、もしかして白雪姫のコスプレか何かかしら?とにかく、早くいらっしゃい。待ってるわよ。』

『・・・今、部屋を出る所です。』

『そっか。んじゃ、また後でね。』

ウィンドウが消え、私は一つ小さなため息をつきました。そう、うそは言ってません。

確かに私は、部屋を出るところでした。

ただし、行き先はパーティ会場じゃあありません。

部屋を出た私が向かうのは、外に出るための乗降用ハッチ。

そこに待っていたのは、赤いスーツ姿のエリナさん。

乗組員は上陸を許可されないんですが、この人はネルガルの役員だから特別なんだそうです。

私も、もう乗組員ではありませんし・・・

「待ってたわ。さ、乗って。」

助手席に私が乗り込むと、エリナさんが再度私に、ナデシコのみんなにお別れを言わなくていいのか、って聞いてきました。

そう、私はこのまま黙ってナデシコを降りるつもりなんです。

誰にも言わず、内緒に・・ひとりで・・

「・・・いいんです。皆さん楽しくやっているところに水を差したくはありませんから。それより、明人さんはいつナデシコを退艦出来るんですか?」

「またその話?まあ、いいわ。彼にはこのパーティーが終了する頃に全てを伝えるようにセッティングしてあるわ。

パーティーがそのまま彼の送迎会になるわね。じゃ、行くわよ。」

緩やかに車が発進しました。そっと後ろを振り返ると、そこにあるのは、見慣れたナデシコの白い船体。

私と明人さんが、九ヶ月の日々を過ごした想い出の家。

さよなら、ナデシコ。

さよなら、オモイカネ。

さよなら、「ばかばっか」なみんな。

そして・・さよなら、明人さん・・・

次第に小さくなっていくナデシコ。

窓ガラス越しに見つめる私の目の前に、何かが落ちてきました。

「・・ゆき。」

白い、真っ白な、雪。

あの日、明人さんと初めて会った日にも、雪が降っていた。

そして、今日、明人さんと別れる日にも・・・

あの日から私は、雪がとても好きになった。

そして今日から、雪がとても嫌いになった・・・

 

「楽にしてちょうだい。今、ここの責任者が来るから。」

エリナさんに連れられて、私がやってきたのは、ネルガルの子会社の、アトモ社という所でした。

以前サセボに在った研究所は、木星蜥蜴の襲撃で壊滅してしまったため、研究はここアトモ社で引き継いだそうです。

引き継いだと言っても、ほとんどの研究データーは消失してしまっているので、たいした成果は上がっていないそうですが。

三十分ほど待ったでしょうか?どうやら責任者が現れたようです。

「待たせたわね。私がここの責任者・・・」

え?この声は・・・

「?・・・!あなた、星野瑠璃?!どうしてこんな所に?!」

「説明おばさん・・・どうしてここに?・・・」

「誰が説明おばさんよ、誰が!」

驚きました。イネス・フレサンジュ。元ネルガル人間研究所副所長。火星でナデシコが救出した唯一の人間。

人と見れば説明をせずにはいられない、恐怖の説明おばさん。

「とにかく、どうしてあなたがこんな所に?私は今日ここに着任したばかりなんだけど、エリナが新しい助手を連れてくるから、って・・・」

最後の所は言葉になりませんでした。何かに気が付いたようで、そのままイネスさん、エリナさんの方を見ます。

エリナさん、明後日の方を向いてます。

「そういうこと・・・おかしいと思ったわ。彼がああもすんなりと協力するなんて・・・

あなただましたわね、二人とも。」

だました?二人とも?彼って?

