機動戦艦ナデシコ「ifもし誰よりも早く貴方に出会っていたら・・・」

第六話:「選び、択された。命を運ぶものとして・・・」みたいな

=act 3=

 

 

・・・・あれから、もう十日も経ってしまいました。

あの後、目を覚ました私たちが見た物は、活動を停止したチューリップが突き立つユートピア・コロニー。

そして、・・・意識を失い、倒れ伏した明人さんの姿・・・・

あの木星蜥蜴の大群から、私たちがどうやって逃げ延びることが出来たのか、

なぜ千キロ以上も離れたユートピア・コロニーに現れたのか・・・イネスさんは何も答えてはくれません。

ただ一つ確かなのは、私たちは明人さんに救われたんだ、ということ。その為に、明人さんは・・・

《瑠璃さん、エステバリス昴機、帰還しました。パイロット偵察内容報告のためにブリッジに向かって移動中。》

『うん、わかった。ありがとう、オモイカネ。』

リョーコさんが偵察から帰ってきたようです。現在ナデシコは、ユートピア・コロニーに突き立つチューリップの中に潜伏中。

再び宇宙に飛び立つために、大幅な改装中です。

そう、壊れたチューリップの中で、イネスさんが隠したって言っていた例の『アレ』・・

コンテナに分解して収納されていた「ナデシコ」の部品を使って、です。

なんでも、いままで私たちが乗っていたナデシコは試作艦、デモンストレーション用で戦闘向きじゃあなかったそうです。

ここにあるコンテナに詰め込まれて、地球に送られる予定だったこの「ナデシコ」が、正規採用型。

今ウリバタケさん達整備班が、連日組立作業に追われています。

木星蜥蜴たちも、目前でロストした私たちナデシコを血眼になって探しています。

見つかるのが早いか、組みあがるのが早いか・・・

小さくエアーの抜ける音がして、ドアが開きます。リョーコさんが帰ってきました。

「よお、瑠璃。Cー3エリアの偵察終了したぜ。ほらよ。」

リョーコさんそういうと、エステのデータディスクを投げてよこします。

「お疲れさまでした。リョーコさん。」いつものように、データを受け取ります。

ナデシコは現在木星蜥蜴に発見されないように、無線封鎖中。

その為、オモイカネへのデータ入力は、旧世代のスニーカー・オンラインに頼らざるを得ません。これも、いつもの通り。

そして、リョーコさんがためらいがちに尋ねてきます。これも、いつもの通り・・

「瑠璃、そ、それでさ・・・あ、明人の奴は・・目え、覚ましたか?」

その問いに、私が返す答えも・・・いつもの通り、首を横に振るだけです。

「そ、そうか・・・悪かったな、毎回毎回同じ事聞いたりしてさ。」「いえ・・・」

そう、明人さんは、あれから意識不明の昏睡状態に陥ってしまっています。

イネスさんは身体に異常は見られないから、精神的な疲労によるもので、いずれ目を覚ますから心配いらない、って言ってはいますけど・・・

「なあ、瑠璃。・・・明人の奴、いつまで寝てるんだろうな・・・・」

「リョーコさん・・・」

「あの時、アイツ、最後まであきらめなかった・・・俺達正規のパイロットなんか、とっくにあきらめてたのにな。」「・・・」

「俺、アイツをしごいてた時、さんざ言ったもんさ。『あきらめんな、戦場では最後まであきらめない奴が、勝つんだ!!』ってな。

へっ、そんな俺達の方が、一番先にあきらめちまってた・・・」「リョーコさん・・・」

「本当に強いってのは、アイツの様な奴のことを言うのかもな。・・・だからよ、俺、アイツに会ってこう言いたいんだ。

『あん時は悪かったな。』ってよ。」

「リョーコさん・・・」

「へっ、変なこと言っちまったな。わりい、忘れてくれや。」

「いえ・・・ありがとうございます、リョーコさん。」

「べ、別に礼なんて言われるようなこといってねえよ。じ、じゃあまたな。」

リョーコさん、顔を赤くしてそそくさと出ていってしまいました。

