機動戦艦ナデシコ「if誰よりも早く貴方と出会っていたら・・・」

第五話: るりちゃんとあきとくんの「こうかいにっし」・・・こうへん

  o月*日

・・・あれから、三日経ちました。無事地球圏を離脱したナデシコは、現在月の衛星軌道上、

月の対局に位置するネルガルの資源採掘兼、宇宙開発ステーション「サツキミドリ二号」

に向かって航行中です。あれからは蜥蜴さんも地球軍も、ちょっかい出してくる様子もなし。

ナデシコは安定航行を続けています。艦内もおおむね平常・・と、言いたいんですが、約一名

落ち込んでいる人がいます。・・・明人さんです。山田さんがかなり派手にお亡くなりになって

から、部屋にこもりきりです。今や形見となった「ゲキガンガー」のビデオを、朝から晩まで

かけっぱなしで・・見ているのか見ていないのか・・それすらも分かりません。

人の「死」に人一倍敏感な明人さん、山田さんの死まで背負い込んでしまっているのかも・・

あの場合仕方なかった・・って言う言葉は、明人さんの場合逆効果です。火星を見捨てた

軍隊が使った言葉・・・・でも・・・それじゃあ何と言って慰めたらいいんでしょう?

・・・・私には、分かりません。・・・何か言ってあげたいのに・・やっぱり・・私は・・・

「るりるり、ちょっといい?」

モニターで明人さんの部屋を見ていた私に、突然隣にいた操舵士のミナトさんが、

話しかけてきました。「な、なんですか?」

私は慌てて、明人さんの部屋を映しているモニターを消しました。・・気付かれたかな?

ミナトさん、にこにこしながらこっちを見ています。・・・ばればれですね。ま、いいですけど。

「ねえ、るりるり。明人君・・だっけ?彼って、あなたの『お兄さん』なの?」

「・・・いえ、明人さんは、私の『被保護者』です。」そう、被保護者。血縁関係はありません。

私と明人さんは・・他人。・・・それはそうと、「るりるり」って、なに?