「あら、だましたなんて人聞きが悪いわね。私は嘘は言ってないわよ。それにあのまま命を落とす危険を冒してまでナデシコに残るより、

こちらで研究に協力している方がよっぽど安全よ。」

「安全?あの有様でよくそんなことが言えるわね。一体どれだけの犠牲を出せば・・」

「あの、すいません。お話の途中ですが、私には何のことだかさっぱりです。分かるように説明してください。」

私を無視するような形で、なんだか勝手に過熱していくエリナさんとイネスさんの会話を遮り、私は二人に説明を求めました。

どうやら私がらみの話らしいのに、本人が蚊帳の外ではいささか不愉快というものですから。

私の言葉に二人とも、なぜか押し黙ったままです。いつものイネスさんなら『説明』というキーワードを聞いただけで勝手に盛り上がるのに、

今回はあんまり気が進まないようです。何か変・・・

「・・・いいわ。こっちにいらっしゃい。直接見た方が早いから。」

やっぱり少し様子が変です。とりあえず言われるままに付いていく私。エリナさんも渋々と言った感じで後に続きます。そこで見た物は・・・

 

「!これは、チューリップ?」

そうです。バリアに囲まれたそれは、木星蜥蜴が地球に向けて送り込んできた『チューリップ』と呼ばれる物体。

『あちら側』と『こちら側』の空間を結ぶ、転送ゲート。

いままでは連合軍がちょっかい出す度に無人兵器を吐き出すんで、触らぬ神にたたりなし、てな調子でほっぽかれていたんですが、

いつのまに捕獲したのか・・・

「これですか?見せたい物って?」

「・・・いいえ、これだけじゃないわ。あれを、見てちょうだい。」

そういって指さしたその先には・・・なんでしょう、あれは・・・壊れた、いえ『潰れた』という表現が正しいですね。

なんだか良く解らない、潰れた機械の固まり・・・

なんだかものすごい圧力を受けたような・・あれ?あれって、もしかして・・エステ?

「もしかして・・・エステバリス、ですか?」

「・・・正確に言うなら耐圧、耐熱仕様の、ね。」

耐圧耐熱ですか。そんな物をああまで完璧に潰してしまうなんて、何をやったんだか・・もしかして・・・

「・・・もしかして、チューリップの中に?」

私が思いついた事を口にすると、イネスさん黙ったまま首を小さく縦に振りました。

「そう。さすが勘がいいわね。これは絶対必要な実験だったの。敵はこのチューリップから出てくる。

ならば、こちら側からも送り込めるはず。成功すれば今度はこちらが相手の本拠地に攻撃を仕掛けることが出来るわ。」

自信満々と言った感じでエリナさんが言います。

「でも、なんだか失敗してるみたいですけど。」

私の言葉に、エリナさん言葉を詰まらせてます。ま、あのエステの惨状を見れば一目瞭然ですね。

いままでどれだけの犠牲者を出したんだか。イネスさんが憤るのも分かります。

「い、今まではね。でも、この次こそは大丈夫!彼ならば絶対に!」

空元気・・という訳ではなさそうですね。なんだか自信らしいものがあるみたいですが、何を始める気なのか・・・

そういえば、さっきから言ってる『彼』って、一体誰のこと?そのことを私が質問しようとしたとき、いきなり辺りに警報が鳴り響きました。何?

