機動戦艦ナデシコif「誰よりも早く貴方に出会っていたら・・・」

第八話:温めの「カルネアデスの舟板」

                  ーファイル1ー
 

「リョーコちゃん、右!!」

「くっ!でええい!弾切れか!!ヒカル、そっちはどうだ!?」

「だめえー!こっちも弾切れだよー。」

「同じく。」

「くそっ、後はナイフだけか!!」

・・・突然ですが、大ピンチです。私たちが火星を脱出してからはや一ヶ月半。

敵木星蜥蜴のしつこいくらいの追撃をなんとかしのいで、ここ月軌道まで帰ってきたものの、待ちかまえていた敵機動部隊に囲まれちゃいました。

グラビティ・ブラストで吹き飛ばそうにも、こうも広範囲に散らばられては、的が絞り込めません。

おまけに本来こういう無人機動兵器のお相手はエステバリスが行うんですが、ほとんどのエステは火星で旧ナデシコと一緒に消失。

残った部品と火星に残されていたプロトタイプをなんとか改造して使っていましたが、弾切れで戦力半減。

ナデシコ本体もグラビティ・ブラスト以外の実弾兵器は弾切れで、これまた役立たず。

補給なくして勝利無し。もう・・・だめかもね。

《瑠璃さん、八時の方向、仰角32度よりアンノウン接近。大型戦艦クラスです。》

どうやらまたまたおでましのようです。だめ押しって感じですね。

「艦長、八時の方向より大型戦艦クラスのアンノウン接近。」

「敵?それとも味方?」ここまでくると神頼み。来るあてのない味方を、ついつい期待してしまいます。無理なことはわかってるんですけどね・・・

「現在識別中・・・緊急連絡!アンノウンより重力波反応!グラビティ・ブラストです!」

「エステ部隊直ちにフィールド内に待避!フィールド最大!」

どうやら敵さんのようですね。地球にはグラビティ・ブラストを撃てる戦艦なんて、このナデシコしかありませんから。

またまた味方ごと撃つつもりかしら?

「着弾まで後・・・え?」

戦艦から放たれたグラビティ・ブラストは、ナデシコではなく、敵機動兵器群を凪払いました。

これは・・・多連装のグラビティ・ブラスト!しかも、味方!?

「あれは・・・」

「まさか・・・」

プロスさんとイネスさんが、呆然としてつぶやきます。

「アンノウンより通信!味方です!」

メグミさんの、喜びに満ちた声がブリッジに響きました。途端にわき上がる歓声。

「回線、開きます!」

『聞こえて、ナデシコ!こちらは認識番号ND-002【コスモス】。救援に来たわ!包囲網はこちらが破るから、今のうちに後退して!」

「こちらナデシコ艦長ミスマル・百合花!了解です!救援、感謝します!」

どうやら助かりそうです。瞬く間に殲滅されていくバッタたち。連射性はあちらさんの方が上みたい。

でも、破壊力はこちらの方が上でしょう。

八割方敵さんが消失したところで、【コスモス】から三機のエステバリスが発進してきました。

後は掃討戦。三機のエステは、瞬く間に敵を片づけていきます。

「おおっ、すげえ。」

「ほーんと。たいしたもんだねー。」

「・・腕だけじゃあないね。機体もどうやら新型のようだよ。」

帰還した明人さんたちパイロットは、戦闘配置のまま待機中。三機のエステの活躍にみなさん目を見張ってます。

やがて、戦闘終了。改めて、【コスモス】より通信がありました。

『それじゃあ改めまして。こちらはND-002【コスモス】。艦長代理の、エリナ・キンジョウ・ウォン。なにはともあれ、お帰りなさい。ナデシコ。』

『ありがとうございます!おかげで助かりました!』

『それにしても、よく生きて帰ってこれたわね。あなた達が火星に出発してからはや九ヶ月。やっぱりだめかと思ってたんだけど・・」

・・・・あれ?いま、なんて・・・

『ええっと、エリナさん、でしたっけ?申し訳ありませんが、詳しいお話は後で。現在ナデシコは大変切迫した状況にありまして、

直ちに最寄りの港か補給鑑とコンタクトをとりたいんですが。』

『あら、どこかやられちゃってたの?わかったわ。この【コスモス】は、ドック鑑としての機能もあるの。直ちに修理を・・・』

『いえ、違うんです。その・・・』

くきゅるるる。

『ご飯、食べさせてくださーい!!