「そう、『被保護者』ねー。・・・ふうん。」・・ミナトさん、今度はにやにやしています。

「ま、それはいいけどさあ、・・・いいの?明人君。この間からなんか落ち込んでるみたい

だけど、何か言ってあげなくて?」・・見てないようで、以外と鋭い観察眼です。でも、・・

「なんて、言ってあげたらいいのか、私には分からないんです。私・・まだ少女ですから・・」

そう、私には、今の明人さんにかけてあげる言葉が・・見つからない・・・

冷たい女ですよね・・・あの時も・・何も言えなかった・・

「ねえ、るりるり。そういうときは別に何も言わなくてもいいんだよ・・・ただ、側にいてあげる

だけで、いいんだよ・・・」「ミナトさん・・・」

優しい目で、ミナトさんがいいます。優しい声で、ミナトさんが教えてくれました。

「さ、行って来なさい。」「え?」「明人君のと・こ・ろ。」「で、でも、今は警戒態勢中で・・」

「いいからいいから。少しだけの間なら問題ないって。メグちゃんもオモイカネもいるんだし。」

「でも・・・」「大丈夫だって。その証拠に、ほら、艦長だって・・・」「え?」

そういえば、さっきから艦長の姿が見あたりません。代わりに、どさくさ紛れに副長に

なってしまった淳・アオイさんが、忙しそうにしています。どこいっちゃんだろう・・

「ね、艦長がこの場にいないってことは、しばらくは危険はないって確信しているからだと

思うな。こと戦闘に関することは、鋭いみたいだから。」・・そうですね。私も、そう思います。

「・・・それじゃあ、すみませんが五分だけお願いします。」「はい、いってらっしゃい。」

オモイカネを自動警戒態勢にして、私はブリッジを出ました。・・・明人さんの部屋・・

少し躊躇しましたが、思い切ってインターホンのチャイムを押します。

・・・不在?どうして・・・・さっきまで確かに部屋にいたのに・・・

・・・・もう時間、です。戻らないと・・・

o月#日

今日はナデシコ、補充パイロットと新しいエステバリスの「ゼロG戦フレーム」受領のために、

採掘兼開発ステーション「サツキミドリ二号」に停泊する予定、でした。

「でした」と言うからには、当然そうならなかった訳で・・・

「サツキミドリ二号」、蜥蜴さんの襲撃を受けて、壊滅状態。救援を要請されたナデシコ、

早速向かった訳なんですが、ものすごい数の無人兵器群に押され気味でした。

グラビティ・ブラストで一掃、と行きたかったんですが、敵さんさすがに警戒してか、思うように

かたまってくれません。頼みの綱のエステバリスは明人さん一人だけ。おまけに

空戦フレームしかないもんだから、・・・大ピンチです。

その時、壊滅状態の「サツキミドリ二号」から、三機のエステが発進してきました。

「ゼロG戦フレーム」。宇宙用に作られたそれは、信じられない機動性で、次々と無人兵器達

を撃ち落としていきます。すごい・・あっけにとられている明人さんのエステと私たちナデシコ。

やがて、戦闘終了。三機のエステがナデシコに着艦しました。艦長以下、手空きのクルーは

総出でお迎えです。ま、ピンチを救ってくれたんだから当然ね。そして皆さんの目の前に

現れたパイロット達は・・・「お、女!?」

そう、エステパイロットの三人は、全員女性。ずいぶん女性ばっかりになりましたね、この船。

あ、明人さんも帰還してきました。三人のパイロットさんにお礼言ってます。

・・あれ?何かパイロットさん達の反応が変です。冷ややかと言うか何というか・・

「・・・おめえ、あんな操縦で恥ずかしくねえか?新兵だって、もうちょいましな戦い方するぜ。」

な!?何言ってるんですか?!この人!私、思わず声をあげそうになりました。

明人さんは・・何も言い返せません。うつむいて・・握りしめた拳が、小さく震えています。

またあの人は・・自分を責めているんですね・・あなたは・・コックなのに・・

パイロット三人は、さっさと格納庫から出ていってしまいました。お出迎えの人たちも、一緒

です。明人さんは・・・一人取り残されたまま・・・・明人さん・・・

o月?日

前日の戦闘で、「サツキミドリ二号」はほとんど壊滅。所員の皆さんも、9割がたお亡くなり

になってしまいました。んでもって、社会的な立場と、社の体面上このまま放っておく訳にも

いかないってことで、ネルガル側でお葬式が執り行われる事になった訳。と、いっても、

この空域にいるネルガル関係の人間は、ナデシコクルーのみ。結局、私たちがやるのね。

あれから明人さんは、お葬式用の料理を作ったり、新しく来たパイロット三人に特訓を受けた

りして、結構忙しそう。あんまり悩んでる暇もないようです。あの時、明人さんに冷たい言葉を

かけたパイロットさんも、明人さんが臨時の、本当はコックさんだって話を聞いて、少し

悪いと思ったらしく、シミュレーターで明人さんに操縦の基本なんかを教えてくれています。

一人目のパイロットは昴・リョーコさん。かなりの男勝り・・・いえ、「がさつ」な人ですね。

でも、三人の中では一番面倒見がいいらしく、明人さんの練習相手をよくしてくれています。

明人さんも、ちょっと「友情」みたいな物を感じてるようです。

二人目は天野・ヒカルさん。めがねをかけた、かわいい感じの人です。でも、中身は・・・

「ゲキガンおたく」。山田さんの女性バージョンって所ですか。そのかわり、人生経験けっこう

あるみたいで、少しは現実を見る目があります。

三人目は泉・マキさん。長い黒髪の、ぱっと見妖艶な感じがしますが・・・

このひとは、ちょっと・・・よくわかんない人です。

他のクルーに言わせると「寒い」人だそうですが・・・何が「寒い」んでしょう?

とにかく、パイロットの補充も終わり、いよいよナデシコ火星に向けて発進です。

火星まで約一ヶ月半。長いような短いような、ナデシコの航海の始まりです。

火星は赤い星。死の星。戦の星。古代バビロニアでは「ネルガル」って呼んでいた

らしいけど・・・・それでもそこは明人さんの故郷。大切な思い出がある場所。

救うことができたなら・・・あの人は、あの笑顔を見せてくれるでしょうか。あの微笑みを・・

そう考えると、ナデシコに乗って戦うのも悪くない、などと考えてしまいます。

私もけっこうばかよね。ほんと、ばかばっかのナデシコ。少しばかがうつったかも。

それにしても・・・私たち、ほんとに勝てるのかな?

  o月*日

あいつが死んで、もう三日も経っちまったんだよな・・・

その間にも、ナデシコは着々と火星に向かう準備を行いながら航行していた。

艦内はさして変わったことも無く、平常そのもの・・・どうしてだ!!!人が死んだんだぞ!

