・・・あの日から・・・早くて・・・
・・・ちょうど・・・一年・・・


ぱたん。
分厚い日記帳を閉じ、溜息をつく。
今でも、目を閉じると・・・


・・・腕を組み二人で・・・歩いた道は・・・
・・・溢れる人の・・・波の中・・・


・・・ ・・・ ・・・
貴方は覚えていますか??
私の声を、顔を、温もりを。
・・・ ・・・ ・・・


・・・桜咲いた・・・今年も咲いたよ・・・
・・・変わらないのは・・・果て無き想い・・・




    桜 儚き夢と風の舞 或は、確固とした何かの終わり



舞い散る花弁。風に掻き乱されたそれは、銀色の髪に絡みつく。
銀髪の女性は少しも気にすることなく、ゆっくりと歩を進める。
飾り気の無い白い服を身につけた彼女は、どう控えめに見ても美しかった。
斜陽の光を受けきらりと光る瀟洒なイヤリングとロケットが一層彼女を引き立てている。
道で彼女とすれ違うと、10人中9人は間違いなく振り返る。それほどの美女だ。
その珍しい髪の色も相俟って、さながら幻想的な雰囲気を醸し出している。
並木の先をしっかりと見据え、歩きつづける彼女は一体何を、思っているのだろうか。


「・・・桜吹雪とは・・・よく言ったものですね。」
一本の桜の大樹の前で歩を止めた彼女は、暫し佇んだ後ぽつんとそう呟いた。
日はすでに落ち、周囲を茜色に染め上げている。
ざざぁっ・・・
風が強く吹き、視界が一瞬白く染まる。




「ただいま。」
「おかえりなさい♪」
狭いながらも、二人にとっては幸福が詰まった我が家。
「今日はお客さんが結構来たよ。」
嬉しそうに話し掛けてくる彼に微笑み返し、鍋に火をかける。
既に夕食と言うには遅い時間ではあったが、私達にはいつもの事であった。
「ごめんなさいね。今日は、お手伝いに行けなくて。」
「いや。気にしないで良いよ。というか、別に手伝いに来なくても良いんだよ??」
自分に気を使ってくれるのは嬉しい。けど・・・
「君にはちょっと辛・・・」
彼の言葉を一動作だけで止めさせ、にっこりと微笑む。
「私は、私がそうしたいからしているだけよ? 貴方も、初めに言ったじゃないの。
 『お互い、好きなようにしよう』って。」
「・・・わかったよ。」
半ば諦めたように溜息をつき。
「わかったから・・・このお玉、引っ込めてくれない??」
私は、彼の鼻先に突きつけていたお玉を鍋に戻す。笑顔とともに。
「今度、またそういう事を言ったら・・・お仕置きよ??」
「はいはい。」
「ハイは、一回。(笑)」

「きゃっ!?」
料理を続ける私を突然後ろから抱きしめる。
時々、彼は不意打ちを仕掛けてくる。これにはいつまでたっても慣れない。
「な、なんなのよ??」
きっと、私の顔は真っ赤だろう。ちょっと恥ずかしい。でも、幸せな一時・・・
「・・・真っ赤。」
「・・・ばか・・・」
更に真っ赤になって俯く私。
「くすっ・・・かわいぃなぁ♪」
頬を擽られる。
はぅ・・・もう駄目。(笑)
こうなると私は何もできなくなる。それを彼は知っててするのだから・・・
「あはは。ごめんよ。お詫びに、明日。出掛けないか??」
・・・はじめからそのつもりだったくせに。ま、折角のお誘いですから、ね。
「・・・」
こくん。と、小さく頷く。
「OK。じゃ、そういうことでよろしくね。」
私を少し強く抱き締めた後、隣の部屋へと向かう。
少しの寂しさと、明日への期待で胸が一杯になった私・・・
そのお陰でお鍋が少し焦げたのは、ちょっとした愛嬌だろう。




「・・・」
周囲に闇の帳が落ち始める。
大樹の正面にあるベンチに腰掛け、無意識のうちにロケットを弄る。
闇が濃くなっていくにつれ、彼女の存在は強くなっていく。
今宵は満月。
大樹の真上に位置する月は、彼女に微笑みかける。
月の・・・祝福・・・
そっと開けた瞳に月が映える。
その瞳は、悲しみに満ちていた。




「綺麗ね・・・」
柔らかな褥に身を横たえ、愛しい人の胸に顔を寄せ。
「ああ・・・俺には勿体無いよ・・・」
彼が抱き締めるのは銀髪の妖精。
窓辺のベッドの二人を照らし出すのは、優しい天空の女神。
”そんなこと・・・無いと思うけど・・・?
優しく髪を梳る手の感触を心地よく感じながら、緩やかな微睡へと落ち込む。
とくん・・・
鼓動が聞こえる。それは規則正しく時を刻むもの。
この音が聞こえなくなった時、私はどうするのだろうか??
そして私がそうなった場合、彼はどうするのだろう??
半覚醒の頭でぼんやり考える。
今考えるべき事ではないのかもしれない。
しかし、何時かは必ず直面する出来事なのだ。
・・・
唯一つ、言える事。
それは・・・
彼を失った後の自分を、想像だにできない事・・・

「・・・ル・・・たのか? ・・・ルリ??」
項に暖かく、くすぐったい感触を覚える。
どうやら彼が呼びかけているらしい。
「う・・・ん・・・なぁ・・・に??」
腕の中で身動ぎする。
彼が小さく苦笑するのがわかる。そして銀の海に顔を埋めた。
私は前に回された彼の腕を抱きこみ、再び窓の外を眺める。
儚く、そして美しい満月。
人は太陽ではなく月にコントロールされている。
それは、遥かな太古の時代からの、細胞単位での、記憶・・・
「・・・しよう・・・」
不意に、彼が呟く。
「・・・えっ??」
思わず聞き返す。思考に耽っていた為、聞き違えたのか・・・?
「・・・結婚・・・しよう・・・」