「何事!?」

「チューリップ活性化!ボソン検出!何かが、出てきます!」

振り返った私の目に、例の形容しがたい光を放つチューリップの姿が映りました。

大きく開いた口から、何かが・・・

「敵も、私たちがこのチューリップを使って”ボソンジャンプ”の実験をしているのに気が付いたみたいね。早速邪魔をしに来たみたい。」

緊迫した状況とは対照的な、淡々とした口調のイネスさん。

「だ、大丈夫よ。このチューリップを囲んでいるバリアは、無人兵器群では突破できない様に・・」

言いかけたエリナさんの期待を裏切るがごとく、チューリップを取り囲んでいるバリアが、

中から出てきた「何か」に、徐々に、押し破られていく・・・

「バ、バリア・ジェネレーター持ちません!こ、これは!大きい!巨大な何かが・・!」

もう、分かりました。中から出てきたのは、例のシルエット。そう、あれは・・

「ゲキガン・タイプ!」

「こっちよ、星野瑠璃。逃げるわよ。」

固まってるエリナさんを尻目に、研究所員達に退避命令を出したイネスさん、私の手を引いて逃げ支度です。

ついでに固まってるエリナさんも、どさくさまぎれに二、三発平手打ちして正気に戻してます。

慌てて逃げ出した私たちの後方で、バリアシステムが崩壊していく不快な音が響いてきます。間に合いますかね・・・

次の瞬間。

辺りが真っ白になったかと思うと・・・

 

「・・・ぉ・・・起きなさい・・・星野瑠璃!」

「・・・・?あれ?」

次に私が目を開けると、そこは、がれきの山でした。

少々薄汚れた感じのエリナさんとイネスさんが、のぞき込むような格好で私を囲んでいます。

「気が付いたわね。どう、どこか痛いところは無い?」

「・・・大丈夫みたいです。」

「そう。よかったわ。とりあえず立ち上がって。逃げるわよ。」

「どうなったんですか?あれから?」

イネスさんに手を貸してもらい立ち上がった私。とりあえず現状を把握するために質問です。

答える代わりにイネスさん、肩越しに在る方向を指さします。そこに繰り広げられている光景は・・・

ひどい物でした。周辺のアトモ社の施設とおぼしき物はほとんど壊滅状態。あっちこっちから黒煙が立ち上ってます。

その中を悠々と歩いているゲキガン・タイプ。その数三機。

そして、四機のエステバリスがゲキガンタイプに攻撃を仕掛けています。

あれはパイロット三人組と、アカツキさんですね。ナデシコの姿は・・・見えません。

まあ、それはそうでしょう。こんな町中でグラビティ・ブラストを発射するわけにはいかないでしょうし、

第一ボソンジャンプを単独で行えるゲキガンタイプが相手じゃ、かわされるのがおちです。

エステ部隊もかなり苦戦中・・・おや?ゲキガンタイプの内の一機が、なんだか様子がおかしいです。

動きを止め、強力なフィールドを展開しています。

・・・いえ、強力すぎますね。おまけになんだか機体が明滅を繰り返して、まるでカウントダウンか何かみたい。・・・カウントダウン?

「まずいわね。おそらく機体に積まれた相転移エンジンを臨界まで上昇させているんだわ。」

あくまで冷静なイネスさん。でも、それって自爆って事?それって、かなりまずくありません?

『うおりゃああああー!』

赤いエステが、とりあえず一機のゲキガンタイプを倒しました。この声はリョーコさんですね。これで残り二機。

でも、自爆シークエンスに入ったらしいあの機体を早く何とかしないと、ここら辺一体全て吹き飛ばされてしまいます。

でも、この調子じゃあ・・・間に合いそうにないですね。

「こうなると、彼だけが唯一の希望、ね・・・」

エリナさんが、ぼそりとつぶやきました。また、”彼”ですか。いったい・・

「”彼”って、一体誰のことなんですか?」

私の質問に、エリナさんこれ以上はないっていうくらいの苦い顔をしてます。

イネスさんが、黙ったまま指さしたその先は・・・

例の自爆中のゲキガンタイプ・・その側のビルの屋上?

誰かが、いるみたいですが・・・・え?あれって・・・・明人、さん?

!明人さん!遠目ですが、見間違えるはずありません!明人さんです!

どうしてこんな所に!

「そんな、どうしてここに明人さんが!?イネスさん、早くリョーコさん達に連絡をしてください!明人さんを救出・・・」

私の言葉に、ゆっくりと首を横に振るイネスさん。そんな、どうして!?

「あのゲキガンタイプを自爆前に倒すのは不可能よ。ならば、残された手段はただ一つ。

明人くんの力で、どこか遠く、安全な所に”跳ばして”しまうこと・・・」

ボソンジャンプ・・・火星で、明人さんがナデシコを救うために行った、未知の時間跳躍移動・・・それを今また、明人さんにさせる気なんですか!?

