機動戦艦ナデシコ「if誰よりも早く貴方に出会っていたら・・」

第四話: 水色宇宙に『ばかばっか』

−Bパート−

年齢は二十歳前後と言ったところでしょうか?長い黒髪に人なつっこそうな笑顔。

なかなかの美人と言ったところです。でも、今の発言からすると、あんまり頼りがいのある艦長とは・・

いえ、はっきり言っちゃって「ばか」ですね。最悪の第一印象です。

キノコの人なんか青筋たてて今にも頭から湯気が出そう。プロスさんもちょっと困った顔してます。

両隣の二人は・・あ、雑誌読んだりお化粧直したりしている。早くもあきらめモードと言ったところですか。

「どうかしたのかね、艦長。これほど遅れてくるとは。遅刻の訳は?」

ちょっとびっくり。物陰からゴートさんが艦長に質問です。いたんですか。

艦長、あんまりびっくりした様子もなく、あっけらかんとした口調で答えます。

「ごめんなさーい。なかなか髪型のセットが決まらなくてー。ほら、この帽子ちょっとダサダサだし。うまく角度が決まんないしー。」

・・とても、一介の艦長の言う台詞じゃあありませんね。キノコの人なんか完全に湯気立っていますし、プロスさん明後日のほう向いています。

「な、なんで『こんなの』が艦長で、私たちプロの軍人がオブザーバーなのよっ!バカにするにもほどがあるわっ!」

「失礼ですが、艦長はこの私がスカウトしてきた逸材です。『こんなの』呼ばわりはやめていただきたいですな。

それにオブザーバーとしてお呼びしたのはフクベ提督のみ。ムネタケさん、あなたはお呼びした覚えはありませんが?」

キノコの人(ムネタケさん)は、今度は顔色を青くして、反論しています。

「な、なにいってんのよ!民間の企業が運営する戦艦だなんて、危なっかしくてたまんないわ!

私たちプロがきっちり監督しなければ!二人じゃ少ないくらいよっ!」

「あのーちょっといいですか?」

当事者なのにすっかり蚊帳の外と言った感の艦長、何か発言したいようです。きっとにらみつけるムネタケさんにも臆した様子がありません。

そして一言。

「あのー、何怒っていらっしゃるんですか?」

 

・・・艦長、ばか。

まさに今この場が戦場になろうとしたその瞬間です。けたたましい警報が鳴り響きました。オモイカネの自動警報システムです。これは・・

「地上にて、連合軍が木星蜥蜴と交戦中。敵の目標は・・確率99.89%で、この地下ドック『ナデシコ』と思われます。

連合軍の損耗率57%。地下ドック到達は時間の問題です。」

オモイカネがはじき出したシュミレーションを報告すると、総員第一種戦闘態勢です。

いきなり戦争になっちゃいました。でも、この艦長じゃあ・・まさに風前の灯火といったところですね。

「さて、艦長。どうなさいますか?」

プロスさん、こういう状況でもあわてた様子がありません。ただのビジネスマンじゃあないようです。

それとも、自分のスカウトした艦長をよほど信頼しているんでしょうか?