いくら会ったばっかりで、ほとんど他人同然だったからって、同じナデシコのクルー

だったんだろう!!

少しは悲しがってくれても・・・それとも、みんなこの戦争であんまりにも人が死んだから・・

悲しむってことを・・忘れちまったっていうのかよ!!そんなのって・・・

あいつが残していった「ゲキガンガー」のビデオ・・・「男の死に様は、こうでなくっちゃな!」

っていうアイツの言葉が・・・なんだかむなしく思えてくる。死んじまっちまったらお終い

だろうが、ガイ・・・

・・モニターが、砂の嵐になった。五枚目が終わったらしい。何も頭の中に入ってきてない

けど・・・後は、あいつと一緒に見ようと言った、最終回入りの六枚目だけ・・・

『ぴんぽーん。』

今の俺の心境とはかけ離れた、やけに明るいチャイムの音が響いた。・・・誰だ?

・・だれでもいいか。今は誰にも会いたくない。

鍵をかけてあるから、誰も入ってこられないし・・・と、思っていたら、なぜかドアが

開いてしまった。そして、やたらと底抜けに明るい声。

「あーきーとー。なあにー?明かりも付けないでー。だめだよー、そんなんでテレビ見ちゃあ

目を悪くするよー。」・・・いま、一番会いたくない奴が来ちまった。ミスマル・百合花・・・

「もうー、出航してもうだいぶ経つのに、明人ったらちっとも会いに来てくれないんだもん。

ほんと、照れ屋さんなんだから、明人ったら。」・・・こ、こいつは・・

「・・・あのなあ・・」「ん?なあに、明人?」「どうやって、中に入った?」

「百合花は艦長さんだから、マスターキーもってるんだよー。えっへん。」

「だからって、勝手に人の部屋になあ・・」「だってえ。」

「だってじゃあないっ!だいたい、おまえ艦長の仕事はどうしたんだよっ!?警戒態勢

のまま待機じゃあなかったのかっ!?」そう、ここはもう奴らの勢力内。何時敵が

襲ってくるか分からないのに・・アイツが死んで、パイロットも俺一人。

「ああ、それなら大丈夫っ!!淳君が、副長として百合花の代わりにいろんな細かい

所、やってくれるからっ!ほんと、百合花大助かり!最高のお友達だねっ!」

そういや、あいつ結局ナデシコの副長になったんだよな・・連合軍出身の経歴を買われて。

・・・おもいっきり同情するな、あいつには。こいつのこの鈍感さ・・・

「で?」「え?」「・・・・なんか、用があるんじゃあないのか?」

「え・・・と・・・あはは、別に用があるわけじゃあないんだけど・・ほら、恋人なんだもん、

理由なんかいらないでしょ。」「だっ、誰が恋人だ、だれが!」

「照れなくていいよー、明人。明人は私が好きなんだもんねー。」

「なんで、そうなるんだっ!」まったくこいつは昔っから・・・

「あ、そろそろ私戻んなきゃあ。じゃあ、またねー、明人。」「え?ちょっと・・・」

・・・いっちまった。なんだったんだ、あいつ・・・まさか、慰めに来た、とか?

・・・まさかね。まあ、いいや。とりあえず、部屋にこもってるのもなんだから、気分転換に

厨房で料理でも作るとするか。おれ、コックだもんな。

o月#日

今日はネルガルが所有している宇宙ステーション「サツキミドリ二号」に、着くはずだったん

だけど・・・また、あいつらが現れたんだ。救援信号を受けたナデシコが着いた頃には、

「サツキミドリ二号」は、壊滅状態・・ちくしょう!俺はエステで出撃したんだけど、

宇宙用じゃあないから、動きも鈍い。おまけに、今までと数が違う。

まずい、このままじゃあ・・俺もナデシコも・・焦るけど、やっぱりどうにもならない。

くそっ!ガイ!こんな時、おまえならどうするんだよ!