ざぁっ・・・
甘い香りを含んだ風が吹き抜ける。
そっと樹の幹に手を添え、見上げる。
葉の間から微かに漏れる女神の光。
大樹の元で月光を浴びている妖精。
その銀髪と服と、桜と月・・・一つの芸術、幽玄の美が完成する。
しかし纏っているのは、余りにも冷たすぎる――悲嘆と言う名の衣――。
「・・・貴方は・・・言いましたよね??」
閉じた目から一筋の涙が零れ落ちる。
「・・・私を・・・一人にしないって・・・私を・・・」
耐えられなくなったのか、嗚咽が激しくなり・・・頽れる。


余りにも現実は残酷だ。それは突然の出来事。何万分の一の、確率。
それを「運命」と呼ぶには―――余りにも唐突過ぎる―――結末。

忘れられるのであれば、どれほど楽になることか。
しかし・・・しかしそれは・・・
それは忘れることのできない、大切な、大切な・・・思い出・・・


咽び泣く彼女を、ぽっと淡い光が包み込む。
”・・・・・!!!・・・・・”
はっ、と弾かれたように涙で濡れた顔を上げる。
それは、あまりにも身近で、懐かしい雰囲気の――そこには―――
・・・彼がいた。
「・・・あ・・・」
”・・・俺はここにいる。君は、決して一人じゃないよ。”
あの頃と変わらぬ微笑み。
呆然と見上げる彼女。
”・・・俺は・・・俺は君と共に・・・いつま”

ざぁっ!!

一際強い風が吹いた後に・・・そこには誰も、いなかった。

しかし・・・
彼女にはわかった。感じられたのだ。
今でも、自分を想ってくれていることを、見守って・・・くれていることを・・・
そして・・・

溢れ出る涙を拭い、立ち上がる。
そっと微笑み、大樹を見上げる。
「・・・また、来ますね。」
それは最高の、そして儚い微笑み。
「全ての思い出をこの胸に秘めて・・・私は、歩んでいきますよ。」
溜息。
「・・・だから・・・見守っていてください・・・ね・・・?」
その言葉は、想いは・・・きっと伝わったことだろう。
この大樹と、そして天空の女神が、聞いていてくれてたのだから。

大樹に微笑み、踵を返す。
帰るのだ。彼女自身の場所へ。
自分が存在することを、生きていることを噛み締めながら。

そこには失われてしまったものがある。
無くしてきてしまったもの、置いてきてしまったものもある。
しかしまた、譲れないもの、そして未だ残っているもの・・・
それらも確かに、あるのだから。

ふと振り返る。
変わらず月に照らされた大樹が、そして・・・
一瞬だが、確かに見えた。
そう。彼が。
彼女の歩み始めた、新しい道を祝福するかのように微笑んでいる姿が。

呟く。最高の笑みと共に、万感の想いを込め・・・
「・・・ありがとう・・・そして・・・」




・・・桜咲いた・・・咲いては散り行く・・・
・・・桜咲いて・・・儚き命・・・
・・・さようなら・・・悲しみに・・・
・・・もう一度・・・新しい・・・
・・・人生を・・・歩みだす・・・
・・・ ・・・ ・・・
・・・見守っていてね??
・・・桜舞うよ・・・想いを乗せては・・・
・・・青い空に・・・吸い込まれてく・・・

・・・君といつまでも・・・
・・・共に・・・いる・・・
・・・いつ・・・までも・・・


―― Fin ?? 或は、漠然とした何かの始まり〜 ――










こんばんわ。お初にお目にかかります。(^^)
「幻夢」と申します。

さて。この度は、7月7日という事で・・・というわけではないのですが。(謎)
ルリ×アキトなお話を送らせて頂きます。

ちょっと変だな?と思った方もいらっしゃるでしょう。
当然です。自分の設定では・・・ルリが16歳。アキトが・・・18歳。( ̄ー ̄)ニヤリ
つまり、ルリだけがちょっと成長している。
そういうifナデシコでの、お話です。

機会があれば、というか、近々書こうと思っておりますが。
基本的に、「もし、TV版ナデシコで、ルリがもう少し大人だったら・・・」
とうことをコンセプトに。
無論!!(?)ルリ派な自分としましては・・・(笑)

さてさて。お話が飛びましたね。(^^;;;;

これは、ある区切りの時のお話であります。(^^)
どのような時か・・・まぁ、簡単なお話、劇場版の発端の事件ですね。(笑)

アキトが突然自分の隣から消えてしまった時、やっと彼女が立ち上がろうとする・・・
そんな情景、彼女の心の移ろいを描いてみました。

実はこれ・・・
つらつら書いていて、気が付いたら相当量のモノになってしまったんです。(−−;;;
ですんで、半分以下に削りました。(苦笑)
のちのち、きちんと「完全版」を銘打ち(笑)発表したいと思います。

さて。長くなってしまいましたね。(汗)
ここいらで一区切り。

ここまでお読みくださった貴方様。
突然、こんな駄文を送りつけてしまい、迷惑であろう大塚様。
そして、「機動戦艦ナデシコ」という作品を世に送り出してくださったジーベックの方々。
貴方様たちの出会いによって、この作品ができましたことを・・・ 深く感謝いたします。(^^)
感想、苦情、仕事の依頼、TRPGマスターの依頼(違)などございましたら、 お気軽にメールでも下さい。
これからの作品を作っていく上での参考と、させていただきます。
お待ちしております♪(^^)

それでは、また今度。
きっと、お会いいたしましょうか。

幻夢



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