「ドック注水、補助エンジン始動。海底トンネルを抜け、港湾内に浮上。敵後方より主砲の一斉射で敵を殲滅します。ミナトさん、繰鑑よろしく。」

さっきまでのふやけた人とはまるで別人のような艦長の指示に、皆さん呆気にとられています。

私も少し見直した感です。でも、少しこの作戦には問題が・・・

「艦長、その作戦では敵の配置に問題があります。もう少し狭い範囲に敵を集結させないと、主砲による殲滅は不可能です。

それに地下ドックにまもなく潜入されます。何かしらの時間かせぎをしないと、発進する前に生き埋めです。」

私がそう報告すると、艦長予測していたらしくこちらを見てにっこり笑います。

なんだか明人さんの笑い方に似ています。心配事を消してしまうような、そんな笑い方・・

「うん、そうだね、瑠璃ちゃん。エステバリス発進準備。リフトで地上に射出し、時間稼ぎと敵の戦力集結をさせます。

エステバリスの戦闘能力なら、可能です。メグミさん、山田さんに連絡。エステバリスに搭乗させてください。」

艦長と言うだけのことはありますね。全員の名前覚えているようです。あ、でも・・・

「山田さん、搭乗不可能です。」

「へ?なんで?」思いもかけない報告に、艦長不思議顔です。

「山田さん、エステバリス格納庫にて、全身打撲と右足骨折により医務室送りになっています。」

そうでした。これは、艦長予想外です。

「ええーっ?なんでー?どうしてえー?」

あ、元に戻っちゃいました。つかの間の信頼感でしたね。でも本当に、連合軍の現有戦力では足止めもおとり役も不可能。

「代わりのパイロットはいないのっ!このまんまじゃあ死んじゃうでしょうがっ!」

艦長のピンチに、ムネタケさん息を吹き返したようです。でも、ただわめき散らしているだけじゃあ、うるさいだけです。

「残念ながら、残りのパイロット達は宇宙ステーションで合流予定で、予備のパイロットはおりません。なにぶんパイロットはお給料が高くて・・」

プロスさん、困った顔で汗なんか拭いています。後悔先に立たず。もう・・だめかもね。

「だれでもいい!ドック内、艦内にエステを操縦できる人間はおらんのか!」

ゴートさん、そう言うと私に、全ドック内と艦内に該当者がいないか検索するように言いました。

そんなことしても、無駄でしょうけど、一応・・・・あ、いた。

『いた!?』

ダメもとの検索に該当者がいたことに、皆さんびっくりです

「どこのどいつよ?」「これはおどろきですねー。」「瑠璃ちゃん、モニターにだして!」

皆さん一斉に喋るのはやめて欲しいです。うるさいから。それでは、ぽちっとな。

え!?この人は!?

顔写真が間に合わなかったらしく、『Now Printing 』と表示されたプロフィールに表示された人の名前は、

「天河明人」と書かれていました。

 

 

 

・・・あれから明人さんの説得に、ゴートさんが向かいました。幾らエステの操縦が可能とはいえ、

一介のコックに過ぎない明人さんを戦闘にかり出すのは難しい・・と、思われたんですが、

明人さんは状況を聞くと、意外なほどにあっさりOK したそうです。でも、どうして・・・

目の前に小さく映し出したモニターに、ぎこちない調子で発進準備を進めている明人さんの姿が映っています。

私には、わかりません。いえ、頭ではわかっています。でも、やっぱりわかりません。なんだか頭の中がぐるぐる回って、答えが出せません。

しかたないですね。こういう場合、「原因」に直接聞いてみましょう。

『天河さん、ちょっといいですか?』

『うわっ!と、瑠璃ちゃん?』

いきなり鼻先にウィンドウを開いたため、明人さん驚いています。

『な、なにかな、瑠璃ちゃん?』

緊張のためか、多少引きつった顔で明人さんが笑っています。

『天河さん、ちょっと聞きたいことがあるんですけど。・・・あの・・・』

何から聞こう。どうして引き受けたんですか?死ぬかもしれないのに。

貴方はコックなのに。

誰のためなんですか?

私?

自分?

ただのヒーロー願望?

・・それとも・・殺されたご両親の為?

復讐?

・・止めることは・・できないの?でも、・・

あ、また頭の中が、またぐるぐる回っています。どうしたいんでしょう、私は。

『瑠璃ちゃん、なに怒っているんだい?』

口ごもってしまった私に、明人さんは意外な言葉をかけてきました。怒っている?私が?

