機動戦艦ナデシコ「if誰よりも早く貴方に出会っていたら・・・」

第六話「選び、択された。命を運ぶものとして・・・」みたいな

=act.1=

 

ナデシコ、やっと火星に到着です。ほんと、この一ヶ月半いろいろありました。

「明人さんの手料理争奪戦騒動」とか「バーチャルルームお籠もりさん事件」とか。「バレンタインデー・チョコ奪取作戦(艦長命名)」

なんてのもありました。

・・・なぜか、戦闘に関わり合いのない事件ばっかりですね。ほんと、ばかばっか。

でもまあ、なんのかんの言っても、こうして火星に着いちゃうんだからたいしたもんね。

「瑠璃ちゃん、グラビティ・ブラスト発射用意!左舷の艦隊に照準軸合わせ!てーっ!」

「発射。」

・・・そうでした。正確に言うと、まだ到着していませんでした。

ナデシコは現在敵火星駐留艦隊と交戦中。これを撃破しないといけません。明人さん達エステバリス隊も全機出撃しています。

さすがに火星は、敵の数もはんぱじゃなく多いんですが、正直ナデシコの敵じゃあありません。

敵側のグラビティ・ブラストは、こちらのディストーション・フィールドにそらされて、被害は皆無。

こちら側のグラビティ・ブラストは、まとめて敵を葬り去っています。エステ部隊の活躍も忘れちゃあいけません。

パイロット三人娘の連係プレーと明人さんの熱血攻撃。もっとも三人娘さん達は楽しそうですが、

明人さんにはそんな余裕ありませんけど。あ、すごい。明人さん、戦艦一隻撃沈ですって。

やがて、戦闘終了。ナデシコの圧勝です。

「ふうー。やっと終わったね。みんな、ご苦労様。淳君、半舷休息。警戒レベルイエローへ。エネルギーチャージ終了後、大気圏に突入します。」

「かんちょー、行き先はどーするのー?」操舵氏のミナトさんが、降下目標地点を聞いています。

現在生き残りの人間が潜伏中と思われるシェルターは・・・

「艦長、とりあえずオリンポス山の研究施設に向かってください。」

突然プロスさんが、艦長に行き先を指定してきました。火星の研究施設?

なんでまたそんなところに・・・・

「ネルガルの研究施設には、大型のシェルターがあります。生き残りの人たちがいる可能性はかなり高いと思われますので・・・」

皆さんのけげんな表情に、プロスさんいいわけじみた説明をしています。ま、会社がらみの人間をまず救出するってわけですね。

ついでに会社の研究成果も回収と。抜け目ないですね。

「・・・わかりました。ミナトさん、艦の進路をオリンポス山へ。警戒は怠らないでくださいね。」

 

・・・・・・生き残りは・・・いませんね・・・

せっかくたどり着いた研究施設ですが、もはや影も形もありません。大きくえぐれたクレーターがあるだけ。

でも、衛星軌道より確認した他のコロニーは、ここまで徹底的に破壊されているところはありませんでした。なぜ、ここだけ・・・

「いたしかたありません。とりあえず、一番手近なコロニーに向かってください。」

プロスさん、かなり残念そう・・・ま、根っからのビジネスマンみたいですから。

火星までの航海中、騒動が起きる度にそろばん抱えて頭抱えていましたし。

無駄なお金は使わない。効率優先。お金儲け至上主義。浪速の商人。ま、こういう大人もいるってことね。さて、次のコロニーは・・・・

「生きていて・・・くださいよ・・・」え?プロスさん?

顔を上げると、寂しそうな横顔のプロスさん。・・・ちょっと、意外です。知り合いでも、火星にいたんでしょうか?