リョーコさん、定期パトロールから帰ると、必ず明人さんの容態を聞いてきます。

いえ、リョーコさんだけじゃあありません。艦長やメグミさん、ミナトさん、ゴートさん、ウリバタケさん、ヒカルさん、ホウメイさん・・・・

みんな、私と顔を合わせる度に、聞いてきます。

「明人君は目を覚ました?」「明人さんの様子はどう?」って。

ハルカさんとブリッジ当直を交代した後、私は明人さんの部屋へ直行。

これもいつもの通り。明人さんは・・・まだ、意識が戻っていないようです・・穏やかな寝息を立てて眠ったまま・・・

私は明人さんの側に腰を下ろして、しばらくその寝顔を見つめます。

部屋のモニターには明人さんの好きな「ゲキガンガー」のビデオが映しっぱなし。

ウリバタケさんが言うには「なあに、アイツの好きなこいつを流しときゃ、そのうち目覚ますって。心配すんな!」ですって。

まあ、あの人らしい意見です。・・・でも、明人さんに目覚めて欲しいって気持ちは一緒・・・

ディスクが終了したようです。次のディスクをインサート。再び流れ出したゲキガンガーを横目に、私は再び明人さんを見つめます。

ちょっと癖のあるぼさぼさの髪。

今は閉じられているけど、澄んだ少年の瞳。

今は閉じられているけど、私に柔らかい微笑みを投げかけてくれる唇・・・・

私は、そっと明人さんの髪に触れます。明人さんと一緒に暮らしていたあの頃・・・

朝の弱い私を起こすとき、明人さんは私の髪をそっとなでて、起こしてくれました。

「瑠璃ちゃん、朝だよ。」って・・・私は、その感触がとても好きで・・・とても気持ちよくて・・・たとえ起きてても、わざと寝たふりをしていたものです・・・

私は、明人さんが私にしたように、明人さんの髪をそっとなでてみます。

そして、小さくつぶやいてみます。

「明人さん、朝ですよ・・・起きてください・・・」

・・・返事は、・・・ありません。

私は、悲しくて・・・

寂しくて・・・

明人さんに目覚めて欲しくて・・・

明人さんの髪をなで続けていました・・・

いつまでも・・・

挿し絵♪

その光景を、イネス・フレサンジュはモニターで見つめていた。

暗い部屋。モニターの明かりだけが、彼女を照らしている。その表情は堅く、どこか陶器人形を連想させた。

「他人の部屋をのぞき見とは、あまりいい趣味とは言えませんな、ドクター。」

突然、暗がりから人の声が、彼女に向かって投げかけられた。

しかし、たいして動じた様子もなく、彼女はモニターから顔を上げず、声の主に向かって言った。

「レディの部屋にノックも無しで入ってくるような礼儀知らずに言われたくないわね、ミスター。」

「いや、これは失礼。一応ノックはしたつもりだったんですが、返事がないため勝手に入らせていただきましたよ。」

暗がりから現れた男・・プロスペクターは、彼女の後ろにまで来ると、その後ろ姿に視線を落とした。

その目は、少し懐かしいような、悲しいような、そんな複雑な色が見え隠れしている。

「・・・ほんと、まさかあなたが、あんなプロトタイプのナデシコに乗って火星くんだりまでやってくるとは思わなかったわ。

生きて帰れる保証は無いと分かっていて、来るなんて。計算高いあなたらしくないわね。」

「いやー、なにせ社命でしたからねえ。私、しがないサラリーマンでしかありませんですから、はい。」

「嘘おっしゃい。私を救いに来たんでしょう。命の危険を冒してまで。まったくよくやるわね。惚れた弱みってやつかしら。」

「・・・それは、少々うぬぼれているんじゃあないですか、ドクター。」

「あら、いい女にはうぬぼれる特権てものがあるのよ。知らなかったの?」

軽口を叩くもの、二人のその表情は、決して笑ってはいなかった。しばしの沈黙の後、

プロスが口を開いた。

「・・イネス、あなた、あの時『もう、どうなってもいい』と、思っていたでしょう?