『私、怒ってなんかいません。』

『いや、怒っているな、瑠璃ちゃん。』

『天河さん、私怒ってなんか・・』

『ほら、それ。』

『え?』

『瑠璃ちゃん、怒ったとき俺のことこう言うんだよな、“天河さん”って。』

『・・・』

『瑠璃ちゃん、心配してくれたんだ。だから、怒ってる。』

『し、心配なのは当たり前です。・・だって、明人さん・・憎いんでしょう、敵が。だから、なんでしょう?パイロットを引き受けたの。』

『いや、それは違うな、瑠璃ちゃん。俺、あいつらが憎いから、これに乗ったんじゃあないよ。その、上手く言えないけど・・・守りたいから・・かな?』

『守りたい?』

『うん、そう。俺、あの時、父さんと母さんを助けられなかった。逃げることしか、できなかった・・』

『でも!あの時は、仕方ありません!私たちには、どうすることもできませんでした。何の力もない私たちには・・逃げるしか・・』

『わかってる。あの時の俺には、逃げるという選択肢しかなかった。でも、今は違う。今の俺は、戦う為の力がある。

そして、今逃げたら、みんな死んじゃうんだ。・・もう、俺の目の前で、誰も殺させはしない!だから!・・』

貴方は・・優しすぎます・・自分と同じ悲しみを、痛みを、他の人に味会わせたくないから・・そのために・・

『明人さん・・』

いまなら、素直に言える。

「がんばってください」と。「死なないで」と。そう、今なら・・・・

 

「瑠璃ちゃん、ちょっといい?」

私が明人さんに、そう言おうとしたとき、艦長が話しかけてきました。な、なんでしょう?

「悪いんだけど、エステバリスのパイロットの、コックさんに回線繋いでくれるかな。

艦長として一言、こんな危険な任務をさせることになったおわびを言いたくて・・」

・・まだ、地上に出るまで時間はあります。私の方は後まわしでもいいでしょう。

「わかりました。回線繋ぎます。」

『どうも、”ナデシコ”艦長、ミスマル・百合花です。この度は危険な任務に巻き込んでしまって・・・』

そこまで言うと、はた、と艦長の言葉が止まっちゃいました。

なんだか明人さんの顔をじっ、と見つめています。どうしたんでしょう?

『な、なんすか?』真正面から女の人にじっと見つめられて、またまた明人さん赤くなっています。そして、次の瞬間・・

「あーっ、明人だーっ!!明人明人明人!!!」

突然、艦長が騒ぎ出しました。ものすごいハイテンションです。

私や明人さんも含めて、皆さん圧倒されています。

明人さんの事知っているみたいだけど・・・

「あ、あのー、・・・・俺のこと知っているんすか?」

明人さんは覚えて無いみたいです。

『やだあ、私よ、ミスマル・百合花よ!火星でお隣さんだった!』

『ゆ、百合花?百合花か!な、なんでそんなとこに!?』

『百合花は、ナデシコの艦長さんなんだよー。えっへん!』

火星でのお知り合いですか。私が知らないはずですね。

・・・私が知らない明人さんを知っている人・・私が会う前に明人さんに会っていた人・・

「艦長、彼とはお知り合いでしたか?」

プロスさんも、明人さんが艦長とお知り合いとは知らなかったようです。艦長、喜色満面といった様子でプロスさんに答えました。

「うん、明人は私の王子様なんだよー。!」

『お ・ う ・ じ ・ さ ・ ま!?』

皆さん驚きで、目がまんまるです。明人さんも、私もです。王子様って、どういうこと!?

『な、何いってるんだよ、おまえは!だれが王子様だ、誰が!』

『照れなくていいよ、明人!明人っていつも私のピンチに助けに来てくれるもん。

やっぱり明人は私の王子様だよ。!』

『お、俺は別におまえを助けにきた訳じゃあないぞっ!第一俺はおまえが艦長だなんて知らなかったんだぞっ!』

『うんうん、言わなくってもわかってるよ。!二人は赤い糸で結ばれてるんだもん。!だから来てくれたんでしょう、明人はっ!』

『人の話をきけーっ!』

 