とにかく、次のコロニーへ向かいます。今度こそ生き残りがいるといいんですが・・・

 

「どう、メグちゃん?先行した偵察隊からの連絡は?」

「・・・はい、半径30キロ圏内にチューリップ及び敵戦艦は確認できず。OKです。」

「わかりました。ナデシコ、コロニーに停泊。生存者の探索と救助を・・・」

「艦長!先行隊から緊急連絡!生存者発見!保護したそうです!現在ナデシコに帰還中!」

やりました。初の生存者救出です。リョーコさんお手柄ですね。

もうすぐ有視界スクリーンに機影が見えてくるはず・・・きました。エステの手のひらに乗っている人間は・・・女性のようです。

もう少しアップで・・・あれ?この人は・・確か・・・

「イネス・フレサンジュ・・・生きていてくれましたか・・・」・・・またまた誰かさんがつぶやきます。

顔を上げると・・やっぱりプロスさん。知り合いだったんですか・・・

 

 

「お久しぶりね。プロスペクター。それに・・・星野瑠璃。」「・・・どうも。」

なんか、やたら偉そうなこの人。以前私がいた研究所の副所長。現在は火星研究所の偉い人。

イネス・フレサンジュ。年齢・・・やめておきましょう。

「ほんと、お久しぶりです。生きていてくれて、何よりです。」

プロスさん、にこやかに営業用スマイルで迎えました。あれ?お知り合い・・じゃないんですか?さっきとちょっと様子が・・・

「ほんと、二人とも相変わらずね。まあいいわ。ところで・・」

「申し訳ありませんが、大変状況が切迫しておりますので、まずこちらの質問から先にお願いします。」

何か言いかけたイネスさんに、プロスさんが口を挟みます。ちょっと不満そうですが、あきらめたのか、小さく肩をすくめます。

「切迫」している?何を急いでるんでしょう?

「まず、一つ目。星野研究所所長はどうされましたか?」

「・・・死んだわ。研究所もろとも吹っ飛ばされてね。研究データもろとも。」

そうですか。死んだんですか。戸籍上の、私の養父。紙切れの上だけでの関係・・・

「そうですか・・・それでは二つ目。『アレ』は、どうしましたか?まさかそれも・・」

『アレ』?なんでしょう?

「『アレ』は直前に運び出して、隠したわ。私はその指揮をとるために研究所を離れていたの。だから、私だけ助かったというわけ。」

「隠した?いったいどこに?・・・」

「ユートピア・コロニーよ。」

「ユートピア・コロニー!?あそこは落下したチューリップによって壊滅したはずですが・・・」

「そう。だから木星蜥蜴もマークしていない。絶好の隠し場所って訳。」

確かに、現在ユートピア・コロニーには破壊されたチューリップが突き立っているだけ。

原型をとどめている他のコロニーとは違います。生きるすべの無い死の廃墟。

そして・・・明人さんの故郷・・・

「さて、もういいかしら?今度は私の質問、答えていただけて?」

イネスさんの問いに、プロスさん、こっくりとうなずきます。

そのまま・・・私の方を向いて?

「さて、星野瑠璃。確か貴方、天河所長に引き取られたって聞いたけど?」

「はい、そうですが・・」「そう・・・それで・・その・・」

なんでしょう?なんだか妙に歯切れが・・頬、ちょっと赤く染めたりしています。

「こ、こほん。あのね・・天河・・さんは、今、どうしてる?」

「・・はい?」

天河・・さん?まさか明人さんのことじゃあないでしょうし・・天河所長のこと?

「あ、あのー、もしかして・・俺の父さんの知り合いなんですか?」

”天河”の一言に反応した明人さんが、イネスさんに尋ねました。

イネスさん、明人さんの方を振り返って・・「あら?あなた・・明人君?明人君ね!」

二度びっくり。明人さんとも知り合いですか。なんだか妙に知り合いばっかりですね。

「お、俺のこと、知ってるんすか?」

「ふふっ、小さい頃だったから、覚えてないかな?私よ。アイお姉さんよ。」「アイ・・・・・!アイ姉ちゃんか!」

「ま、まさか・・・あの『アイ』さん!?」艦長も知っているようです。世間は狭いってことですか。

「あら、ひょっとしてミスマル・百合花?貴方もこの船に乗っていたの。」

「な、なんで貴方が・・はっ!まさか、また私と明人の仲を邪魔しに来たんじゃないでしょうね!?」

・・・艦長、ちょっとピントがずれてます。何考えてるんだか。

「あいかわらずね。貴方も。ま、今は貴方をからかってる暇はないの。えっと、明人君、改めて貴方に聞くけど・・・

天河さんは、今どうなさってる?お元気かしら?」

イネスさんの質問に明人さん、うつむいて、拳を握りしめます。そう、明人さんのご両親はもう・・・

「父さんと、母さんは・・・死にました。木星の奴らの攻撃に巻き込まれて・・・」

「死んだ?!・・・・うそ・・・そんな・・・」

イネスさん、かなり強いショックを受けたらしく、呆然と立ちつくしています。

プロスさん、そんなイネスさんから、目を逸らします。なんだか重苦しい雰囲気・・・

 