天河君が死んだと聞かされたとき。ここで死んでもかまわないと。」

「・・・」

「でも、あなたはナデシコを救うのに・・生きて脱出することに協力した。・・・なぜです?」

「・・・・よく似ているわね。若い頃のあの人に。だから・・かな?」

「・・・そうですか。よく分かりました。・・でも、よく似ているのは彼だけじゃあありませんよ。

・・・『星野瑠璃』。彼女も、昔の貴方によく似ていますよ。境遇も、それ以外の部分も。」

「・・そんなことを言いにわざわざ来た訳じゃあ無いでしょう?用件は分かっているわ。明人君のことでしょう?」

「さすが、ご明察です。彼を何とか助けることは、できませんかね?」

イネスは、無言で肩越しに、一冊のレポートをプロスに手渡した。

それをめくるプロスの表情が、見る見るうちに堅いものに変化していく。

「イネス、これは・・・」

「あらかじめ言って置くけど、私はしゃれや冗談で言ってる訳じゃ無いわ。それくらいしか方法がないのよ。

何せ人類初のボソン・ジャンプによる疲労困憊の臨床例。おまけにジャンプさせたのが、

分離して脱出艇だけになっていたとはいえ戦艦一隻。しかも触媒となるC・Cがたった一個。

これだけ困難な状況下で成功したのは、まさに奇跡よ。明人君にどれくらいの負担がかかったか・・・前例がないのよ。」

「しかし、これは・・・もし、成功したとしても、予測される彼が失うもの・・・彼が陥る困難な状況・・彼に、耐えられるでしょうか?」

「実行するかどうかは、あなたに一任するわ。成功報酬は受益者負担。これは世間の常識よ。

それが・・・最悪、彼の魂とも言う物を奪う結果になったとしても・・」

重い沈黙が部屋に流れた。どれくらいの時間が流れただろう。プロスが、口を開く。

「皮肉なもんですな。ボソンジャンプの危険性と独占禁止を訴えた男の息子が、人類初の生体ボソン・ジャンプの成功者とは・・・」

「皮肉と言えば、あなたもそうじゃなくって?天河さんを守るためとはいえ、彼がまとめ上げた公表の為の資料全てを持ち出して隠蔽。

親友を地球の研究所に押し込めた男が、その息子を火星に送り届け、ボソンジャンプを成功させた・・・・・

で、どうするの?やめる?それとも・・・」

 

「・・・わかりました。お祭り好きのナデシコクルーに、これ以上つらい思いをさせるわけには参りません。

人員と機材の手配は私の方で。貴方は皆さんに納得のいく説明をお願いしますよ。」

「わかったわ。」

相変わらず振り返りもしないイネスを尻目に、プロスは部屋を出ていく。退出間際、プロスはつぶやいた。

「・・・彼は・・・私を許してはくれないでしょうな・・・」

「いまさら何をいってるの?もしかしたら何事もなく済むかもしれない。案ずるより生むが安し、っていう言葉もあるわ。」

「彼女次第・・ですか・・。」

プロスが退出した部屋で、イネスはまだモニターを見つめていた。そこに映っている

少女・・・『星野瑠璃』。明人を慈しむようにしている彼女を、イネスは見ていた。

「似ている、か・・・。そう、そうかもね・・・でも、彼女は私とは、違う。彼女には、チャンスがある・・・

そして・・・私は、もう思いを伝えることさえできない・・」

やがて、彼女は小さく嗚咽を立て始めた。幼子のように・・・

 

 

                                 ・・・続く

 

 

昏睡状態の明人を救うため、プロスとイネスは、何をしようというのだろうか?

そして明人は、その困難な状況に耐えられるのか!?その『魂』とも呼べる物の消失に耐えられるのか!?

そして・・・その身を切るような心の寒さに、耐えられるだろうか・・・

「星野瑠璃」。彼女は、彼にとってのただ一つの希望足り得るのだろうか・・・

次回、機動戦艦ナデシコif第七話「いつかみんなで『歌う歌』」を、みんなで読もう!

 

 

瑠璃:目覚めてください・・・明人さん・・・

 

 

 

                

        1999/6/21 かがみ ひろゆき    ご意見、ご感想、苦情はこちらまで。   langa@tokai.or.jp

 


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