おなかへったー!』

 

ぱくぱく。がつがつ。むしゃむしゃ。がふがふ。

あきれているエリナさんの視線をよそに皆さん、ぱくぱく。ご飯をかき込んでます。

なにせ、もぐもぐ。火星では食料難のために、十分な食料が確保できませんでしたから、ごっくん。

・・・すいません、私もさすがにお腹が空いてましたので。

とにかく、もぐもぐ。ここ一週間ばかりはお水だけの日々でしたので、ぱくぱく。

「ふゃあーほんほ、まっほーはひょふじは、ひはひふひははあ。」

「へほ、はへひほしょふほうほりは、ほひはふへほへ。」

ほひゃあ、へいはくふへ、ふぉもべしょうが。」

「ふぁいふぁい、ほしょふじふうにふぁへふふぁんれ、ほほうひはるいはね。」

・・・なんのことやらわからないでしょうから、通訳しましょう。

『いやーほんと、まっとうな食事は、ひさしぶりだなあ。」・・ウリバタケ

『でも、ナデシコ食堂よりは、落ちますけどね。』・・明人

『そりゃあ、ぜいたくってもんでしょうが。』・・プロス

『はいはい、お食事中にしゃべるなんて、お行儀悪いわね。』・・イネス

よいこの皆さんは、まねしないでください。食べながらしゃべるのは、マナー違反です。

それにしても、朱に交わればなんとやら。かつては天才科学者と呼ばれていた(らしい)イネスさんも、すっかりナデシコになじんで、

頭に花が咲いてしまったようです。

ほんと、ばかばっか。ぱくぱく

 

ふーっ。ずずず・・・ふはあー。

皆さん食後のお茶をすすり、どうやら落ち着いたようです。あ、エリナさん、額にちょっと青筋たててます。待たせすぎたかしら?