・・・勘弁して。すっちゃかめっちゃかです。戦闘前の緊張感なんかかけらもありません。

なんなんでしょう、これは。・・・・なんだか・・腹が立ってきました。

『天河さん、そろそろ地上に出ます。準備してください。』

『え!?瑠璃ちゃん?』

『作戦時間は五分。敵無人兵器のドック侵入を防ぎ、戦力を引きつけといてください。』

『ち、ちょっと待って、瑠璃ちゃん!?』

『では、死なない程度にがんばってくださいね、天河さん。』

『ま、待ってくれ、瑠璃ちゃ・・』ぷつっ。

回線カットです。別に意地悪してるんじゃあありません。もう明人さんの周りは敵だらけです。話しながらじゃ気が散りますから。

・・・ええと、何も問題は無いはずです。「死なないで」とも「がんばってください」とも言いましたから。・・・問題・・ないはず・・

それにしても、明人さんと艦長、どういう関係何でしょうか?。火星で何があったのか、あとでじっくりと聞いてみましょう。・・・

と、とにかく、戦闘中です。それなのに艦長はモニターで明人さんのエステを見て歓声を上げているし、

プロスさんは明人さんに支払う危険手当の額を計算しているし、キノコの人・・もとい、ムネタケ氏は辺り構わずわめき散らしてるし、

おじいちゃんはお茶すすってるし、ゴートさんは置物だし・・・あ、今度は山田さんが現れました。

全身包帯で、明人さんのエステの操縦に文句言っています。

騒ぎの張本人のくせに、明人さんに文句言わないでください。

なんなんでしょう、この船は。

ほんと、みーんな

「ばかばっか。」

 

挿し絵♪

 

 

                                        

                                     −Bパート終了−

 

 

                                         あとがき

 

h・k :はい、どーもごぶさたです。「ナデシコif」第四話お送りいたしました。なんとかナデシコ登場です。しかし、まあ登場人物

    の多いこと多いこと。今にして思うと、なんて癖の多い人たちばっかり。瑠璃ちゃんじゃあないですが、「ほんとばかばっか」

    ですね。でも、ほんと愛すべき「ばかばっか」たちばかりです。TV版ではあんまり活躍しなかったユリカ嬢、少し活躍させたい

    と思います。ライトスタッフのナデシコクルーの中で、その能力があんまり発揮されていませんでしたから。さて恒例の、今回の

    お客様はこの方です。ではどうぞ。

ダイゴウジ・ガイ:わーっはっは、みんな待たせたなー!俺様の名はガイ!ダイゴウジ・ガイ!

         エステバリスのエースパイロットだっ!よろしくなっ!

h・k: そりゃ、一人しかいなきゃエースでしょうね。山田さん。

ガイ: だーっ!!だれが山田だ、だれが!エースってのも本当だっ!士官候補生時代に、デルフィニウムで演習中

    遭遇した蜥蜴野郎、淳と二人でたたき落としたんだっ!まっ、大部分は俺がたたき落としたんだがなっ!

    わっはっは!

h・k: 士官候補生?すると、前は軍人さんだったんですか?山田さん?

ガイ: ガ・イだっ!ガイ!・・・まあ、そういうこった。あんときの功績がネルガルに認められて、エステのパイロット

    にスカウトされたんで、やめちまったがな。・・もっとも、それが無くてもやめたかもな。

h・k: それはまた、どうして?

ガイ: ・・まあ、いいじゃねえか、細かいことはよっ!しかし、ほんとここに来てよかったぜ!エステバリス!

    さ、さいこーだぜ!くーっ、男なら、涙を流して喜ばなきゃあおかしいぜ!こいつに乗れるだけでも、やめて

    大正解!まっ、淳にゃ悪い事したがな。

ガイ: 淳って、誰です?山田さん?

h・k: ・・・わざとやってるんじゃないのか?まあ、いい。淳てのは、士官候補生時代の同期でな。なかなかできる

    奴なんだが、器用貧乏というか、いまいち押しが弱いっつうか・・頼りない奴だったな。俺様のフォローがなきゃあ

    今頃お星様だぜ、あいつ。いまいち運勢もよくねえみたいだし。貧乏くじを引きやすいタイプだな。

    無事士官出来りゃあいいんだがな。あいつ。

h・k: コンビ組んだのが、最大の貧乏くじだったりして・・

ガイ: なんか、言ったか?

h・k: い、いえ、なんにも。それでは山田さんありがとうございました。

ガイ: ガイだっつうのー!(泣)

 

 

 

1999/5/7    かがみ ひろゆき    

 

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