 

 

「なんだって?!乗らない?!」ゴートさん、イネスさんの言葉に慌てています。

そりゃそうね。せっかく迎えに来たのに答えが「乗らない」じゃあ、納得いきません。

「そう、私はナデシコに乗らない。火星に残るわ。」

そんなゴートさんの大声にも動じた様子もなくイネスさん、淡々とした口調で答えます。いえ、どちらかというと

「投げやり」な感じですね。

「理由をお聞かせ願えませんか、イネス・フレサンジュ博士。貴方と星野教授を連れ帰るのが、

我々ネルガルの第一目的なんですから、理由もなしに残ると言われても・・」

 

プロスさん、完全なビジネスマン口調で、イネスさんに詰め寄ります。それに対して・・

 

「じゃあ聞くけど、貴方たち、ほんとにナデシコ一隻で木星蜥蜴に勝てると思っている?無事、火星を脱出できると?

ずいぶんと甘い連中ね。いいわ、はっきり言って上げる。このナデシコ一隻じゃあ、木星の奴らには、勝てない!!!」

 

「ちょっと待ってくれ!アイ姉ちゃん、じゃない、イネスさん!なんだよ、そりゃあ!

現に俺達は、こうやって火星まで来てるんだぜ!木星の奴らをやっつけながら!」

 

さすがに聞き逃せなかったのか、明人さんイネスさんに食ってかかっています。

「そう、今まで勝ってきた。だから今度も・・って訳。甘いわね。」

「イネス姉さんは、ナデシコの力を知らないからそんなこと言うんだ!ナデシコには・」

「相転移エンジン?ディストーション・フィールド?それともグラビティ・ブラスト?」

「な・・・?」

明人さん、目を白黒しています。この人、何でこんな事まで・・?

「このナデシコの設計をしたのはこの火星の研究チーム。そして制作したのも、この火星なの。

だから分かる。この艦の性能。そして、知っている。火星の蜥蜴達の戦力。」

 

「火星で?!地球でじゃあなかったのか?」

「地球は送られた部品を組み立てただけ。こちらとしては、この艦の性能をたっぷりデモンストレーションして、軍に売り込んでから

大量生産、その後火星奪還・・・というシナリオだったんだけど・・まさかたった一隻で乗り込んでくるなんて思わなかったわ。戦力計算が甘いわね。」

 

「そ、それは一刻も早く火星の人たちを助けたかったから・・・」

「つき合わされて、危ない橋を一緒に渡るのはごめんだわ。これは火星の他の生き残りの総意よ。

私はそれを伝えるためにここに来ただけ。それに・・・『あの男』がナデシコに乗っているっていうのを知ったら、余計乗りたくなくなったわ。」

 

そう言って、イネスさんが指さしたのは・・・フクベ提督?