「そろそろよろしいかしら、艦長?ご満足いただけて?」

「あ、エリナさん、どーもどーも。お待たせしました。ええっと・・・どこまでお話ししましたっけ?」

「まだ、なにも話してないわよ!!」

不用意な艦長の言葉に、ついにエリナさん切れちゃいました。ちょっと短気な人みたい。

「ふぇええ、すいませーん。とにかくお腹が空いていたものでー。」

「ふうっ。まあいいわ。とにかく、この九ヶ月間の間、ナデシコがどこで、何をしていたかたっぷりとお話ししてもらうわ。とりあえず・・」

「すいません、ちょっといいですか?」

「・・・あなた・・確か、星野瑠璃、だったわね。何か用かしら?」

あまり人の話に割り込みたくはありませんが、どうしても気になります。思い切って私は、エリナさんに話しかけました。

「話の腰を折って申し訳ありませんが、どうしても気になったもので・・・私たちが地球から火星に向かったのは、

たしか六ヶ月前のはずなんですが・・・」

そうです。火星ー地球間往復三ヶ月と、火星滞在三ヶ月。計六ヶ月のはずです。

「・・・何をいってるの?あなた達が地球を発ってから、もう九ヶ月も経ってるのよ。今日は十一月二十日よ。」

ざわっ。

エリナさんの言葉に皆さん驚きととまどいが混じり合った表情しています。

エリナさんの言葉が本当だとすれば、私たちナデシコと地球では三ヶ月ほど時間にブランクができてしまってるみたいです。

こんなこと、普通じゃあ考えられません。

「どうやら私の出番のようね。」

出ました。解説好きのこの人が、こういう状況で説明しないはずがありません。

「エリナ嬢のいうことが本当だとすると、私たちナデシコクルーと、地球との間には約三ヶ月間の時間のずれがあることになるわ。

そうなった原因は、今のところ一つしか考えられないわ。つまり・・・あの時の『ボソンジャンプ』だけ。」

「ボソンジャンプ!?あ、あなた達、生体ボソンジャンプを成功させたっていうの?!」

途端に、エリナさんの顔色が変わりました。どうやらこの人、

「ボソンジャンプ」のことを知ってるみたいです。でも、あの時のジャンプが原因ということは・・・

あの「ボソンジャンプ」というやつは、瞬間移動とかいうのとは違う現象のようです。

「エリナさん、イネスさん、それについてはまた後ほどということで。」

プロスさんがちょっとあわてて割り込んできました。どうやら聞かれちゃあ困るお話だったみたい。

エリナさんも慌てて咳払いなんかしてます。

「こほん、と、とにかくあなた達ナデシコクルーの処遇については、現在本社で緊急会議中ですが、おそらく・・・」

「一週間後に控えている「月奪還作戦」に参戦することになるだろうな。」

別の方向から、思っても見ない答えが返ってきました。皆さんが視線を移したその先にいたのは・・・

パイロットカラーの制服をきた、ちょっと鋭い目つきをした、長髪の男の人でした。胸には銀のペンダントなんかしてます。

一口でいって、「きざな色男」って感じですね。パイロット、ってことは、さっきのエステの?

「あら、帰ってたの。ほかの二人は?」

「まだエステの整備中さ。ま、とりあえず奇跡の生還を遂げたナデシコクルーを見物に来たんだが・・・ほーんと、よく帰ってこれたもんだ。

予想外の出来事に本社の奴ら、あわてふためいていたよ。」

「・・・ちょっと、それって、どういう意味?」

おもわせぶりな色男の発言に、ハルカさん、ちょっと気色ばんでます。そりゃまるで帰ってきたのが悪いみたいな言い方されちゃあ、

気分も悪くなろうってもんです。おまけに帰ってくるなり「月奪回作戦参加」ですもの。

「おや、これはこれは・・・いやなに、君たちが火星から生還する確率は、はっきり言ってコンマ・パーセントしか無かったからねえ。

はっきり言って、これは奇跡以外の何者でもないんだよ。だからこうやって素直に驚いてるだけなんだが、気にさわったかな?」

色男の言葉に、皆さんざわついています。そりゃあそうよね。生還確率コンマ・パーセントだったなんて、聞いていませんから。

「まあ、はっきりいってあれだね、ネルガルは当時クリムゾン・グループの独占状態になっていた軍事産業に何とかして割り込みたかった。

そこにもってこの木星蜥蜴との戦争だ。チャンス到来とばかりに、出来立ての新造戦艦をデモンストレーションに使ったんだよ。クリムゾン製の

宇宙戦艦が相手にならなかった無人兵器群を軽く蹴散らし、宇宙軍の制止もなんのその、クリムゾン製のバリア・システムまで軽く突破して、

一路火星へ。軍のお偉いさんは、かなりショックうけてたねえ。製品の売り込みとしては強引だが、かなり有効な手口だった。」

 

つまり、私たちはプロモーション・ビデオならぬプロモ・戦艦ですか。

 