その時だった。「サツキミドリ二号」から、三機のエステが飛び出してきたんだ。

「エ、エステ?でも、何で今頃・・そうか、ナデシコのエネルギーライン圏内に入ったから・・」

「おい、そこのエステ!聞こえるか!」突然、三機のエステから、通信が入った。

これは・・女の声?パイロットは、女なのか!?ウインドウが開いた。

映った顔は、ショートカットの若い女性。ちょっときつめの顔つきだな。

「おい、聞いてんのかよ!」ウインドウに映った女は、俺を怒鳴りつけてきた。

うわ、なんかきつい娘だな。「お、おう、聞こえてるけど・・」

「邪魔なんだよてめー!!射撃線上からどけよ!!」「わ、わるい」

もたもたしている俺のエステを後目に、三機のエステは次々とバッタ達を撃ち落としていく。

すげえ・・・やっぱ正規のパイロットは、ちがうなー・・・・

あっという間にほとんどのバッタたちは撃墜された。悠々とナデシコに着艦していくエステ

達。俺も慌てて後を追った。助けられたんだから、お礼ぐらい言わないとな。

俺が着艦すると、パイロット達はもうナデシコのクルーに囲まれていた。・・全員女性か・・

「あ、あのー、助けてもらって、どうも、ありがとう。」俺がそういうと、三人のパイロットは

こっちを向いて・・・・あれ?なんか、・・・・え?なに?・・・・

・・・そうだよ、おれは・・コックだよ!パイロットも臨時だよ!でも・・・

守れるのか・・こんなことで・・・ナデシコを・・救えるのか・・火星を・・・おれは・・・

o月?日

この間のコロニーの戦闘で、また大勢の人間が死んでしまった・・・

ナデシコでは、連日連夜お葬式の日々。俺も、葬式用の料理作りに追われていた。

「生きている人間には、死んだ人間に対して『お葬式』をしてあげる義務がある」

っていうのが、ネルガルの言い分だそうだが・・

で、今俺は、新しく来たパイロットさんに、俺はエステの基本的な操縦をレクチャーして

もらっている。あの時厳しい言葉を投げかけられたが、俺がコックだって聞いてから、

態度が少し柔らかくなってくれた。まあ、あいかわらずきつい物言いはするけど。

暇を見つけては、俺をシミュレーターで鍛えてくれる。

一人目のパイロッと、リョーコちゃん。かなりぶっきらぼうで、がさつな物言いなんだけど、

俺に生き残るためのノウハウをたたき込んでくれる。うじうじ悩んでる俺を、笑い飛ばして

くれる。・・なんか、頼りになる相棒、ってかんじかな。ちょっと俺の方が弱すぎるけど。

二人目はヒカルちゃん。彼女も「ゲキガンガー」が好きらしくって、自分で同人誌を

作ってるくらいだもんな。ガイの奴がいたら、話し、会ったかもな。

ときたま結構痛いつっこみされるけど、基本的にいい娘だよな。かわいいし。

最後はイズミさん。かなり大人っぽい女性なんだけど・・・

このひとは、ちょっと・・・ははは・・・

あの、よくわかんない駄洒落さえなければなあ・・・寒いんだもんなあ・・・

なんにせよ、とりあえず火星に向けてナデシコ発進!ってとこかな。

火星まで一月半。最新鋭だけあって、かなり早いんだけど、やっぱ一ヶ月は長いよなあ。

俺が住んでいたユートピア・コロニーは、チューリップの直撃を受けて、壊滅して

しまってるけど・・・きっと、みんな生きている!そう信じて、いこう!

これが終われば俺も、瑠璃ちゃんも、ネルガルの契約から解放される!

戦争なんかしなくて済むんだ。そして瑠璃ちゃんには、俺の故郷を見せてやるんだ。

みんなの幸せを守る正義の味方に、俺はなりたかった。いや、なってみせるさ!

なあ、ガイ!

 

                                                    挿し絵                                                                   

 

 

                                                        あとがき

 

             さて、皆さんこんにちは。機動戦艦ナデシコ「if誰よりも早く貴方に出会っていたら・・・」、お楽しみいただいていますでしょうか?

             ナデシコもようやく地球を出発し、一路火星に向かいます。火星で待ち受ける物は、いったいなんでしょうか・・・そして、ナデシコ

             の、明人の、瑠璃の運命は?プロスペクターの真意とは?明人の両親は、そして山田次郎は本当に死んだのか?・・・・・

             作者にも分かりません(笑)それでは次回ナデシコ「『選び、択された。命を運ぶものとして・・・』みたいな」を、みんなで読もう!

 

              1999/5/28       感想、苦情、ご意見はこちらまで。   langa@tokai.or.jp    かがみ ひろゆき  

                PS:挿し絵、描いてる暇ありません(泣)こんな手間が掛かるとは・・・


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