「そんな・・!明人さんを犠牲にして、助かろうって言うんですか!?そんなの、私いやです!」

「でも、このままじゃあみんな死んでしまうのよ?選択の余地はないわ。それに、これは彼が望んだことなの。」

「明人さんが?!」

「さっきまで、明人くんは、ここにいたのよ。あなたの側に。」

「さっきまで・・・ここに?!」

どうして?なぜここに明人さんがいたの?まだナデシコにいたはずなのに?

「・・・ええ。彼、気を失っているあなたの手を取って、こう言ってたわ。『今度こそ、助けてみせる。父さんと母さんのようには、させない!』ってね。」

私は、はっとしました。そう、これは、このシチュエーションは、明人さんの両親が亡くなった時と同じ・・・

『おい、天河じゃねえか?!何やってるんだ、あいつは!』

リョーコさんが明人さんに気が付いたみたいです。コミニュケ・・よかった、使えます。

『リョーコさん。』

『わっ!な、なんだ瑠璃か?!おめえ、どうしてここに?』

『そんなこと、どうでもいいです。それより明人さんの様子を中継して見せてください。』

『え?お、おう、わかった。それにしても、あいつは何をするつもりなんだ?』

『明人さんは・・・あの自爆しようとしているゲキガンタイプを、どこかに”跳ばす”つもりなんです。』

『じばくうぅ?!おい、そりゃやばいじゃねえか!跳ばすって、何するつもり・・』

リョーコさんに中継してもらったカメラの中で、明人さんが持っていたアタッシュケースを開き、中にあった蒼い石をゲキガンタイプに投げつけてます。

あれは、・・C・Cです。

フィールドに貼り付いたC・Cが、例の光を放ち始めました。そして、明人さんの身体にも、ナノマシンの光の奔流が現れました。

あの時と・・・あの火星での時と同じ・・

苦しげな明人さんの姿。

『お、おい、天河!』

『か、艦長!明人さんが、明人さんが!』

『明人?!アキトー!』

ナデシコにもこの光景は送られたようです。皆さん口々に明人さんに呼びかけてます。

私は・・・声が、出ません。まるで石像か何かになってしまったみたいです。

ただ一心に、画面に見入ってます。やがてゲキガンタイプの上空に、空間の歪みみたいな物が現れました。

ゆっくりと、ゲキガンタイプがそれに吸い込まれていく・・・

明人さんと共に・・・

やがて・・・空間の歪みは消えました。ゲキガンタイプと、明人さんを飲み込んで・・・

「明人、さん?」

思わずつぶやいた私。でも、それに答える人は、ここには、いない。

呼んでみても、答えてくれない。

消えて、しまった?

足が、がくがくとふるえだしました。

目の前の景色が、ぐるぐると回りだして・・・

「星野瑠璃!」

イネスさんが、私を呼ぶ声が、聞こえる。けど・・・

そのまま、私の意識は深い闇の底に落ちていきました・・・

明人さん・・・

<<続く>>

1999/9/7 かがみ ひろゆき

−−−次回予告−−−

          メグミ:    ほえええ、たいへん!あきとさんが変な空間に飲み込まれちゃったよー!エリナさんは大丈夫だなんて言ってるけど、

早く助けに行かないと! まっててね、明人さん!メグミがすぐに迎えに行くからね!

            瑠璃ちゃん、おねがい、ナデシコに戻ってきて!
 
            次回機動戦艦ナデシコifは、第十二話「あの『忘れえぬ想い出の日々』」 =組曲 第二曲=
            次回もメグミと一緒に、レリーズ!!

 

PS:前回のナデシコ予告、正解は「銀河英雄伝説」でした。ビデオシリーズ、全部見るのはヘビーですよねー。

   正解者はSSSさん!おめでとう!


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