「さらに、地球での戦力の建て直しのための時間稼ぎ、おとり役まで務めてくれた。君たちを迎撃するために木星蜥蜴たちは戦力を火星に

集中させてくれたからねえ。おかげでここ月軌道上までの勢宙圏までは奪回する事ができた。

これも、君たちが九ヶ月の間、敵の注意を引きつけてくれたおかげだよ。」

「プロスさん、それって、本当なんですか?」

艦長、プロスさんに向かって問いかけてます。ナデシコクルーをスカウトしたのはプロスさん。この人がもし、そのことを知っていたとしたら・・・

「ちょっと、あなた!何言い出すのよ!」

エリナさん、色男さんに食ってかかってます。内情をここまでばらされたんじゃあ、そりゃあ困るわよね、企業としては。

「いやあ、なあに。彼らも自分たちがどれだけ会社に貢献したかを、知っておいてもいいんじゃあないかと思ってね。」

平然とした顔で、色男さんはエリナさんを軽く受け流してます。

「プロスさん、どうなんですか?」

艦長、再度プロスさんに質問してます。しばしの沈黙の後・・・プロスさんはゆっくりと顔を上げると・・・

「・・・もし、知っていたとしたら・・・どうしますか?」

途端に、クルーの皆さんから、殺気に似たものが立ちこめました。

「なんだと!」明人さんです。怒声をあげて、イスから明人さんが立ち上がりました。そのままプロスさんめがけて走り寄ろうとして・・・

ばしいいんん

乾いた音とともに、プロスさんの眼鏡が吹き飛びました。あ・・・

艦長、です。艦長が・・・プロスさんの頬を・・はたいたんです・・

明人さんも、エリナさんも、色男さんも、他のクルーのみんなも、固まってしまいました。

しばしの沈黙の後・・・

くるり、と艦長はこちらを振り返ると、にっこり笑って話し出しました。

「皆さん、聞いてください。今回の『スキャパレリ・プロジェクト』について、会社側がその内容を私たちクルーに秘匿していた一件については、

このミスマル・百合花が責任を持って追求、謝罪させます。なおプロスペクターさんは、おそらく内容を知らなかったものと考えられます。

なぜなら、本当に生還率コンマ・パーセントだったのなら、たとえ会社命令だったとしても、

このナデシコに一緒に乗り込んだりはしなかったでしょうから。ですから、この件に関してプロスさんを攻めるような行い、発言等は一切禁止と

します。よろしいですか?」

一気にしゃべった艦長に、皆さん反論の言葉もなく、こくこくとうなずいてます。

「それではエリナさん、くわしい報告に移りたいと思いますので、会議室へ案内していただけますか?」

艦長の言葉に、同じく固まっていたエリナさん、ようやく我に返ったようです。

「と、とりあえず皆さんはこの部屋でしばらく待機していてください。イネス・フレサンジュ博士、プロスペクター、

そしてミスマル艦長は別室でこれまでの経緯と火星の状況を報告してもらいます。こちらへ。」

そういうと私たちを残し、四人は別室へ向かいました。

扉が閉まると同時に、皆さん堰を切ったようにしゃべり始めました。これからのこと、いままでのこと、三ヶ月のブランクのこと、会社のやり口のこと。

そして・・・

ちらり、と私は明人さんの方を見ました。

ネルガルの悪辣さもさることながら、私が気になっているのは、明人さんが成功させたという、例の「ボソン・ジャンプ」とかいうものについてです。

あれによって引き起こされた三ヶ月のブランク。それがいったい何を示しているのか・・・

そして、「ボソン・ジャンプ」を知っていたらしいエリナさんに、なぜかやたらと会社の内部事情に詳しいらしいパイロット。

私はなんだかいやな胸騒ぎがして、落ち着きません。

なにか、得体の知れない、大きな運命の歯車のようなものが、明人さんを飲み込んでしまうような、

そんないやな感じがして・・・

・・・・・続く。

 

1999/7/21   かがみ ひろゆき

 

「次回予告」PREVIEW

 

ゴート:   君たちに最新情報を公開しよう。矢は放たれた!地球軍ーナデシコが遂に月奪 還に乗り出す。

       迫り来る木星の大艦隊に向け、放たれる新兵器「相転移砲」! 運命の歯車は、今音を立てて回りだした!

       次回機動戦艦ナデシコNEXT「温めの『カルネアデスの舟板』ーファイル2ー

       次回もこのH・Pで、ファイナル・フュージョン承認!・・・むう。

 

 

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 これが、勝利の鍵だ!***「相転移砲」
 
 
ご意見、ご感想はピンときたらこちらへ!   langa@tokai.or.jp 
 
ps・前回の正解は「サザエさん」。正解者はTakaaki Inokutiさん!おめでとう!

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