「?提督がどうしたんだよ?」

「・・・あなた、なんにも知らないのね。いいわ、説明してあげる。この男よ、私たちのユートピア・コロニーにチューリップを落とした張本人は。」

「な!?」

初耳です。確か提督は第一次火星会戦で、チューリップを只一人撃破した方として、メディアでは英雄扱いなんですが・・・

「あの時、この男は自分の乗艦をチューリップにぶつけて大気圏突入角度を変更させ、破壊しようとした。

けどね、その為にコロニーが直撃を受ける羽目になった。いったい幾つチューリップが火星に打ち込まれたと思っている?約二千個よ。

その内のたった一つを撃破するために、コロニーが犠牲になった。せめて一つぐらい撃破しないと軍のメンツが立たないから。

私たちは忘れないわ。あの時の恐怖を。それを私たちの頭上に落とした男の名前を。」

イネスさんの口調は、信じられないくらい激しいものです。そして、それは火星の生き残りの人たちの怨嗟の声。

糾弾された提督は、押し黙ったまま・・

「それくらいにしていただきましょうか、イネス・フレサンジュ。今は提督を責めている時間はありません。一刻も早く火星を脱出しないと・・」

プロスさんが、イネスさんの話をさえぎりました。どうもさっきから急いでいるようですが・・あ、ちょっと待ってください・・・

「艦長、前方40キロメートルにチューリップ発見。敵戦艦も付随しています。」

「!総員第一級戦闘配置!ナデシコ発進準備!グラビティ・ブラスト発射用意!」

生存者発見で少々油断していた私たち、ナデシコを着底して休息していました。こうなると行動開始に少々時間が掛かります。

でもまあ、敵戦艦群はナデシコ正面。今までこのパターンでは、グラビティ・ブラストの一斉射でけりがついていました。

それでは今回も・・おや?ちょっと今までと様子が違います。敵戦艦群に、

今までより大型の戦艦が確認できます。このタイプは初めてです。新型でしょうか?

「艦長、敵戦艦群に大型戦艦確認。戦闘データありません。どうしますか?」

「んー・・だいじょうぶ!これまでどうりいっちゃいましょう!射程に入り次第主砲発射!ミナトさん、艦首敵戦艦群に向けてください。」

「りょーかーいー。右舷20度面舵ー。」

「・・・てーっ!」

フルパワーで発射されたグラビティ・ブラストの重力波が敵戦艦に襲いかかります。

これで敵戦艦は消滅・・・していない!?グラビティ・ブラストを持ちこたえた?!

「ええっ!?」「うそ!?」「そんな・・・」

閃光が消滅した後も、変わらずの状態の敵戦艦群に、皆さん驚きの声を上げています。それはそうでしょう。

いままでは、これで戦闘は終了していたんですから。

「何を驚いているのかしら?敵戦艦もディストーション・フィールドを使っているのよ?戦艦クラスの防御フィールドなら、

一撃必殺とはいかないわ。それともいままでは駆逐艦クラスを倒して、いい気になっていたのかしら?」

 

イネスさんの、あざけりともとれる言葉がブリッジに響きます。もっとも、いまはそれをとがめている余裕はありません。

「艦長、さらに新たなチューリップ発見。後方と、両舷にそれぞれ一つずつ。囲まれました。」状況は刻一刻悪くなっています。

「敵のフィールドも無敵ではない!艦長、連続発射だ!」「は、はい!」

ゴートさんの鋭い指摘で金縛り状態から脱出した艦長、グラビティ・ブラスト連続発射の指示を下します。けれど・・・

「無理です。」「へ?」

「大気圏内は、真空じゃないから相転移エンジンの反応が鈍いのよ。連射するにはエネルギーが足りない。」

したり顔で、イネスさんが解説します。

ついでに言えば、いったん着底したナデシコが再浮上するのにも時間が掛かります。

私たちがもたもたと浮上している間にも、チューリップからは、続々と敵戦艦が出てきます。

出るわ出るわ。瞬く間に敵大艦隊の出現です。いったいどれだけあの中に入っているんでしょう?・・・いえ、質量からいってチューリップの中に

あれだけの量が入るはずありません。どうなってるんでしょう?

「チューリップは単なる母艦じゃあないわ。空間と空間を繋ぐ一種のワームホール。別の宇宙とつながってるのよ。

そこから敵は送り込まれる。そう、無限に・・・」

呆然となっているクルーに、誰言うともなくイネスさんがつぶやきます。

「敵艦隊A,B,C,Dナデシコを取り囲みました。・・・離脱不可能です。」

「終りね。」

イネスさんの言葉が重くのしかかってきました。

 
 
 
                     ・・・・続く・・・

 

火星にたどり着いたのもつかの間、ナデシコに降りかかる最大の危機!フクベ提督の取る決断とは?!

明人の、瑠璃の運命は?!プロスとイネスが言う『アレ』とは?!百合花よ、ナデシコを、火星を救えるか?!

ああっ、ナデシコが、沈むう?!

次回「『選び、択された。命を運ぶものとして・・・』みたいな=act2=」を、みんなで読もう!

 

 

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1999/6/7    かがみ ひろゆき


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